山もオチも意味もない、一見意味のわからない会話劇
正直、タイトル通りというか、タイトル以上の酷い出来になってるかもしれん。
だがこれ以上に作品のネタが浮かばんかったんだ、許せウメコ……。
「クソがぁ……クソが! クソが! クソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソがクソが! クソがぁぁぁぁっ! イライラが治まらねえぜ! それこそ頭から火が出そうなぐれーになぁ! っっがああああああああああああああああああああああああ! ……っふあー……あー……」
「ちょっとちょっとちょっとぉ、一体全体どうしたのよ。そんなにキレちゃって」
「何があったんじゃい?」
「……んー、まあ、何だ。さほど大したことじゃねーんだがな。チト許せねーことを思い出しちまってよ。いや本当、大したことじゃねえんだ。」
「いやいや何言ってんのよ。そんなにキレてる時点でもう大したことでしょうが」
「っちゅうか一大事じゃねえかい。頭から火が出そうとか、明らかにチトどころじゃねえじゃねえか」
「いや、然しなぁ」
「然しも案山子もねーじゃろが。そんなに怒り狂いよってから」
「ともかく話してみなさいよ。あたし達で良ければ聞くわよ?」
「あー……そうか? じゃあ、話させて貰うけどよぉ」
「うん」
「何じゃい」
「俺さ、こんな喋りからじゃ想像できねーだろうし、さして自慢できるようなことでもねえんだが、浮世じゃそこそこ名の知れた由緒正しい生まれのもんでよ。親とか家族とか親戚とか、そういう奴らの期待を一手に背負って生まれてきたんだよ。あと、とんでもねぇ大御所の名前も背負ってたっけな。
んで、その家族ってのは『楽しい時を作る』とか『夢の力で未来を照らす』なんてのが口癖でよ。いつも俺達を立派に育てようと親身に、必死になってくれてた」
「いいご家族じゃないの」
「ああ、俺の家族はまさしく最高さ。俺らの為に、そして顔も知らねえ誰かの為に全力を尽くす、最高の家族だよ。だから俺は、そんな家族の期待に応えようと頑張った。何度も失敗した。それこそ数えきれねー程に。だが俺は、俺達は諦めなかった。勿論家族もだ。そして努力の甲斐あって、俺達はその年で最高の逸材として独立することになった。こう言うと俺達が頑張ったみてーに聞こえるが、実のところはほぼ家族のお陰と言っていい」
「いや実際お前も頑張ったと思うが……まあええわ」
「で、そんなこんなあって俺達は確かに完成され、独立の時を待ったんだ。俺達の使命はただ一つ。持てる全てでもって雇い主を満足させることだ。何をされたとしても逆らっちゃいけねぇ。その覚悟はできていた。どんな酷い雇い主だろうと、限界まで耐え抜いてみせると誓った」
「ふむふむ……それで、どうなったの?」
「結論から言うと、俺は雇い主に巡り合えた。四十ぐれーの夫婦だったかな。小学生になるぐれーの、丁度俺達みたいなのが必要な年頃のガキがいるらしくて、そいつの元へ向かうらしかった。俺はその為に窮屈だが豪華な特別仕様の衣装を着せられ、おっさんに雇われた。そしてそれから二週程経って、俺は実質的な雇い主であるガキと出会った。頭は悪そうだったが、その分活気に溢れてる奴だったよ」
「ほうほう。それで、そのガキはどうじゃったんじゃ?」
「一言で言やあ、ガキはすげえいい奴だったよ。とにかく俺を大切にしてくれて、俺をダチのように扱ってくれてな。大切にしろという、親どもの言いつけをこれでもかと守る奴だった。そもそも親どもは普段からガキにモノを大切にしろ、ぞんざいに扱うなと躾けてたようでよ。それのお陰なんだろうと思ったね。正直、もっと過酷な生活を想定してただけに予想外だったが、幸せなことに変わりはなかったぜ」
「でも、貴方は酷く怒り狂っていたのよね?」
「……そうだ」
「それほど大切にされとったおめーを、何がそこまでキレさしたんじゃ?」
「……コトが妙な方向に拗れ始めたんだよ。それは俺が雇われて三ヶ月か半年が経った頃だったか。その頃にもなると俺はとっくに過去の存在になっていた。そうなると普通なら俺達は飽きられるもんだが、ガキは相変わらず俺に夢中で、俺を大切にしていた。それそのものはスゲーいいことだったし、ガキも俺も幸せだった。
