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条件特別2

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条件特別戦 パドック周回

場所:馬主席

語り:エリス

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 さて今日も私一人で馬主席まで来たのですが、また余計なのがいます。


 さっきから少し離れた場所からヴィルマが私を睨みつけているのです。


 出走表を見てみればまた当てつけで同じ馬をぶつけて来ているようです。


 そしてその馬が一番人気ですか。


 まあいいでしょう。


 人気なんていくらでもあげます。


 今日は特別レースで、勝者にはそれなりの記念品がもらえるそうですから私をそれを頂くとしましょう。



 うちの馬を見ていたら先生の仰る通り馬体の細化は随分解消できたようです。


 今日も2桁の回復を見せていますし、つくべき所にちゃんと筋肉がついてきています。


 先生の仰る通り間隔を開けた甲斐がありました。



「エリス、エリスったら。」


 折角人が物思いに耽ってるのに相変わらず無粋な女です。


 おまけにまた勝手に人のテーブルについてますし。


「何でしょう?」


「イレイザーも経験を積んだし、今日こそ負けないわよ。」


「そうですか。頑張ってくださいね。」


「頑張ってくださいって・・・バカにしてるの!?」


 やれやれ本当に騒がしい。


「ケイトはいないのかしら?」


「ケイトは今日は出走馬がいないから来てないわよ!それより話聞いてる?」


 ケイトがいればこの騒がしい娘を何とかしてくれるのですが頭の痛い事です。



「今日こそうちの5番手があなたの所の一番手より上だと証明して見せるわよ!

 他の馬だってうちのイレイザーを怖がって回避続出だったんだし。」


 そう言ってヴィルマは私に競馬新聞を見せました。


 イレイザーが圧倒的な一番人気で単騎逃げが見込めるスポートが対抗。


 うちの馬はこちらでも三番人気のようですね。


 実際に表示されてるオッズと変わりません。


 まあ人気は最終的には馬券を買う人によって決まりますが、それまでの流れは専門家が作ります。


 これは当たり前の光景なのでしょう。


 それまでの成績が成績ですし前走をフロック視されてもしかたありません。


 おまけに先生のコメントが笑えます。


『走ってみなければわからない。』


 本当に正直な方です。


 それにしても残念です。


 前と同じ配当でしたら今回も祝勝パーティと上等な餌代両方出してもお釣りが十分出ましたのに。


 おまけに七頭しかいないんじゃたかが知れてます。


 まだ前回の払い戻し金は充分残ってますし、今回の払い戻しと合わせてそれらの資金を捻出しましょう。


 それにしても私自身のあの馬に対する考えも随分変わったものです。


 私も先生に乗せられたのでしょうか?


「フフフフフ」


 いけない。思わず笑いがこぼれてしまいました。



「な・何よ。ねえエリス。さっきから聞いてるの?」


 ヴィルマはそう言いつつもどこか身構えています。


「ヴィルマ。」


「な・何よ。」


「イレイザーは5番手ではなく実質2番手でしょう?

 あなたの所の2・3番手は揃って故障中、4番手は放牧調整から未だ帰らず。との事ですわよね?」

 

「そ・そうだけど・・」


「三歳馬が今の時期にその状態だったら春の大レースはどれも間にあわないはず。

 だからイレイザーが実質2番手という事になりますわ。」

 

「それが何よ!」


「いえ。馬が可哀想だと思っただけですわ。」


「はあ!?」


「実質2番手の馬がオーナーの娘の我が儘で人に合わせる様な使われ方をされて・・」


「ほっといてよ!!」


 そう言ってヴィルマは立ち去って行きました。


 周りを見回すとまた余計な視線を集めています。


 前回もお父様から程々にするようにと窘められたばかりですのに。


 本当に頭の痛い事です。



 あら?そう言えばあの娘、今日は一度もロールパン弄りをしませんでした。


 体調でも悪いのでしょうか?


 まあどうでもいいですけど。




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条件特別戦 本馬場移動

場所:馬道

語り:俺

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 パドックでアニーを乗せた俺は本馬場へ出る時にリナの様子を窺ってみた。


 俯き加減だった前回と違ってちゃんと正面を見て歩いている。


 良かった。リナには心配かけたくないもんな。




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条件特別戦 返し馬

場所:本馬場

語り:俺

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 本馬場に出てリナは多少心配そうにオーエンは落ちついて俺とアニーを送り出してくれた。


 今度はリナもちゃんと歩いている。


 心配いらないな。



 改めて馬場に出てみるとこの競馬場の様子は中山によく似ていた。


 ゴール前の急坂や小回りなコース形態や短い直線。


 さっきのおっさんの新聞に出てたコースの絵を参考にしたら中山の2200Mとほぼ同じ感じがする。


 前回同様基本的には先行有利なんだが、経験の浅い馬同士だったら意外と差し追い込みで決まる事もある。


 それと回るカーブが全体として緩いので、狭い競馬場でのコーナリングが苦手な馬によるロングスパートが決まる事も時々あって馬券検討はなかなか難しい。



 走る側として気をつけるのは距離以上にスタミナがいる事かな。


 スタンド前通過とゴール直前で2度の坂越えがあってコーナーが緩い分ペースが落ちない。


 そこは気をつけないとな。


 スポートが行くだろうからイレイザーの後ろにでもつけるか。


 そこで様子を見ながらイレイザーをどこかで交わせば勝てるだろう。




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条件特別戦 返し馬

場所:馬主席(スタンド側カフェ)

