そのころ①
友人であるハプティを誘って白神祭に来たノイン……迷子のところを快人たちに保護され、その後、ノインたちと共に行動することになったフォルス。
初代勇者パーティとして旅をした四人のうちの三人は下層をある程度見たあとで、中層にやってきていた。
「……まさか、ここでフィーア(偽)に遭遇するとは思わなかったよ。世界は狭いね、そしてたい焼きは美味しいね」
「いやいや、全然似てなかったですよ!? 似てたのは、髪の色ぐらいじゃないですか……あと、たい焼きはやはり餡子ですね。私個人としてはカスタードは認めません」
「まぁ、後ろ姿であれば誤認する可能性はあり得ると思うがね。しかし、デニッシュたい焼きか……そもそも、この生地はなぜデニッシュ生地と呼ばれているんだろうね? 昔の勇者役が名付けたと聞くが、異世界の人名か地名でも元になっているのだろうか? 私は、どちらかといえばカスタードの方が好みだが……」
三者三様の反応でたい焼きを食べつつも、和気藹々と進んでいく。ちなみにノインは、以前の六王祭の後にフォルスから習った髪色を変える魔法でオレンジの髪にしており、髪型もサイドポニーの形にしているので、素顔でも気づかれることはなく、普通に祭りを楽しんでいた。
「なんで、ノインは認識阻害の魔法使わないの? アレ使えば、変装の必要もなくない?」
「認識阻害とか情報隠蔽みたいな特殊魔法が、どうにも苦手なんです。使えることは使えるんですが、結構気を張ってないと解けちゃうんですよ」
ハプティのなぜ認識阻害の魔法を使わないのかという問いかけに、ノインは単純にその系統の魔法が苦手であることを告げる。
ちなみにハプティは旅をしている間は基本的にフードを被っていたので、そもそも仲間以外にあまり顔を知られておらず、銅像もフードを被った状態で作られている。
フォルスは縮んでいて銅像の姿と一致しないので、ふたりも認識阻害の魔法は使っていない。
三人はそのまま雑談をしつつ、白神祭のメインとなる中層の大広場にやってきた。
ここは白神祭のメイン会場という扱いであり、来賓などはこの会場に居て、中央のステージでは神族による演劇などの出し物が行われていた。
「なにか演劇をしてますね?」
「あ~たぶんアレだ。勇者祭でよく神族が行っている創生物語だよ」
「あぁ、たしかシャローヴァナル様が三つの世界を造って、三人の最高神様や上級神様が世界の基礎や法則を生み出していっていまの世界になる……みたいな話でしたっけ? 私はあまり勇者祭に行ったことが無いので、家族から聞いた知識でしかありませんが……」
フォルスの言葉を聞いて、ノインは納得したような表情で頷く。
勇者祭はノインにとって最も参加したくない祭りナンバーワンであり、本当に数えるほどしか参加したことがない。というよりはそもそも、彼女的には友好都市ヒカリに自体あまり近付きたくないので、必然的に勇者祭からも足が遠のく形だ。
「でもアレって出し物用に作られてるって話だよね。実際はシャローヴァナル様が全部作って、あとから神族に管理を任せただけって感じの話を聞いたよ」
「私も聞いたことがあるね。まぁ、出し物として楽しめればいいんじゃないかな? それよりも、ラグナはどこに居るんだろうか?」
三人がここに来たのは、残る勇者パーティのひとりであるラグナに会うためという理由であり、それぞれ視線を動かして探すが、それらしい姿は見えない。人界の王たちが座っている貴賓席にもいない。
三人がここに来ることは事前にハミングバードで伝達しているので、貴賓席に居ない理由としては三人と会うために一時的に外れているのだろうが……かなり人の多い会場で、小柄なラグナを探すのはなかなか難しかった。
「う~ん……呼んでみよっか?」
「呼ぶ? 待ちたまえ、彼女は国王としても個人としてもなかなかの人気者だ。迂闊に呼べば騒ぎになるぞ?」
「ああ、大丈夫、名前は呼ばないから……」
そう言ってニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべたハプティは、息を吸い込んで大きな声で叫ぶ。
「お~い、のじゃロリ~どこいるの~? 実際は四人の中で二番目に若い上に、一番若いノインとも大して年齢違わないくせに、年寄ぶってるエセババアはどこ――うぉぉっ! あぶなっ!?」
楽し気に叫んでいたハプティがハッとしてしゃがんだ直後、さっきまでハプティの顔があった位置を槍の穂先が貫く。
「……」
「……やっほ~久しぶり?」
「ああ、久しぶりじゃな、ハプティ。生きていてうれしいぞ……ここで、ワシの手で殺せるからなぁ!!」
「うぉぉぉ、めっちゃキレてる!」
「貴様、よくも人が気にしていることを……」
ハプティが振り返ると、そこにはもちろん憤怒の表情を浮かべるラグナが居た。
ちなみに勇者パーティ四人の年齢は高齢順に、ハプティ、フォルス、ラグナ、ノインである。当時はハプティが魔族であったと知らなかったと考えても、フォルスがいる以上パーティ最年長ではない。
「気にしてる? 自分で言ってるんじゃん。知ってるよ、カイトとかによく自分は年寄り~的なこと言ってるんでしょ? カイトの交友関係考えると、分類するならラグナって明らかに若い側だけどね!」
「ぬおぉぉぉぉ……な、流れというものがあるんじゃ……さ、最初は老人に変装して出会ったからであって……実際その後はカイトにはあんまり言っておらん!」
「1100歳ごときで、年寄りとか……ぷっ」
「……死ねハプティ!」
「うぉぅ!?」
羞恥と怒りで真っ赤になった顔で槍を振るラグナと、煽るような表情でそれを躱すハプティの攻防を眺めつつ、ノインとフォルスは苦笑する。
「……なんというか、懐かしい光景ですね」
「ああ、ハプティがからかってラグナが怒る。呆れるほどに見たパターンだね……本当に懐かしい。まぁ、結局名前を呼ばなかった甲斐もなく、かなりの注目を浴びてしまっているあたり、ハプティは本当に生粋のトラブルメーカーだと再認識したよ」
「……同意します」
シリアス先輩「1000歳越えが若い方という事実」
???「まぁ、実際にカイトさんの知り合いの多くは数千~数万とか、それ以上ですしね。マジで若い方ですからね」




