白神祭夜①
シロさんに教えてもらった芝生の丘に辿り着き、いちおうマジックボックスに入れておいたシートを敷く。シロさんに先に座ってもらってから、俺も隣に腰を下ろすが……思った以上にコレ近いな。
そして、いざこのシチュエーションになると結構緊張する。隣に視線を動かしてみるとポニーテールにしているためか、普段は見えないシロさんのうなじが見えた。
透き通るような白い肌、少し無防備に見える首元……肩を抱くというのを強く意識しているからか、やけに色っぽく感じた。
顔に血が集まるのを実感しつつ、シロさんの肩に触れる。浴衣越しに伝わってくる微かな体温にまたドキリとしつつも、その体を抱き寄せる。
シロさんも俺が肩を抱くというのを分かっていた……というよりはシロさんの方が遠回しに要求したということもあって、僅かな抵抗もなくシロさんの体が俺に密着する。
これは、思った以上に密着度が高いというか、シロさんがこちらにもたれ掛かるような姿勢ということもあって、俺の首元にシロさんの顔がかなり接近しており、微かな吐息が首に当たる感触がくすぐったい。
あとなんかすっごくいい匂いするし、触れる髪の毛はサラッサラだし……本当になにもかもがレベルが高いというか……。
そんなことを考えつつ視線を少し降ろすと、こちらを見上げているシロさんと目が合った。宝石のように美しい金色の瞳に自分の姿が映っている。
「……快人さん」
「はい?」
「とてもいい雰囲気だと思いませんか?」
「そう、ですね――ッ!?」
呟くように静かな声で告げたあと、シロさんは不意にこちらに顔を近づけてきた。そして思わず硬直した俺の顔の前、ほんの1㎝……少しでも動けば触れそうな位置で顔を止め、いっそ心地よいほど穏やかな声で告げた。
「……まだ、花火までは少し時間がありますよ」
いつの間にこんな妖艶なテクニックを身に着けたのだろうか? シロさんの成長が大変恐ろしい。
なんとなく少しの敗北感を感じつつ、俺の方から残る1㎝の距離を詰め――シロさんの唇に己の唇を重ねた。
ほぼ同時に互いの背中に手を回し、唇以外の距離も埋めるかのように強く抱きしめ合う。他のことを考える余裕はなく、目を閉じてただただシロさんへの愛おしさで心が埋め尽くされるような感覚と共にキスを続ける。
1秒、10秒……もっとずっと長い時間そうしていただろうか、夜空に大輪の花が咲く音を切っ掛けに目を開け、そっと顔を離す。
花火の光に照らされながら、シロさんはとても柔らかな表情で俺を見つめながら微笑む。
「……最近ちゃんと分かるようになってきました。これが、幸せという気持ちですね」
「ええ、そうですね。俺も同じ気持ちですよ」
互いに微笑み合い、もう一度軽く触れるだけのキスをしたあとで、視線を花火に戻す。先ほどまでより、シロさんを抱き寄せる手に力が籠るのを実感しつつ、心に湧き上がる幸せを噛みしめながら呟く。
「綺麗ですね。これって、どこで上げてるんですか?」
「下層、中層、上層の外周ですね。ぐるりと囲むように上がっています」
「なるほど360度どこを見ても花火が見えるって感じで、凄く贅沢ですね。位置的に考えて、ここで見えてるのは上層で上げてる花火ですかね? あれ? でも、上層で花火を上げて中層とかから見えるんですか?」
360度視界を埋め尽くすように上がる花火は圧巻ではあったが、シロさんの言葉に少しの疑問を感じた。花火は上層でも上げているとのことだが、今回の白神祭の舞台は中層と下層である。
中層よりかなり高い位置に存在する上層で花火を上げたとして中層から見えるのだろうか? 頑張れば見えないこともない気がするが下から見上げるにしても、上層の大地に隠れて見えにくそうな気がする。
「ほぼ見えませんね」
「……それじゃ意味が無いような」
「いえ、意味はありますよ。いまここで見えている上層の花火は、私が快人さんのために用意したものなので」
「え? そうなんですか?」
「はい。ついでにこの神域からは中層と下層の花火は見えなくしてあります。全部見えるとごちゃごちゃし過ぎますからね」
「な、なるほど……」
この花火はシロさんが俺のために用意してくれたもの……シロさんは俺の世界の祭りをいろいろ勉強していたみたいだし、合わせて花火に関してもいろいろ調べたんじゃないかな?
これは正直、かなり嬉しい。綺麗な花火もそうだが、シロさんが俺のためにいろいろ考えて準備してくれたのが非常に嬉しい。
「……本当に綺麗な花火ですね。シロさん、ありがとうございます」
「快人さんに喜んでもらえたのなら、なによりです」
夜空に咲き誇る色とりどりの花はとても美しく、かなり計算されているであろうその光景は、芸術といっても決して過言ではない。
ただ、少し、ほんの少しだけ欠点があるとすれば……その花火よりずっと遥かに美しくて、愛おしい相手がすぐ隣にいるせいで、意識せずとも度々そちらの方に視線を向けて、その花火の光に照らされたあまりにも綺麗な横顔に目を奪われてしまうことだ。
シリアス先輩【全治五話】「あ~駄目だ。ほらやっぱり悪化した。もうこれは駄目だ……病室に帰らないと」
???「……なんか、前回までと表記が違いません? それ自分で書いてるでしょ?」
シリアス先輩【全治五話】「ぎくっ……い、いや、そんなことない! 外傷は無いように見えても、精神的に大ダメージだから!!」
???「ほ~ん……なるほど、なるほど……じゃあ、仕方ないですね」
シリアス先輩【全治五話】「そうそう、仕方な――」
???「早く治すためにドクターを呼びましょうね」
シリアス先輩【全治五話】「――は? ドクター? どういうこと?」
???「先生、お願いします」
ドクターM「まかせて!」
シリアス先輩【全治五話】「……いや、そいつマキナ……」
ドクターM「ううん、ドクターMだよ!」
シリアス先輩【全治五話】「そう言い張るならもっと努力しろよ! 聴診器下げただけで白衣すら着てねぇし、99%マキナじゃねぇか!!」
ドクターM「1%ドクターだから問題ないね。じゃ、さっそく治療しよう」
シリアス先輩【全治五話】「……嘘だろコイツ、ガバガバなのを認めた上で押し通しやがった……口論無敵か?」




