薔薇姫との遭遇④
カミリアさんを挟んだ通訳などを行いつつ、なんとかロズミエルさんの自己紹介も終えて展示ブースの中に入った。
やはり事前予約必須で人数が絞られていることもあって、中はかなり空いている印象だ。
そしてやはりというかなんというか、中は美術館っぽい雰囲気で、一定の間隔ごとに展示物が置いてあり、それについての説明などが書かれている感じだ。
とりあえず順番に回っていこうということで、俺たちが移動したのは……なんか、カラフルで変わった形の壺が置いてある場所だった。
説明では、第十回勇者祭が終了したあとに、芸術神が記念で制作した世界に一つしかない壺らしい。
……正直サッパリ分からない。
「……う~ん、芸術というのは難しいものですね。私にはイマイチよくわかりませんね」
「展示されるぐらいだから凄い作品だとは思うんですが……リリアさんは分かりますか?」
「え? わ、私ですか?」
俺と同じような感想になったらしいルナさんが呟き、葵ちゃんもそれに同意したあとでリリアさんに話を振る。
「ええ、貴族のリリアさんならこういう芸術品にも詳しいのかなぁと」
「そ、そうですね。素晴らしい品だと思いますよ」
これはなんとなくの直感ではあるが、リリアさんもあんまり分かってなさそうな気がする。いや、もちろんリリアさんは貴族としてそういう美術品的なものも多く見ているし、いろいろ良し悪しも分かるんだろうけど……この壺に関しては分かってない気がする。
というか、基本的にリリアさんは嘘が付けない人なので、焦っているのがまるわかりなのである。
「おお、さすがお嬢様ですね。それで、具体的にどのあたりが素晴らしいのでしょうか?」
「ぐ、具体的に?」
そして、リリアさんがあんまり分かっていないのを百も承知で、嬉々として追撃をかけるのが安定のルナさんである。
「……か、カラフルなところ、ですかね」
「また……えらく雑な感想ですね」
まぁ、正直俺も変な壺以外の感想は出てこない。やたらカラフルだし、ぐにゃぐにゃと歪んでるし、どこがどういいのか、さっぱり分からない。
そう思っていると、陽菜ちゃんがスカイさんの方を向いて口を開く。
「スカイさんは、分かりますか?」
「いえ、正直私には変な壺としか思えません。分かる人には分かるらしいのですが……まぁ、芸術というのはそういうものだと思いますし、なんとなく凄いものだなぁぐらいの感想でいい気がしますね」
「たしかに、それが正解のような気がしますね」
自分もよく分からないと告げるスカイさんの言葉に俺も同意する。たしかに、芸術というのは分からない人にはとことん分からないものだ。
実際他の皆もよく分かってない感じだし、芸術に詳しい人でも居ればどこをどう見ればいいのか教えてくれたりするのかもしれないが……。
「なんですか、エリィ? えっと……『この壺は勇者祭で行われる芸術コンテストの優勝作品を順に表現していて、下から順に第一回から第十回までの作品の特徴を表現している』? ああ、だから、やけにカラフルで複雑な形をしているんですね」
ロズミエルさんがカミリアさんの耳元で囁き、それをカミリアさんが伝えることで俺たちにも聞こえてくる。なるほど、たしかにそう言われて見て見れば下から十層に分かれているような気がするし、彫刻っぽい部分もあれば油絵のように見える層もある。
「……『100年間の芸術の移り変わりを表現していて、一番上の壺の口はあえて形を崩すことで、今後も芸術の形は変化していくってのを表現した力作だと思う』……なるほど、さすがエリィ。そういった想いの込められた作品なんですね」
「これはなんとも、素晴らしい解説ですね。どこかの公爵家当主とは格の違いを感じますね」
「……ルナ、貴女、この展示ブースから出たら覚悟しておいてくださいよ」
どうやらロズミエルさんは、芸術に造詣が深いようで、分かりやすい解説を入れてくれたおかげで、壺を見る目が変わった気がする。
変化していく様を作り出し、さらにこれから先未来が移り変わっていく……時代と共に芸術も変わっていくのだと、そんな表現が詰め込まれた意欲作に見えてきて、いい壺のように感じられる。
「ロズミエルさんって、芸術に詳しいんですか?」
「……」
ロズミエルさんの厄介なところは、言葉を発しないだけではなく、完全に固まっているので頷いたりもしないということだ。
本当に感応魔法が無ければ、感情を察するのが非常に難しい気がする。とりあえず、この場においてロズミエルさんが会話できるのはカミリアさんだけなので、カミリアさんによる通訳は必須だ。
本当になんというか、本人が16時間かかると言っていたように、心を開いてくれるにはまだまだ時間がかかりそうである。
シリアス先輩「なんか警戒心の強い猫みたいな感じがする」
???「たぶん、一度心を開いてしまえば、その後は普通に会話できるようになるんでしょうが、最初の一歩に時間のかかるタイプですね」




