白神祭昼④
大樹姫ジュティアさんとの富裕層向けの店舗での二度目の遭遇。本当にどんな確率だと驚いてしまう。
胃を押さえているリリアさんには申し訳ないが、それでもジークさんもジュティアさんと話したがっていたみたいだし、こうして偶然会えたのはよかったかな?
チラリとジークさんの方を見てみると、ソワソワした様子ながら近づいてくる感じはない。たぶん、俺の話が終わるまで待ってくれてるのだろう。
それなら、先に俺の用件……以前の神界での件のお礼を伝えることにしよう。
「ジュティアさん、以前の神界の件では力を貸していただいて、ありがとうございました」
「ああ、どういたしまして。えへへ、嬉しいねぇ、嬉しいねぇ、お礼の言葉ってのは、とっても素敵だね。こっちも幸せになっちゃうよ」
「それで、簡単なものですけどお礼の品を用意したんですが……食べ物と小物とどちらがいいでしょうか?」
「どっちもいらないよ……って言いたいところだけど、それだと、それだと、君が困っちゃうかな? じゃあ、こうしよう! 片手をパーにした状態でこっちに出してくれる?」
「え? こ、こうですか?」
不思議な要求に首を傾げつつも、右手を開いて前に出す。するとジュティアさんは俺が差し出した手を握って握手をして、嬉しそうな笑顔で手を上下に動かす。
「えへへ、いいねぇ、いいねぇ、とっても暖かくて優しい手だね。うんうん、自然に愛されてる子って感じだぜぃ!」
「えっと……」
「それじゃあ、それじゃあ、ボクへのお礼はこれで十分だよ」
「え? ええ? 握手がお礼?」
「そうだよ、そうだよ、これで十分すぎるぐらいさ。だってね、だってね、君がこうしてわざわざ笑顔でお礼を言ってくれて、幸せな気持ちを分けてくれた。その上、自然に愛される優しい君と握手もできた。いいねぇ、いいねぇ、いまのボクってばとっても幸せでいっぱいだぜぃ! これ以上なにかを貰っても、ちっちゃなボクの手じゃ持ち切れないよ」
ニカッと眩しいほどの笑顔を浮かべながら、ジュティアさんは心底楽しそうに話す。感応魔法で伝わってくる感情も真っ直ぐな楽しさと好意であり、ジュティアさんの言葉が事実であると、これ以上本当にお礼は必要ないと思っていることが伝わってきた。
「嬉しいねぇ、嬉しいねぇ、あの戦いを乗り越えた君が、いまとっても幸せそうで最高に嬉しいぜぃ」
そう言って手を放しサムズアップをするジュティアさん……さすがにここまで言われてしまっては、強引になにかを渡すというのも気が引ける。
なので、ジュティアさんの綺麗な緑色の目を真っ直ぐに見て、もう一度お礼の言葉を口にする。
「……ジュティアさん、もう一度だけ言わせてください。本当にありがとうございました」
「およ? えへへ、追加されちゃったか~。嬉しいねぇ、嬉しいねぇ、今日はとってもいい日だぜぃ」
少し話しただけでも、ジュティアさんが滅茶苦茶いい人というのは伝わってくるし、明るいこの人との会話は楽しい。
ただ、あまり長々話していると、ジークさんに悪いので、こちらの用件はある程度終わったという意味を込めてジークさんに視線を送る。
するとそれを察したジークさんは一度頷き、ガチガチに緊張した足取りでジュティアさんに近づく。
「……あ、あのっ、ジュ、ジュティア様!」
「うみゅ?」
「は、初めまして、私は、え、エルフ族で……ジークリンデと申します! お、お会いできて光栄です!」
ジークさんがここまでガチガチになってるのは初めて見る。よっぽど憧れの相手みたいで、感応魔法でもかなり強い緊張が伝わってきた。
そんなジークさんを見て一瞬キョトンとした表情を浮かべたジュティアさんだったが、すぐにニコッと明るい笑顔を浮かべた。
「そっかぁ、そっかぁ、エルフ族の子か~。いいねぇ、いいねぇ、君が声をかけてくれて、ボクはとっても嬉しいぜぃ! 知ってるみたいだけど、ボクはジュティア。よろしくね」
明るく笑顔を浮かべるジュティアさんを見て、ジークさんも少しほっとしたのは少しずつ会話が進んでいく。
その光景を見ていると、ルナさんが近くに来て話しかけてきた。
「……ジュティア様は非常に温厚で有名な方でして、一般人が声をかけても笑顔で対応してくれますし、急ぎの用事が無ければ世間話にも付き合ってくださるそうですよ」
「あ~なんとなくわかりますね。ジュティアさんってめっちゃいい人っぽいですしね」
たしかにジュティアさんは、なんというか声をかけやすい雰囲気がある。人柄というんだろうか、例えば街中で道を聞きやすいと思う人というイメージか、快く対応してくれそうな雰囲気がある。
実際最初ガチガチに緊張していたジークさんも、いまは結構楽し気にジュティアさんと話している感じがする。
シリアス先輩「……思ったんだけどさ」
???「なんすか?」
シリアス先輩「七姫って、それぞれ個性は結構強いけど、全員いい奴って感じがするよな」
???「そっすね、うちの変態どもとは大違いですね。半分ぐらい交換してくれないですかねぇ……というか、いったいこの差は何なんですかね」
シリアス先輩「……やっぱり、幹部は王に似るんじゃない?」
???「だったら、十魔は皆品行方正なはずでしょ」
シリアス先輩「え?」
???「え?」




