2-1 副会長の座
希白は無言で扉の外の廊下を進み、そのままま龍我たちが入ってきた階段のほうに行くのかと思いきや、左に曲がるところで、彼女は静止した。
龍我も慌てて止まり、希白の顔を見つめる。
目の前の壁には、エレベーターのような扉が2つあるのだ。器用に右側にはバラの花瓶までも添えて。
「階段じゃぁ疲れるのよ。だから最近、エレベーターがついたの。…他の人の寮室の階とちょっと違うつくりになってるから…この階。使いにくいけど、使ってね」
龍我は頷き、ふと疑問に思ったことを口にしてみる。
「あぁ。分かった。…ところで、俺の寮室…っていうのは?ダイヤモンドクラスの人達と同じ寮室なのか?」
さすがにそれは気が引ける…などと考えていた龍我だが、彼女は首を横に振った。
「それはつらいでしょう?だからとりあえず、生徒会長室の隣の部屋を使って。あそこ今空き部屋なのよ」
副会長室が空き部屋…というのはどういうことなのだろうか。考えても分かるはずのない疑問を眉を顰めながら考えていると、希白の苦笑の声が聞こえてきて、ハッと顔を上げる。
「…この学園の原理は覚えているでしょう?」
「あぁ。学力が左右するって…」龍我はコクリと頷き、そう呟く。
エレベーターの無機質な機械音だけが、耳に響いてくる中、希白はそっと口を開いた。
「えぇ。副会長って微妙な位置なの、分かるでしょう?だから維持できる人、少ないのよ」
そう言う彼女の瞳は、細かく震えていて少し悲しそうな表情だった。
龍我に女性と関わるなんてことまったく無かったので、どういう声を掛けたらいいのか分からず、気付けば思い付きで話していた。
「…じゃっ、じゃぁ、俺が副会長になればいいだろ。次のテストの時に」
目を見開き、バッと龍我を見るその瞳は、本当に驚きを隠せない顔だ。
龍我は微笑し、頭を掻いた。
「俺、テストだけには自身あんだ。南春宮でも落ちなかったし」
指を3本立てながら龍我が口にした言葉は、希白にとってとてつもない自信にあふれている声に聞こえたり、意地を張っているような声にもとらえることができた。
でも。でも何故か。
不思議と、彼の言葉には安心感がとてつもなくあるのだと実感したのだった。
希白は苦笑し
「…ふふっ。そうね。それだと私も心配要らないわね。そういうことなら、なお副会長室使いなさいよ。」
エレベーターが丁度その時来て、扉が開く。
「なんでそうなるんだよ」
そう言う龍我をよそに、希白は足を運び大きな機械の箱の中に入ると、”5階”を選択した。
慌てて龍我も乗り、希白の近くには立たずやや離れて立つ。
しばらくすると扉が閉まり、ゆっくりと重力が上からかかる。
希白は重力を感じながら小さく口を開いた。
「今から慣れておけばいいじゃない。それに、副会長室と会長室は秘密の扉で繋がっているの。」
「秘密の扉?」
希白は龍我のほうへと向き、クスッと微笑んだ。
「生徒会長がこの学園を握っているのだから、運営とかも全て会長任せ。でも、一人では決められないことも多いから、副会長と密談みたいなことをすると気に使う扉のことよ」
「へぇ、そんなのがあるのか。」
「…さ、ついたわよ。まずはエントランスの紹介よ。」
5階という表記でエレベーターが止まり、扉が開く。
すると、目の前にはとてつもなく大きな空間が目に留まった。今はほとんどが授業中なのだろうか。生徒はちらほらとしかいない。
「ついてきてね」
希白は数歩進んでいた足をクルリと回転させ、こちらを向くと微笑んだ。
第二弾となります。
この話は、ブロローグも兼ねているので、第一弾の話の振り返りを少しだけしています。
また、四魂学園物語。を楽しんでくれれば幸いです!