白神祭夕方⑧
クロノアさんとライフさんからお土産を受け取ったあとは、予定通りフェイトさんの神殿内にある転移魔法陣を使って神域に移動する。
移動して驚いたのは、神域の景色が日が沈みかけの夕方になっていたことだ……なんで空青いのに景色は茜色なんだろうか……。
まぁ、不思議現象に細かく突っ込んでいてはキリがない。シロさんのことだから、なにかしらの知識を仕入れたのだろう。
それに神域全体の景色も少し変わっているような気がする。というか、なんか石畳みたいな通路ができてるし、夕暮れの景色といいなんとなくではあるが、縁日をイメージしているような気がする。
花畑はそのまま……でもないな、よく見ると結構配色が変わって石畳の道にマッチするように作ってある気がする。
そんな景色を眺めつつ石畳の道を歩いていると、歩く先に少し開けた場所があり木造りのテーブルと椅子が置かれていて、その前にシロさんが立っていた。
長い銀白色の髪はポニーテールに纏められているが、それ以上に目を引いたのはその服装だった。シロさんは白地に花が描かれたデザインの浴衣に身を包んでいて、帯は落ち着いた紺色で足元もちゃんと女性ものの下駄になっていた。
……これはズルいなぁ、シロさんはそもそもの容姿が綺麗すぎるから基本的になに着ても滅茶苦茶似合う。正直に言えば、シロさんが浴衣を着ているというのはある程度予想はしていた。
最近俺の世界の祭りについて尋ねてきたりすることが度々あったし、今日も浴衣について考えた時になにかを考えているような沈黙があった。
なので浴衣姿なのはある意味予想通りだし、それが凄く似合っているのはもはや言うまでもない……しかし、今回に限ってはそれだけではなかった。
夕暮れのような茜色で静かな雰囲気、夕焼けに染まる花畑の中で石畳の道の先に立っているというシチュエーションまで含めて非常にマッチしており、なんというか背景にも凄く力を入れているように思えた。
正直これは見惚れる。ただ立っているだけなのに、とてつもなく美しい芸術を見ているかのような気持ちになる。
俺が立ち止まってそんなことを考えていると、目の前のシロさんはフッと口元に小さく笑みを作って相変わらず抑揚のない声で告げる。
「声に出して褒めてくれてもいいんですよ? 褒めると私が喜びます」
「いや、なんというか、文字通り言葉を失うぐらい綺麗ですぐには言葉が出てきませんでした」
「なるほど、嬉しいのでもうちょっと褒めてください」
「え? もうちょっと?」
誉め言葉のおかわりを要求されてしまった。う~むどうにも、なかなかにテンションが上がっていらっしゃるらしい。
「その花柄の浴衣も清楚なデザインで、シロさんの雰囲気に合ってますし、何度か見ましたがポニーテール姿のシロさんは普段とはまた違った綺麗さで新鮮ですね」
とりあえずシロさんの要望通りもう少し褒めてみると、シロさんの笑みが少し深まりどこか楽し気に頷いたので、満足してもらえたみたいだ。
そんなシロさんに苦笑しつつ、シロさんの近くに移動しながら口を開く。
「……それにしても、かなりガラッと雰囲気を変えましたね。どことなく俺の居た世界の日本と普段の神域が混ざったような雰囲気ですね」
「ええ、今回一緒に花火を見るということなので、せっかくですし快人さんの世界の祭りの雰囲気に合わせようかと、地球神にいろいろ聞いて作り変えてみました。もちろんそのままコピーするのも単調なので、アレンジはしましたが」
シロさんの言葉に頷きながら周囲を見てみると、たしかに和洋混ざった独特の感じであり、縁日に似た雰囲気でありつつも、フラワーガーデンのような感じもある。
「……へぇ、俺はこういう雰囲気の景色も結構好きですね。なんか新鮮で、見ていて楽しいです」
「快人さんに喜んでもらえたならよかったです。まだ花火まで少し時間があるので、よければ見て回りますか? ぐるっと回ってここに戻ってこられるように道は作っています」
「いいですね。雰囲気も凄くいいのでちょっと歩いてみたいです」
これはなかなか粋な提案である。夕暮れの花畑をのんびり歩くというのもいい感じだし、今日は神域の花に関して少し話を聞く機会もあったので花畑をぐるっと回るのもいつもより楽しそうだ。
「わかりました。ではその前に……甚平と浴衣、どちらがいいですか?」
「え? あ、あぁ、俺の服ですか……う~ん、浴衣ですかね」
たぶんシロさんの力によって服を変えるのだろう。動きやすさで言えば甚平だが、せっかくなのでシロさんに合わせて浴衣を選んだ。
するとシロさんが軽く指を振り、俺の体が一瞬光ると……俺の服は縦縞の定番な感じの浴衣に変わっていた。ちょっとゆったり目のサイズにしてくれたのか、結構動きやすそうな感じだ。
「ありがとうございます。それじゃ、いきましょうか……」
「快人さん、快人さん」
「はい?」
「私の両手が空いたままです。これは由々しき事態では?」
「……えっと、シロさん……」
手を繋ぎませんかと言いかけて、少し考えた。この手のやり取りは以前にもあった……となると、ここで俺が言うべき台詞は……。
「俺はどうしても浴衣を着た綺麗なシロさんと手を繋いで歩きたいので、手を繋ぎませんか?」
「ええ、喜んで……快人さん、100点満点です」
「あはは、それはどうも」
どうやら俺の誘い方はシロさんの希望通りだったみたいで、どこか満足そうな様子で手を差し出してきたので、その手を取って夕暮れの中歩き出した。
シリアス先輩(全治二話)「……え? なんで……ベットに寝転がったまま……連れてこられてるの? 全身めっちゃ痛いんだけど……」
???「無理をさせてすみません。どうしても、シリアス先輩に来てもらう必要があったんですよ」
シリアス先輩(全治二話)「う、うん? いったいなにごと……」
???「いや、割とガッツリいちゃつきそうな雰囲気だったので、シリアス先輩居ないとな~って」
シリアス先輩(全治二話)「なにお前、悪魔なの? 肉体だけじゃなくて、精神にもダメージを刻もうとしてるの?」




