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エピローグ

 レーヴェンクラウ大学、みずがめ座寮。

 雪が降りしきる中、フリューゲルはアーチェリーの部活から帰ってきた。

 時刻は夕方の四時を過ぎたころ。食堂にはすでに、ほかの寮生とともにエルナとフランカもいる。

「お帰り、フリューゲル!」

「お帰りなさい。ココア、ありますよ?」

「うん、ただいま! じゃあ一杯もらおうかな。部屋に弓とコートを置いてくるね!」

 フリューゲルはそう言って一度階段を駆け上がり、コートを脱いだ姿で食堂にやってくる。その頃にはすでにフリューゲルのココアが用意されていた。

 その後、三人はほかの寮生と交代でシャワーを浴び、寮母が作った夕食を平らげ、そのまま食堂で勉強会を開き、最後はフリューゲルの部屋でお茶を楽しむ。

 飲み物はカフェインのないもの。ノンカフェインの紅茶やレモネード、ハーブティーなど。たまにお菓子を持ち出すことがある。この日のお菓子は、清涼感のあるラムネのタブレットだった。

 男子禁制の女子寮の一部屋で繰り広げられるのは、脈絡のないガールズトーク。いろんな話題で会話を楽しみ、たまに盛り上がって大笑いする。ガールズトークは時間が経つのも忘れさせ、気がつけば就寝の時間が近づいてきていた。

「じゃあな、フリューゲル。」

「おやすみなさい、よい夢を。」

「うん、ふたりともありがとう。おやすみね。」

 エルナとフランカが部屋を出たあと、フリューゲルは携帯電話のアラーム機能をセッティングし、それを机の上にある充電スタンドに置く。そしてそれまで魔法で部屋を照らしていた照明をフィンガースナップ(いわゆる指パッチン)で消し、布団にもぐりこむ。厚手の毛布とふかふかのダウンが、冬の寒さからフリューゲルを守ってくれる。

「えへへ、あったかい……」

 そして横たわったまま、左手でレースのカーテンをめくる。

 外では今もしんしんと雪が降り積もっている。今日の部活の行き帰りも一苦労だったのだ、明日になれば授業の時間を減らしてでも、学生職員総出で雪かきをしなければならなさそうだ。

 それでもフリューゲルは、ふっと微笑み、小さくつぶやく。

「ハーゼ…… 今、あなたはどこで、この空を見てる?」


 やがて。

 フリューゲルの部屋には、小さな寝息だけが静かに響く。

 相変わらず雪は降り続く。雪の結晶の枝が絡まりあって大きな綿のようになって、レーヴェンクラウ大学を、エルデの町を、ふかふかの雪が覆い尽くしてゆく。シャックスと戦ったショッピングビルも、魔法で瞬間移動したあのエルデ電波塔も。町の全てが、雪に覆い尽くされてゆく。

 そして、フリューゲルの机で明日の朝に持ち主を起こす役目を与えられた携帯電話が、スタンドに収まったまま静かにその時を待つ。通学に使うカバンも椅子の上に載せられている。アーチェリーのセットがしまわれた縦長のケースも机に立てかけられている。

 そして机の上にある本棚には、虹色の羽根のペンダントも飾られている。そのペンダントの隣には、あるものが飾られていた。

 大切な先生、エリックがくれたもの。

 夢を守ってくれるお守り、ドリームキャッチャーだった。


 ――「フリューゲル。虹は、渡れると思うか?」

 ――「きっと、できますよ! 虹を渡ることも超えることも、きっとできます。わたしならできます。わたしいつか絶対に、虹の上から広い世界を見渡して見せます!」


 フリューゲルはきっと。

 今夜も、いい夢を見るだろう。






《Fin》

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