正月番外編『笑顔の城』
遅くなりましたが、あけましておめでとうございます! 今年も作品ともどもよろしくお願いします。
魔界では年の初めの一日は魔界の頂点たる六王が指定した食品のみを口にするという共通の風習があるが、それ以外は地域ごとに新年の過ごし方というのは大きく変わってくる。
冥王陣営はクロムエイナの居城で大宴会が開かれ、多くの家族が集合する。クロムエイナが家族にお年玉を手渡すのも恒例である。
界王陣営は、過ぎた一年に感謝し新たな年の幸福を祈るという意味で歌う。精霊族や妖精族にとって歌は自然との対話ともされており、界王陣営の新年の歌唱は多くの観客が集まるほど有名な行事である。
戦王陣営は、これもまた毎年の恒例ではあるが陣営を上げてのバトルロワイヤルが開催され、王たるメギドや戦王五将も参加しまさに戦闘狂な戦王陣営らしい行事といえる。
竜王陣営は、各地の竜種がマグナウェルの元に集まり順に挨拶をするというのが恒例であり、新年の朝に空を見上げると多くの竜種が南部に向かって飛んでいくのを見ることができる。
幻王陣営は、その性質上集合したりすることもなく、各々思い思いの新年の過ごし方をする。
そして最後、死王陣営に関しては特に決まりごとはないが、異世界の正月の文化を真似て過ごすことが多い。
魔界の北部、死の大地にある死王アイシスの居城では、ワイワイと賑やかな声があちこちで聞こえてきていた。
「「クソ狐ぇぇぇ!!」」
「にゃははは、ふたり共、ぶっさいくな顔になったっすね」
死王配下幹部六連星のシリウスとラサルが、同じく六連星のウルペクラに向けて『真っ黒な顔』で怒りを露わにする。
対して、ウルペクラは非常に楽しそうでありその手には羽子板が握られていた。
「いや~逆恨みはやめて欲しいっすね。ふたりが弱っちいのがいけないんすよ。アタシはルールに乗っ取って、顔に墨を塗っただけっすよ……もう塗るとこ無くなったっすけどね。あははは!」
「グ、グググ、おのレ……」
「ここぞとばかりに煽ってくるな、この性悪狐……」
三人は異世界の遊びである羽根つきをしており、シリウスとラサルはウルペクラにそれはもうボコボコに負けていた。
顔は墨を塗られ過ぎて、すっかり真っ黒になってしまうほど分かりやすい大敗である。
「……いやはや、彼女は流石だねぇ」
「ああいう遊びで、ウルに挑むんは、無謀やと思うなぁ」
「確かにね。ところで、スピカ……それはどうなってるんだい?」
「駄目やわ、これ難しいなぁ。ウル~これって、どうやって遊べばええの?」
少し離れた場所で同じように異世界の正月遊びをしていたポラリスとスピカだが、少々苦戦しておりいまもシリウスとラサルを煽り続けているウルペクラに助けを求めた。
「ああ、これはこうしてこうっすね」
「……そんな紐でよう綺麗に回せるねぇ。やっぱり、ウルは器用やねぇ」
スピカが苦戦していた独楽を簡単に回し、紐の上に回る独楽を乗せたりして見せる器用なウルペクラに、スピカは感心したような表情を浮かべる。
そんな二人の元に、六連星のリーダーであるイリスが近づいてきた。
「お前たち、雑煮の準備ができたぞ……アイシス様とカイトはすでに席に着いている故、移動するぞ。ああ、シリウスとラサルは、その顔を綺麗にしてから来い」
「さすが筆頭殿、仕事が早いね。では、楽しい食事といこうか」
「そうっすね! アイシス様とカイト様を待たせるわけにはいかねぇっす。ほら、そこの羽根つき雑魚のふたりも、さっさと支度するっすよ」
「「ぐぬぬ……」」
イリスが周囲で凧揚げをしていたり、けん玉をしていたりする他の死王配下にも声をかけ、ワイワイと賑やかに騒ぎつつ、城へと戻っていく。
アイシスの居城の大食堂には、おせちや雑煮という異世界の正月で食べられる食事が準備されており、新年会の準備はバッチリと整っていた。
王であるアイシスの号令で新年会がスタートすると、仲のいい死王配下たちは皆楽しそうに雑談をしながら思い思いに新年会を楽しみはじめた。
『あ~拡声魔法のテストっす……こほん、それでは第六回! 新年大ビンゴ大会を開催するっすよ!!』
会場内に用意された特設ステージの上に立ち、十本の尾を揺らしながら司会進行を務めるウルペクラに会場内の視線が集中する。
『今回の賞品の一部はカイト様が提供してくれたっす。カイト様! ありがとうございます!! 全員ちゃんとカイト様にお礼を言っとくっすよ!』
尻尾を揺らしながら頭を下げるウルペクラに、少し離れた場所に座っていた快人は微笑ましげな表情を浮かべて軽く手を振る。
先ほどよりも大きな盛り上がりを見せた会場の中で、ウルペクラはさらに言葉を続けていく。
『それでは、いつも通り番号はアイシス様に引いていただきます。アイシス様、よろしくお願いします!』
『……うん……わかった……じゃあ最初は……24』
『最初の数字は24っす。ここでビンゴとかボケる奴には雪玉ぶつけるので、そこんとこよろしくっす』
箱から番号の書かれたくじを引きつつ、王であるアイシスは幸せそうに目の前の光景に視線を向ける。非常に仲が良く、いつもワイワイと楽しそうな死王配下の面々……彼女にとってかけがえのない家族と言える者たちと迎える新年はとても幸せなものだ。
なにせ、いま彼女の前に広がる光景は……彼女が見たふたつめの夢が、現実に変わったものなのだから……。
???「死王陣営は仲良しでいいっすよね……ウチとは大違いです。あっ、ちなみにシリアス先輩はクロさ……めーおーにボコられて『全治4話』とのことです。正月休みができてよかったですねぇ‥…いや、マジでキレ方が尋常じゃなかったので、今後順位でいじるのはやめときましょ……」




