白神祭昼⑫
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肉体的苦痛を快楽に感じ、その度合いも桁違いという超絶なドMである変態鳥、フェニックスさん……精神的な苦痛を快楽に感じ、他者を親しい相手に見たててから殺害するというシリアルキラーな一面のある変態蛇、ティアマトさん……想定しうる限りでも最悪に近い相手との遭遇である。
『我が神! このようなところでお会いできて光栄です!』
「フェ、フェニックスさん、少し声を押さえて……注目されているので」
ハッキリ言ってこのふたりは目立つ。緑色の炎が鳥の形をしているフェニックスさんもそうだが、なによりティアマトさんは巨大なラミアなので、かなり人目を引く。
実際ふたりが現れて、結構こちらに注目が集まっている感じだし、そこで我が神だとか呼ばれるのはたまったものじゃない。
『注目? なるほど、我が神はソレを不快に……少々お待ちを、周囲の連中を《焼き殺して》きます』
「いや、待って!? ストップ、ストォォォップ!! そんなことしなくていいですから!」
『むむ? 我が神がそう仰られるのでしたら』
なにこの人、いや鳥……思考回路が過激すぎる。周囲の注目を集めてるから抑えて欲しい、俺が周囲の視線を不快に感じている、つまり周囲の連中は不敬なので殺そうと、とんでもない。
実際、スッとはしゃいでいた状態から完全に目が据わった感じになったので、俺が止めなければマジで焼き殺す気だったのだと思う。
「……あぁ、やはり祭は人が多いですね。多くの人の活気あふれる姿を見ていると、心が温まる思いです……あぁ、それにしても、『仲良くなれそうな方』がいっぱいですね。きっと、とても素敵な友達になれるはず、無二の親友と言えるほどの心許せる仲に……」
「なれないです! 絶対になれないですから、話しかけたりしないでください!!」
「……そうですか、悲しいですね」
ティアマトさんは親しい相手に殺害衝動を抱く方であり、この人の仲良くなりたいという言葉は、ほぼイコールで殺したいと言ってるようなものである。
本当にどちらも濃すぎるし、ヤバすぎる……他の皆には出来るだけ、注意が向かないようにしないと危険だ。
「……アオイさん、ヒナさん、私の後ろから出ないでくださいね。割と飛びぬけて危険な存在なので、ふたりに悪影響が出ないとも限りませんので、できれば耳も塞いでおいた方がいいと思います」
さすがの有能スカイさん、葵ちゃんと陽菜ちゃんをサッと庇って、フェニックスさんとティアマトさんをふたりの視界に居れないように注意している。
「……アレって、たぶん『黒い森の怪物』だよね?」
「黒い森の怪物?」
キャラウェイがそんなことを呟くと、隣にいたアニマが首を傾げる。
「魔界でおとぎ話とかにも出てくる危険な怪物です」
「もうひとりの、死の殉教者って言われるネクロマンサーと共に、魔界でもかなり危険な存在として有名……です」
アニマの疑問に魔界出身のイータとシータが説明を入れる。ティアマトさんの住む黒い森が魔界でもかなり危険な場所というのは以前聞いたが、どうやらティアマトさん自体もかなりの危険生物として認識されているみたいだ。
……まぁ、そりゃ、そうだよね。
「……えっと、おふたりも白神祭に? というか、おふたりは仲が良いんですか?」
『ええ、それなりに長い付き合いですしね』
「はい。最高の親友と言っていい相手です。あぁ、本当に素晴らしい親友で……あぁ、我慢が……フェニックス、殺していいですか?」
『痛くしてくださいね! とびっきりの痛みを感じる殺害方法で!』
いまのやり取りで大体のふたりの関係を理解した。親しい相手を殺したくなるという性癖を持つティアマトさんに対し、親しくしたうえで喜んで殺されるドMかつ不死身なフェニックスさんという組み合せは、互いに求めるものが合致しており、相性が最高ということだ。
「……いや、待った!? こんな公衆の面前で、いきなりなにしようとしているんですか……」
「この胴体で絞殺すつもりでした?」
『いいですね、絞め殺し。私はとても好きですよ、ティアマトの胴体でとなると壁に押しつぶされるような圧迫感は癖になります。2~3回お願いします』
どうすればいいんだこの変態ども……もう収集つかないぞ。ふたりのあまりのヤバさに、どうすればいいんだと天を仰いだ直後に救いとなる声が聞こえてきた。
「はぁ、やれやれ……」
そんな声と共に、俺の前にアリスが姿を現す。その表情はいっそ輝くほどに眩しい笑顔であり、ニコニコとフェニックスさんとティアマトさんに視線を向ける。
すると、ふたりはビシッと背筋を伸ばして硬直した。心なしか緑色のはずのフェニックスさんの体が青くなっているようにも見える。
『……忘れてました。そういえば、居るんだった。ヤバいですよ、これマジでヤバいですよ』
「笑顔ですね。とても笑顔ですね。シャルティア様があの顔をする時は、割と本気で怒ってる時……地獄を見ますね私たち、とても悲しいです」
これはなんとも珍しいというか、この変態ふたりが完全に怯えている。す、すげぇな、アリス……このヤバいふたりをここまで恐れさせるとか、さすが幻王というべきか……ともかく助かった。
シリアス先輩「笑顔とは本来攻撃的な表情である」




