白神祭夕方③
教主の軽い挨拶と祈りに若干戸惑いつつも、俺たちはスカイさんに祈りの作法を教わりながらシロさんへの祈りを行うことになった。
作法といっても細かな手順があるわけではない……いや、式典とかで行われる祈りはかなり複雑な手順があるみたいだが、今回の場は簡易のものでいいみたいで姿勢や手の組み方などを教わった程度だ。
「大切なのはなによりも気持ちです。そこさえ真摯であれば、多少の作法の失敗など問題ではありません。世界の創造主たるシャローヴァナル様への敬意と感謝、ソレさえしっかりと心の中心に置いておけば、それは立派な祈りです」
なるほど、シロさんへの敬意と感謝か……。
(ワクワク、ワクワク)
……で、その、祈られる対象の方はさっきから抑揚ゼロの声でなにをワクワクと言ってるんですか?
(快人さんが私のことを褒めてくれそうなので、とても楽しみです。褒めると私が喜びます)
あ~、そうですよね、感謝とかってなると必然的に褒めるみたいな感じになるかもしれませんね。
……やりにくっ!? 祈る対象が完全に心を読んでこっちの感謝の内容を把握する気満々な状態でとか、なかなかの羞恥プレイなんだけど!?
しかし、う~ん、感謝、感謝か……正直多すぎて、どれを思い浮かべればいいのか迷ってしまう。実際シロさんにはとてもお世話になっているし、いつも助けられている。
そりゃ天然っぷりに振り回されたりすることも多いが、それも助けられたことの方が圧倒的に多い気がする。
一度地球に戻ってこちらに戻ってからで考えても、母さんと父さんの件、家を作る時にアリスに協力してくれた件、新築記念のパーティで参加者にプレゼントを用意してくれた件……それ以外にも考えればキリがないほど浮かんでくる。
実際なんだかんだ天然で変わってるところもあるけど、シロさんは本当に優しい方だと思うし、こっちのことをいろいろ考えてくれるのは嬉しくもある。
向けてくれる真っ直ぐな好意は少し気恥しく思うところもあるが、それ以上に嬉しさや幸福感の方が圧倒的に多い。
というか、天然なところだって別に悪いわけじゃなくて、それもシロさんの魅力だと思うし、いろいろやらかすこともあるけど、最終的にいいところに落ち着くのであまり文句を言う気にもならない。
逆に褒めるところは山ほどある。最近は表情も以前より柔らかく、感情も豊かになって、正直、なんだろう可愛らしさにも磨きがかかってる気がする。
一緒に紅茶を飲んで過ごす時間を退屈だとか感じたことは一度もないし、むしろあっという間に時間が過ぎてしまうような気がする。
遊園地でのデートもバタバタしつつも楽しかったし、海水浴でも俺が想像していた以上にシロさんは周りとコミュニケーションを取ろうとしてくれていて、なんだか嬉しい気持ちになった。
まぁ、いろいろ考えても結局最終的に行き着くのは、シロさんは凄く素敵で愛おしい恋人で……なんというか、心底好きだなぁって結論だ。
なんかシロさんに伝わってることを前提と考えると、滅茶苦茶恥ずかしいけど……シロさんと会えて本当に幸せだと思うし……まぁ、なんというか、感謝っていうのとはちょっと違うかもしれないけど……愛してますよ、シロさん。
せっかくの機会な上、心の中の声なのでシロさんに以外に聞かれるわけでもないということで、少し大胆なことを思い浮かべてみた。
「……なっ」
「え? ……こ、これはっ」
するとなにやら、静寂に包まれていたはずの祈りの間に驚きや戸惑いの声が聞こえてきて、祈りのために閉じていた目を開けると……なんかステンドグラスがめっちゃ輝いていた。
シロさんの後ろ姿が描かれたステンドグラスは、ものすごく強い光を放っており祈りの間全体が光に包まれているような気さえするのだが、不思議と眩しさは感じない。
けど、あれ? なんかよくよく見ると、強い光の中に濃淡があるような……というか、その濃淡が文字みたいになってるような……。
『ドヤァ』
ドヤってる、よっぽど嬉しかったのか滅茶苦茶輝きながらドヤってる。それを見て呆れたような気持になりつつ、周囲に軽く視線を動かしてみると……ほとんどの人は、奇跡のような光景に感動したかのような表情を浮かべており、チラホラと涙を流している人もいる。
そんな中で葵ちゃんと陽菜ちゃんは、一瞬怪訝そうな表情を浮かべたが、すぐに首を振って祈りの姿勢に戻った。
……これは、たぶんアレだ。「ドヤァ」って字が日本語で書かれているから、リリアさんたちには読めず、なんかの模様とかとしか思っていない。
対して葵ちゃんと陽菜ちゃんは読めるので一瞬戸惑ったような表情になったが……『まさかドヤァなんて書かれてるわけないか、単なる光の加減でそう見えただけ』と、そう結論付けて祈りに戻ったのだろう。
……まぁ、そうだよね。普通はドヤァなんて文字が光で表現されるとは思わないよね。
突如奇跡の光景に包まれた祈りの間の中で、俺はひとりだけ取り残されたかのような……なんとも言えない微妙な心境になっていた。
【シャローヴァナルは ドヤァシャイニングを 放った】
【ドヤァの 光が 降り注ぐ】
【現地人は 文字が 読めないようだ】
【異世界人は 混乱したが すぐに立ち直った】
【快人は 微妙な表情を 浮かべている】
【シャローヴァナルは 大変ご満悦だ 繰り返すが 大変ご満悦だ】
【シャローヴァナルの テンションが ぜっこーちょーに なった】