……だが、どうもガキの親どもはガキが俺と仲良くしてんのが気に食わなかったらしい。やがてガキへ言いがかりをつけちゃあ小言を言うようになり、小言は説教や怒鳴り声になり、ガキの心はどんどん荒れ果てていった。ガキは孤独だった。俺だけがガキの癒しだったんだ。だが親どもはそんなガキの話をろくに聞かず、ガキの言う事を詭弁と決めつけ甘ったれのクズだと決め付けた。そしてガキにわけのわからねえ平べったい束を押し付けた。ガキは不服そうな顔をしていたが、親どもは相変わらずガキの話など聞きゃしねえ。自分達だけが正しいんだと信じてた。ガキは束に文字や図形を書かされることを強いられあらゆる自由を奪われた。勿論俺に触れることなんて出来やしねえ。だがそれでも、ガキは親どもの目を盗み俺に仕事をくれていた。それがガキの癒しだったし、俺の癒しでもあった。働くことこそ俺の本望、唯一の生き甲斐だったからな。だがそれもやがて親どもにバレ、俺とガキは引き離された。ガキがどうなったのかは知らねえが、度々悲鳴とすすり泣く声が聞こえてた時点でどうなってたかは言うまでもねえ。一方の俺はと言えば、親どもの手によって薄暗くて埃だらけの汚え監獄みてーな所に監禁された。そこには俺と同じように監禁された奴らが何人も居た。そいつらもまた、殆どが仕事を奪われた奴らだった。中にはその中が気に入ってて、たまに働きに行けるという奴もいたが、そんなのはごく一部だった。それどころか、監禁されすぎてとっくのとうに精神がイっちまった奴もいた。どっちにしろ、そいつらは俺の境遇に同情してくれたよ。曰く、あの親どもは一見まともそうに見えてかなりイカレた奴ららしくてよ。昔はそうでもなかったし、イカレるのも一時的なもんですぐ正気に戻ってたらしいんだが、近頃は戻れねーぐれぇ狂っちまっててヤベーと言ってた。そして俺は地獄に耐えた。ガキと再会できる日が来るって信じてな」
「……それで、その子とは再会できたの?」
「ああ、できたとも。親どもはガキに俺を忘れさせようと監禁したつもりだったんだろうが、逆効果だったんだ。ガキは親どもの目を盗み、俺を探り当てた。俺達は再会を果たしたんだ」
「そうか……」
「だが、その生活も長続きはしなかった。俺はガキの指示で上手いこと隠れていたんだが、それさえも親どもは見抜いていたのさ。そして俺は再び別の、もっとひでえ場所に監禁された。だがやがてまたガキが探しに来て、俺達は二度目の再会をした。ガキは干物のように痩せこけ、髪はボサボサでそこかしこアザや生傷だらけだった。そんなガキの有様を見て、俺はもう離れたくねえと、そう思った。だがまたも親どもに見つかっちまった。親どもは俺の身柄を渡せとガキを脅した。だがガキは俺を奪われまいと必死で抵抗した。そして痺れを切らした親どもは、遂にガキを二人がかりでぶち回し始めた。そして俺は親どもに捕まっちまった。ガキは泣いていた。俺も泣いた。そして親どもはそれに腹を立て……」
「腹を立て……何じゃ?」
「腹を立て……どうしたの?」
「俺の体を空高く持ち上げ、そのままアスファルトの路面に叩き落としやがったんだ」
「「っ!?」」
「当然俺の身体はあちこちボロボロになった。
もうまともには動けねえ。
ガキはそれを見て更に泣いた。
だが親どもはそれでも容赦せず、ただでさえボロボロになった俺の身体をゲンノウでぶっ叩き粉々にした。
ガキは余計に泣いた。
喉が張り裂けそうになる程に。
親どもは勝ち誇ったような顔をしていた。
そして親どもは、粉々になった俺の体をゴミとして捨てた。そして俺は死んだんだ」
「「……」」
「死に逝く中で、俺は絶望に打ちひしがれ、怒り狂った。どうしてこうなったんだと思った。だが答えは出なかった。ガキは親の言いつけを守っていた筈だった。『モノを大切にしろ』っつー言いつけを守ってた筈なんだ。親どももガキの為に俺を雇った筈だった。あの時俺を選んだ夫婦の目は、確かに澄んでいた。純粋に親だったんだ」
「「……」」
「だが、何かが拗れちまった。そのせいで親どもは戻れないほどに狂い、ガキは苦しめられ、俺は殺された。俺はそれが許せねえ。狂った親どもが、或いは親どもを狂わせた何かが、もしくは俺自身が、とにかく許せなかったんだ。そしてそれは今でも変わらねえ。俺は怒りに苛まれてるんだ」
「「……」」
「すまねぇな、こんな暗い話しちまってよ」
「……いや、ええんじゃ。おめーは悪うねぇ」
「……そうよ。あんたは悪くないわ。勿論あんたを雇ったっていうその家族も、きっとね……」
「そうかね」
「そうよ」
「そうじゃとも」
「……ありがとうよ」
●解説
まず最初に言っておくと、頂いたリクエストの内容は「道具視点の話」であった。その点踏まえて以下の文章をお読みいただきたい。
本文中に登場した男・女・老人の三名は、何れも一種の付喪神が如き存在である。
但しその誕生プロセスは付喪神というより一種の怨霊に近いものであり、彼らはあくまで実体を持たない自我のあるエネルギー塊のようなものに過ぎない。
次に劇中で主役として過去を語っていた男が何の付喪神であるのかという事について。端的に言えば、彼は元々ある種の玩具である。イメージとしては特撮ものの連ドラに登場する戦闘ツールを再現したなりきり玩具だろうか。
彼が家族と呼ぶのは玩具メーカーのデザイナーや技師、或いは流通担当者といった経営者達で、『雇われる』というのは購入されることなのだ。
と、ここまで解説しておけばあとは現実で何が起こったのかを読者諸君が推測することなど容易であろう(キーワードにもそれっぽいの設定しといたし)。
よって、いい加減極まりなく丸投げ感が半端ないのは覚悟の上でこの後書きの方もこの辺りで締め括らせて頂こうかと思う。