白神祭昼②
スカイさんの案内でレストランに移動する最中にも、白神祭の様子が見えた。やはり中層は下層と比べて神界独自といった感じが強く、露店がずらりと並んでいるというよりは遊園地などのようなテーマパークをイメージする光景だった。
見ているだけでも結構楽しく、あのイベントはなにをやっているのだろうとか皆と話しながら歩くのも非情に楽しい。
あぁ、祭を満喫しているなぁとそんなことを考えながら、キョロキョロと視線を動かしながら歩いていく。
しかし、視線を動かしていたのが悪かったのか、少々浮かれて注意力が散漫になっていたのか、俺は横方向から歩いてきた人物にぶつかってしまった。
相手はこちらを避けようとしていたのに、相手が近くに来てから気付いた俺が、慌てて避けようと動いたせいでお見合いの形になりぶつかってしまうという……完全に俺が悪い形である。
しかも、結構な衝撃がきたので、割と強くぶつかってしまったみたいだ。
「す、すみません! 大丈夫ですか?」
「およ?」
「完全に、俺の不注意でした」
慌ててぶつかった相手に謝罪する。130㎝程のかなり小柄な女性であり、ウェーブがかったこげ茶色の髪でポンチョに似た少し変わった服を着ていた。
なにより目を引いたのは女性の頭の横から後方に向かって生える二本の角……ドラゴンというよりは、日本的な龍の角をイメージする形だが……よく見るとその角は木で出来ていた。
女性は緑色の大きな目をこちらに向けて一瞬キョトンとした表情を浮かべたが、俺が頭を下げるのを見るとニカッと弾けるような笑顔を浮かべた。
「いいねぇ、いいねぇ、元気がいいね! ボクってば、元気のいい子は大好きだぜぃ! けど、少しだけ周りには注意した方がいいかもね」
「本当に申し訳ない」
「いいよぉ、いいよぉ、そんなに気にしなくてもさ! それよりも、ボクの方はなんともないけど、君の方は怪我とかないかな?」
「あ、はい。俺の方はなんとも……」
女性はニコニコと満面の笑みを浮かべながら話しかけてきて、感応魔法で伝わってくる感情も非情に好意的なものだった。どうやら、とてもいい人みたいだ。
「そっかぁ、そっかぁ、それじゃあ、この件はマイナスじゃなくてプラスだね!」
「え?」
「だってそうだろ? お互い怪我がなかったなら、ぶつかったおかげでこうしてボクたちは話ができたんだ! 嬉しいねぇ、嬉しいねぇ、新しい出会いってのはとっても素敵だね!」
明るい笑顔でサムズアップをしながら、可愛らしい声で告げる女性……本当に明るくて気のいい感じの人だ。
「だけど、ごめんよぉ、ごめんよぉ、できればもっと話がしたいところだけどさ、ボクってばこれから行くところがあってね。今回はこれで失礼するよ」
「あっ、はい。引き留めて申し訳ない」
「またねぇ、またねぇ、今度またどっかで会ったら、どの時はもっとゆっくり話そうぜぃ!」
終始ニッコニコと見ているこっちまで楽しくなるような笑顔を浮かべつつ、もう一度サムズアップをしたあとで、軽く手を振りながら女性は去っていった。
ぶつかってしまったのは反省するべきだけど、相手が気のいい人で本当によかった。少し変わった喋り方をする人だったけど、いい人なのは間違いない、
そんな風に考えながら、皆の方を振り返ると……なぜかリリアさんが地面に膝と手をついて項垂れていた。
「お嬢様! お気を確かに!」
「……なんでですか、なんでこの人はいつもこうなんですか……この広い会場で、なんでこう次々と……もうやだ、カイトさん怖すぎる」
……あれ? なんだこの妙な空気。リリアさんの反応にも驚いたが、リリアさんだけじゃなくもうひとりショックを受けたような表情で肩を落としている人がいた。
「あぁぁぁ……お、驚きすぎてすぐに反応が……せ、せっかく、お話するチャンスだったのに……」
……ジークさんである。え? 本当にこれ、どういう状況だ? リリアさんの反応だけなら、まだわかる。先ほどの女性は結構有名な方だったとか、そんな感じだろう。だけど、ジークさんのこの反応はいったいなんだろう?
そんなことを考えつつも、とりあえずリリアさんの慰めているルナさんに説明してもらおうと声をかけた。
「……あの、ルナさん。先ほどの方はいったい……あと、ジークさんの反応は?」
「先ほどの女性は、界王配下幹部七姫の一角、『大樹姫ジュティア』様です」
「えぇぇぇ!? そ、そうなんですか!?」
いや、リリアさんの反応で有名な方だとは分かってたんだが……まさか、七姫の方だったとは……もうちょっと話して、お礼を言っておけばよかった。
ああ、いやでも、どこかに行く予定があるみたいだったから引き留めるわけにもいかないか……。
「ええ、私も驚きました。というか、ミヤマ様の恐ろしさを改めて実感しました……まぁ、それはそれとして、ジークの反応についてですが、ジュティア様はエルフ族が宝樹と呼ぶ『精霊樹の大精霊』でして、エルフ族にとっては信仰する神のような存在なんですよ。ジュティア様と話すことができれば幸福になれるという話もあるぐらいです。まぁ、早い話が……お嬢様にとってのニーズベルト様のような存在ですね」
「なるほど……よく理解できました」
つまり、ジークさんにとっては憧れの相手みたいな感じで、その相手と偶然会えたのに言葉を交わせなかったのを悔しがっている感じかな?
なるほど……さ、さすがに、俺が意図したものじゃないし、リリアさんに怒られたりはしないと思うけど……ふたりが立ち直るまでには、もう少し時間がかかりそうな気がする。
シリアス先輩「……第三のボクッ娘の登場ってわけか」
???「第三? 第二は?」
シリアス先輩「黒須絵里奈」
???「ハプティちゃんは?」
シリアス先輩「あれは、実質アリスと同一人物だから除外」
???「なるほど……」




