白神祭夕方②
たどり着いた礼拝堂は、なんというか想像よりもはるかに巨大だった。パッと見た感じでは、城のような……いや、教会の総本山の大聖堂のような、生半可ではない大きさだった。
「……無茶苦茶大きいですけど、え? 礼拝堂ってこういうものなんですか?」
「いえ、この礼拝堂は神界に現存するあらゆる建物の中で一番巨大です。シャローヴァナル様に祈りを捧げる場が、最高神様の神殿より小さいなど最高神様方だけでなく、神族全員が許しませんので……必然的にこのサイズに」
「なるほど」
外観の荘厳で神聖さを感じる造りも見事なものだし、それを見てもこの礼拝堂を神族たちがどれだけ全力で作ったのか伝わってくる。
そして、コレだけ巨大ならかなりの人数が中に入れるはずだが、それでもなお抽選倍率はえげつないというのだから、なんとも凄いものである。
「この礼拝堂の中には第一から第十までの祈りの間がありますが、皆様に関しては第一の間を用意しています。こちらは、礼拝堂内でも最もシャローヴァナル様の住まわれる神域に近い場所にあるところですね」
どうも相当いい場所を確保してくれたと思わしきスカイさんに続いて礼拝堂の中に入る。中は祭りの最中とは思えないほどの静けさで、なんとなく空気もひんやりしているというか、洗練されているかのように感じられた。
かなり体躯が大きな種族でも通れそうな廊下を歩き、たどり着いた第一の間は……これはまた凄い雰囲気の場所だった。
広間のようになった部屋の向かって正面は、超巨大なステンドグラスになっており、シロさんの後ろ姿らしき模様が大きく描かれている。
それ以外に余計な飾りは一切なく、まさにシロさんに祈りを捧げるためだけに用意された広間という印象を受ける。
かなり広々としており、中に居る人数を見る限り一人が使えるスペースはかなり広そうだ。
そしれ室内ですでに祈りを捧げている人も、かなり徳の高そうな人が多いというか……チラホラかなりガチな感じの雰囲気の人がいる。
たとえば、司祭っぽい服装に身を包み、両手を合わせて祈りを捧げている銀髪の女性などは、聖女と呼ばれてもおかしくないような雰囲気だ。
……あれ? でも、あの人……どこかで見たことがあるような?
「……お嬢様、あれ……『教主』様では?」
「……間違いなくそうですね。立場的に居てもおかしくないですが、まさか同じ祈りの間とは……」
小声で話すルナさんとリリアさんの言葉を聞いて思い出した。ああそっか、あの女性は友好都市ヒカリの代表で、勇者祭を取り仕切る役割を持つ都市の代表、教主だ。そういえば、勇者祭の時にチラッと見たような気がする。
友好都市ヒカリは、人界にありながらあらゆる国に属さない独立都市の扱いであり、彼女はそこのトップ……千年前に締結された友好条約の原典とでもいうべきものを、世界の神たるシロさんから預かって保管している存在でもある。
世界でも数少ないシロさんと直接言葉を交わしたことがある存在という話だ。ただ、それ以上に関してはあまり知らない。
「……リリアさん、教主様って神界とかかわりが深いんですか? 私は、友好条約の原典を預かってるとかってぐらいしか聞いたことないので……」
俺が考えていたとの同じ疑問を葵ちゃんも思ったらしく、小声でリリアさんに尋ねる。
「……私も詳しく知るわけではありませんが、教主様は創造神シャローヴァナル様が、友好条約の原典と締結の場である友好都市ヒカリを守護するために、特別に創造した存在とのことです。そういう意味では、神族に近い存在と言えるかもしれません」
「リリアさんの認識で間違いありませんよ。彼女は言ってみれば、最高神様の指揮下に無い独立した神族のような存在です」
なるほど、特殊な立場の神族って感じか……一心不乱に祈る姿からは、シロさんへの強い敬意が伝わってくる。
リリアさんとスカイさんの説明を聞いて頷き、俺たちも祈りを行うと思ったそのタイミングで、祈りの姿勢のままで微動だにしなかった教主がスッと立ち上がりこちらを向いた。
キラキラと輝いているような銀のロングヘアに濃い色合いの碧眼、身長は160㎝ほどで、どこか神秘的な美しさを感じさせる。
教主はそのままスッと綺麗な所作で音もなく歩き、こちらに近づいてくると……俺の前で立ち止まって、両膝をついた……何事!?
状況が飲み込めない俺の前で、教主は両手を重ね祈りの姿勢になって目を閉じて停止する。そしてそのまま十秒ほど静かに祈ったあとでスッと立ち上がり、俺に向かってペコリと小さく頭を下げてから、先ほどいた場所に戻って再び祈りの姿勢になった。
「……えっと……いったいなにが?」
「おそらく、シャローヴァナル様の恋人であるカイトさんに挨拶をしたのだと思います。彼女は極めて信仰深い者で、神聖な祈りの最中に声を出すことは絶対にしないでしょう。ただ、だからと言って同様に信仰するカイトさんになんの挨拶もしないのも矜持が許さないので、あのような形での挨拶になったのではないかと思います」
「……なるほど」
う、う~ん……気のせいかな? いまスカイさん、なんかサラッと俺も教主の信仰の対象的なこと言ってなかった? 聞き間違いだよね? 聞き間違えってことにしておきたいなぁ……。
???「まぁ、たしかにうちの面々も居ますし、狂信枠は間に合いまくってますよね」
シリアス先輩「いや、その変態集団と一緒にしてやるなよ……」




