白神祭昼⑤
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ジークさんとジュティアさんの会話は穏やかに進んでいたが、途中から少し気になる感じになってきた。というのも、少しだがジークさんの表情が曇っている……というよりは、なにかに迷うような表情を浮かべていた。
感応魔法でも躊躇するかのような感情が伝わってくるので、ジュティアさんになにかを言いたいが、言い出しにくいような感じがした。
「いいねぇ、いいねぇ、いろいろ話せて楽しいね! けど、あまり店の中で長話も駄目だよね。そろそろボクは紅茶を買ってくるよ」
「あっ、はい。長く引き留めてしまって申し訳ありません」
「いいよぉ、いいよぉ、気にしなくて大丈夫だよ! 話せてとっても楽しかったし、また機会があれば話そうぜぃ!」
考えているうちに話が終わりかけており、ジュティアさんは手に持っていたグロリアスティーらしきものを持って会計に向かおうとした。
なんとなくこのままでは駄目な気がしたので、俺はそのタイミングでふたりの会話に口をはさんだ。
「ちょっと、すみません……ジークさん、ジュティアさんになにか言いたいことというか、聞きたいことというか……なにかあるんじゃないですか?」
「およ?」
俺の言葉を聞いてジュティアさんは首を傾げ、ジークさんは一瞬驚いたような顔でこちらを見たが、すぐに俺の感応魔法のことを思い出したのか、納得したような表情を浮かべた。
そのまま少し迷うように視線を動かしたあと、ジークさんはジュティアさんに向けて口を開いた。
「……あの、ジュティア様、ご迷惑でなければ、少しだけ……お尋ねしたいことがあるんですか」
「ボクに? うん、いいよ、いいよ、それじゃあ紅茶だけ買ってくるから、外に出たあとでもう少し話そうか!」
「はい、ありがとうございます」
聞きたいことがあるというジークさんに対し、ジュティアさんは明るい笑顔で了承の言葉を返す。そのままジュティアさんはグロリアスティーを購入してきて、皆で一旦外に出て通りから少し外れた場所に移動する。
この辺りは富裕層向けのエリアということもあって、それほど人は多くないので人気の少ない場所もすぐに見つかった。
そこで改めて向かいあったジュティアさんとジークさん……ジークさんはやはりなにかを迷うような表情を浮かべていたが、少しして口を開く。
「……その、私は……自然魔法にも精霊魔法にもまったく適性が無い……落ちこぼれのエルフなんです」
「落ちこぼれ? え? ジ、ジーク、いったいなにを……」
「リリやルナにも話したことはなかったですね。エルフ族は自然と共に生きる種族……種族特性とでもいうんでしょうか、エルフ族は基本的に才能の差はあれど誰もが自然魔法か精霊魔法に適性があるんです」
ジークさんの親友であるリリアさんとルナさんも驚いていたが、実は俺は少しだけその話についてジークさん本人から聞いたことがある。
一緒にリグフォレシアに行った際に、晩酌をしていた時に少しだけ己に自然魔法と精霊魔法の適性が無いということを呟いていた。
ただ、あまり踏み込んでほしくはなさそうだったので、それ以上聞いたりせずに別の話題に移行したが……。
ジークさんの言葉を聞いて、ルナさんは少し考えてからなにかを思いついた様子で口を開いた。
「……そういえば、おとぎ話に飛べない有翼族の話がありましたね。ごく稀に種族特性を持たずに生まれるものが居るとか……」
「ええ、私はエルフ族の歴史でも極めて珍しい自然魔法と精霊魔法、どちらにもまったく適性のないエルフでした。しかも、私の父は先代の国王が頭を下げて招くほどに優秀な魔法の使い手で、母は筆頭精霊魔導士がライバルと明言するほどの精霊魔導士だったので、期待されていた分周囲の落胆は大きかったみたいです」
その言葉に皆なんとも言えない表情を浮かべる。周りの同族たちが当たり前に持っている適性を持たずに生まれてくるというのは、正直俺が想像しているよりもずっと辛いものだろう。
「あっ、だかって別に迫害とかされたわけではありませんよ。父も母もエルフ族内で発言力はかなり強かったですし、私自身も大抵の相手には負けないぐらい強かったので……まぁ、だからこそ『適性さえあれば』とか言われたことはありましたけどね」
「……もしかして、ジークがレイさんやフィアさんとリグフォレシアに帰らなかったのは……」
「リリの傍を離れる気にならなかったというのが一番大きい理由ですが……あまりリグフォレシアに帰りたいと思わない気持ちがあるのも否定できません」
ジークさんは人界でも屈指の実力者であり、宝樹祭の時にはレイさんももう敵わないかもしれないと言っていたので……それこそエルフ族内でもトップレベルの強者なのだろう。
だからこそ、才能溢れる存在だからこそ、当たり前の適性を持っていなかったことを、ジークさん自身かなり気にしていたんじゃないかと思う。
そしてなぜそれをここで聞こうとしたのかも理解できた。ジュティアさんはエルフ族が祀る精霊たちの上に立つ大精霊であり、エルフ族にとっては神のような存在ということだし……聞いてもらいたかったんじゃないだろうか? ジークさんが、いままでエルフ族として抱えてきた苦しみを……。
その話を聞いたジュティアさんは……なぜかキョトンと不思議そうな表情を浮かべていた。
「……う~ん。不思議だねぇ、不思議だねぇ……精霊魔法に関しては、相性とかもあるから置いておくとして。『ハイエルフに進化するほど自然に愛されている』のに、自然魔法が使えないってのは驚いたね。ビックリだよ、ビックリだよ、自然魔法が使えないハイエルフは流石のボクも初めて聞いたぜぃ」
「ええ、そうですね。自然に愛されて進化されると聞くハイエルフが自然魔法を使えないなんて、とんだ笑い話――え?」
「うん?」
「……あの、ジュティア様? 私は普通のエルフですか?」
「……いや、『どう見てもハイエルフ』だぜぃ?」
……あれ? なんか変な流れになってきたな……なにか両者の間に大きな認識があるような、そんな感じがした。
~書籍版との違い~
書籍版
快人はジークの適性についてリグフォレシアでガッツリ聞いており、リーリエによってジークがハイエルフに進化していることも明かされている
WEB版
快人はリグフォレシアでさわり程度しか聞いておらず、ジーク自身己がハイエルフに進化していることに気付いていない。




