白神祭夕方⑦
フェイトさんと共にクッションに寝転がってダラダラと雑談。お祭りに来たとは思えないほどのんびりとした時間を過ごしていると、クロノアさんたちとの約束の時間が近くなってきた。
「えっと、そろそろですかね? クロノアさんたちが渡したいものがあるって言ってましたけど、どこに行けばいいんでしょう?」
「あぁ、ここで大丈夫だよ。時空神と生命神にはカイちゃんが来てることは伝えてあるから」
「あれ? そうなんですか?」
「うん。けど、5時45分になるまでは絶対に邪魔するな~とも言っておいた」
「あ、あはは……」
「あ~でも、もうそんな時間か~もっとカイちゃんと一緒にダラダラしたかったなぁ」
フェイトさんと一緒にダラダラしているのは、ある意味デートみたいなものだし、俺としても短い時間で終わってしまったのは残念ではある。
まぁ、このままこの寝心地のいいクッションでダラダラしてると、本当に気を抜くと一日中ダラけてしまいそうなのは恐ろしいところだが……さすがは人を駄目にするクッションといったところかな。
「ダラダラというのはさておき、俺としても早いなぁって感じはありますね」
「ね~1時間とかあっという間だったね」
「今度改めて一緒にどこかにでも行きましょうか」
「いいね! のんびりできるところがいいなぁ。一泊ぐらいしてさ、特にアレするコレするって決めずに行き当たりばったりな感じで、気が向けば散歩に行ったりとか遊んだりとかして、ま~ったり過ごしたいねぇ」
「それは、正直結構楽しそうですね」
観光地とかに目的を決めていくのもいいが、フェイトさんの言うようにちょっと穴場っぽい静かな場所でのんびり過ごすのも楽しそうだ。
今日みたいに他愛のない雑談をしつつまったり過ごすのは、本当に心が癒されそうで是非実現させたい。なんかそう言う静かな穴場スポット的な場所でも探しておこう。
そんな話をして、名残惜しさを感じつつも乗っていたクッションから降りて、少し身だしなみを整える。一時間寝っ転がってたので、ちょっとしたシワとかを伸ばしたりした。
時計を確認すると夕方の5時42分、約束の時間まであと3分……。
「カイちゃん、カイちゃん」
「はい――「ちゅっ」――なっ!?」
フェイトさんに呼ばれて振り返ると、不意打ち気味に身を乗り出したフェイトさんが、俺の頬に軽く触れるキスをした。
突然のことに驚いていると、フェイトさんは可愛らしい笑みを浮かべる。
「……早めに来て、一緒に過ごしてくれてありがとうね。すっごく嬉しかったよ」
このタイミングでそういうのはとてもズルいと思う。大変可愛らしいフェイトさんの笑顔を見て、思わずフェイトさんのことを抱きしめたくなったが……もう間もなくクロノアさんとライフさんが来ることを思い出してグッと我慢する。
というか、フェイトさんもこれで結構恥ずかしがりなところがあるから、あえてこっちからの反撃を受けないタイミングで行動を起こしたのかもしれない。
嬉しさと気恥ずかしさが混ざったようななんとも言えない気持ちになっていると、扉が開く音が聞こえ、クロノアさんとライフさんが部屋に入ってきた。
少し顔は熱いが気を取り直して、クロノアさんとライフさんの方を向く。
「……お疲れ様です。クロノアさん、ライフさん……なにか渡したいものがあるという話でしたが?」
「ああ、急にすまんなミヤマ。いや、それほど仰々しい用件ではない」
「この後に話す時間があるとも限りませんので、このタイミングで来ていただきました。渡したいものというのは、こちらです」
軽く言葉を交わしたあとで、ライフさんがなにやら大きめの袋をこちらに差し出してきたので受け取る。
割と重い……中には、なんだろうこれ? 大小様々な箱が入っている?
「中には今回の祭りの記念に神族が作った菓子類が入っている。簡単に言ってしまえば土産といったところではあるが、菓子を作った者たちが可能ならミヤマの感想も欲しいと言っていてな」
「とりあえず一通りの種類を用意しましたので、ご友人方と食べてみてください。そしてもし気に入ったものがあれば、神族の誰にでも構いませんので伝えていただけると嬉しいです。来年以降の白神祭の参考にもなりますので……」
「なるほど、そう言うことでしたらありがたくいただきます。また、後日感想はお伝えしますね」
要するに、来年以降も白神祭の特産にしたい品のモニターをしてほしいということなのだろう。実際、今回の白神祭が切っ掛けで神族が魔族や人族と関わる機会も増えていくのだろうが、今の時点では神族は他の世界とのかかわりが薄い。
こういったモニターを頼める相手も少ないのだろう……まぁ、シロさんの祝福を受けている俺の意見を参考にしたいというのもあるのだろうが。
俺としてはまったく損はない。祭りを回っている最中は出店とかで買い食いはしたが、あまりこういったお土産的なものを買ってはいなかったので、またみんなと一緒にいただくことにしよう。
感想はよく会うフェイトさんとかに伝えればいいわけだし、大した手間じゃない上、話のネタにもなるのでいいことづくめだ。
「ちなみに、そちらは基本的に上級神たちが監修して作ったものです」
「なるほど……シアさんが監修したお菓子もありますか?」
「災厄神か? あったが……普通の人間が食せば死ぬレベルだったので没にした」
「……正しい判断だと思います」
ちょっと不安になって聞いてみると、クロノアさんが苦々しい表情で呟いたので、おそらく滅茶苦茶激辛のお菓子を作ったのだろう。
前に渡したあのヤバい食材を使ったのかもしれない……とにかく入ってなくてよかった。
???「先輩復活まであと三話……それはそれとして、激辛お菓子……メギドさんとかは喜びそうですね」




