白神祭昼⑦
感極まり目を潤ませるジークさんを見たジュティアさんは、花が咲くような明るい笑顔を浮かべながらジークさんに向けて手招きする。
「ちょっと、ちょっと、こっちに来てくれるかな?」
「え? 近づけばいいんですか?」
「うんうん、いいねぇ、いいねぇ、距離はバッチリだね! だけど、悪いんだけど、悪いんだけど、ちょっとしゃがんでもらえるかな? ちっこいボクじゃ、手が届かないんだぜぃ」
「手? えっと、はい」
ジュティアさんの言葉に首を傾げつつも、ジークさんは素直に従って姿勢を低くする。すると、ジュティアさんは手を伸ばし、ジークさんの頭に手を置いて優しく撫でながら口を開いた。
「……辛かったねぇ、辛かったねぇ、周りと違うってのはいろいろ辛いものだよね。だけど、頑張ったねぇ、頑張ったねぇ、君はとっても強い子だね」
「~~ッ……ジュティア、様……」
「いい子だねぇ、いい子だねぇ、君はとても自然を愛している。だからこそ、辛かったんだろうね。だけど、大丈夫だよぉ、大丈夫だよぉ、君はちゃんと自然に愛されてる。ボクが保証するぜぃ」
当たり前のことだけど、周りと違うというのは辛いものだ。きっとジークさんもいろいろ考えたんだろう。
自然と共に生きるエルフ族に生まれながら、自分は自然に愛されていないじゃないかとか、そんなことを考えたこともきっとあっただろう。
だからこそ、エルフ族にとって神に等しい存在であるジュティアさんからの太鼓判は、本当にどうしようもなく嬉しいはずで、ジークさんの目からは涙がこぼれていた。
そのままふたりの様子を見ていると、不意にジュティアさんの手が淡い光を放ち、その光がジークさんの体に吸い込まれていくような光景が見えた。
「……それだけ、自然を愛して愛されてる君には、きっと精霊魔法の才能だってあるさ。またリグフォレシアに帰ることがあれば、精霊樹の森を訪ねてごらん。きっと、きっと、精霊たちは君の呼びかけに応えてくれるはずだぜぃ」
「……はぃ、ありがとうございます」
なんとなくではあるが、先ほどの光はジークさんに精霊魔法に関するなんらかの要素を付与したんじゃないかと思う。
それはきっと、ずっと頑張ってきたジークさんへの大精霊からの贈り物なのだろう。
しばらくふたりの様子を見守ったあと、ジークさんが涙を拭いて立ち上がり笑顔を浮かべてジュティアさんにお礼を言ったのを見て、話がひと段落したと判断して俺たちもふたりの周りに近づく。
ジークさんの隣に立つと、そっとジークさんが俺の手を握ってきたので、その手を握り返しながらジュティアさんに話しかける。
「ジュティアさん、いろいろありがとうございました」
「いいよぉ、いいよぉ、気にしなくて大丈夫だよ。ボクも将来有望なハイエルフに会えてとっても幸せだぜぃ」
「それならよかったです……そういえば、ジュティアさんはグロリアスティーを買いに来たんですか?」
「そうだよぉ、そうだよぉ、ボクってば紅茶が好きでね。滅多にない機会だから買いに来たんだよ」
先ほどの店での買い物を思い出して尋ねてみると、ジュティアさんは紅茶が好きだという話を聞くことができたのは大きな収穫だった。
というのも、ジークさんの悩みを解決して喰えたのは本当に嬉しいし、恋人として俺もなにかジュティアさんにお礼をしたい気分だった。
だけど、神界での件のお礼も握手で終わってしまい、なにを渡せばジュティアさんが喜んでくれるかが分からなかった。
だけど、紅茶が好きという情報があるなら、それを活かさない手はない。ジークさんと一緒に買い物に出て探すのもいいだろう。ジークさんも紅茶に詳しいし、俺がひとりで行くよりいいものが見つかる。
……あっ、そう言えば……ネピュラがうちの裏手で紅茶を栽培するとか言ってたっけ? ネピュラはだいぶ自信ありげな感じだったし、もし美味しかったらそれをお裾分けするのもいいかもしれない。
「おっと、ごめんよぉ、ごめんよぉ、もっと話をしていたいところなんだけど、ボクはそろそろ失礼するよ。せっかく時間があるし、今日は精霊樹の森にも顔を出すつもりだから」
「了解です。いろいろありがとうございました」
「ジュティア様、本当にありがとうございました」
「いいよぉ、いいよぉ、気にしなくて大丈夫だよ。いろいろ話せて、とっても楽しかったぜぃ!」
ジークさんと一緒にお礼を言うと、ジュティアさんは眩しいほどの笑顔でサムズアップをしたあと、手を振りながら去っていった。
笑顔の眩しい、明るくてとても優しい方だった。そしてなにより最初に感じた第一印象は間違いではなく、本当に凄くいい人だった。
シリアス先輩「……紅茶好きの七姫……改めてお礼……絶対者の作る茶葉……どでかいフラグ建ったな」
???「いつも通りでは?」
シリアス先輩「……たしかに」