語り:エリス

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 本番前にスタンド側のカフェに移動してコースが良く見えるカウンター席を確保しました。


 お茶でも注文しようかとウエイターを呼ぼうとしたら、誰かが無言で私の隣に座りました。


 こんな事をする人は一人しかいません。


「何か御用?ヴィルマ。」


「ご一緒してもいいわよね。」


「断ってもいるおつもりでしょう?」


「そうよ。」


 まあいいでしょう。


 お茶くらい奢ってあげますわ。



 こうして見ると7頭しか出走しないレースというのは、やはり寂しい物があります。


 うちの馬は誘導していた先生とリナと別れて、今返し馬に入ったようです。


 イレイザーも同じ方向に行きました。


 双眼鏡でよく見てみるとハンスとアニーが何事か話してるようです。




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条件特別戦 返し馬

場所:1コーナー過ぎ

語り:アニー(エリスズナイト鞍上)

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「ようアニー。調子はどうだ?」


 またこいつは性懲りも無く。


 アタシがどれだけ嫌ってるかわからねえのか?


「またお前かよハンス。」


「おいおい。そんなに嫌う事は無いだろう?」


「うるせえよ!お前が言ってた16番人気の馬の事で今は頭が一杯なんだよ!

 わかったら向うへ行け!」


「僕は相手はスポートじゃなくて君の馬だと思ってる。

 お嬢様も同じ見解だけどね。」

 

「逃げ馬捕まえるのは本命の仕事だろ?

 ちゃんと仕事しろよ。」


「スポートは当然負かすさ。前回だってそうした。だが君の馬の方が強敵だ。

 前回はノーマークの出しぬけを食らって負けたけど今日はそうはいかないぜ。」


「ああそうかよ!」


 ハンスのバカはようやく離れて行った。


 ほんと一回引っこ抜いてやろうか?




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条件特別戦 2200m スタート直前→スタート

場所:スタート地点

語り:俺

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 4コーナー出口地点で俺は輪乗りの輪に加わっていた。


 こうして改めて見るとイレイザーの馬体や雰囲気はいい。


 人気を背負うのも当然だろうな。


 スポートは同じ年齢でも歴戦の勇士の様な佇まいだ。


 きっとここまで経験を積み上げて実力をつけてきたんだな。


 でも他の馬も言うほどの差はなさそうだ。


 ひょっとして上位3着以内に入ってくる馬がいるかもしれない。



 ファンファーレが鳴ったけど前回より何というか凝った曲だった。


 特別になるとやはり違うのかもしれない。


 俺達は前回同様2-3頭ずつゲートに入れられたが今回は早い。



 大外のスポートが入ると同時に合図があってゲートが開いた。


 俺は前回同様抜群のスタートを決めて先頭に立った。


 アニーは前回みたいに押さえる気は無いようだ。


 うん。それでいい。


 外からスポートが出ムチを入れてやってきた。


 そのまま行かすつもりだったけれど何とアニーは俺に3発も左ムチを入れてきた。


 はあ?こいつより先に行くのか?


 そんな疑問がアニーに伝わったのかはわからないが、「行けよ!!」と俺に向かって叫んで手綱を押してきた。


 仕方ないな。


 俺はスポートと速度を合わせて1コーナーに飛び込んで行った。


 後はコーナーワークで内のこっちが有利だ。


 相手が無茶な騎手や馬じゃない限り2番手辺りで折り合いをつけるだろう。


 この展開に


「おいおいアニーそりゃねえだろ?」


 とスポートの騎手が言った。


 声の感じからするとベテランだな。


「悪いな。キースのおっさん。今日だけは勘弁してくれよ。」


「仕方ねえな。今日だけだぞ。今度酒場で会った時は一杯くらい奢れよ。」


「あいよ。」


 とアニーは愛想良く返事した。


 そうか、このベテランはキースと言うのか。


 前回良いペースでレース作ってたよな。



 そこで収まるかと思ったら、


「おいおいおまえもかよ。ハンス。」


 ともう一度キースの声。


「すみません。僕も今日だけ許してください。」


「仕方ねえな。お前もだぞ。」


「はい。」


 イレイザーは俺の真後ろにいてピッタリと俺をマークしていた。


 馬群は俺とイレイザーの二頭が先行、5馬身以上離れてスポートがポツンと単騎、更に5馬身離れて残りの4頭がダンゴになっていた。




△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race

条件特別戦 2200m 

場所:1コーナー過ぎ

語り:アニー(エリスズナイト鞍上)

△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race


 ハンスのバカ慌てて追ってきやがった。


 笑えるぜ。




 最終追い切りの後で、あいつをリナに引き渡してからアタシはオーエンのオッサンと作戦会議をしていた。


「おいアニー。さっき言ってた試したい事って何だ?」


「逃げてみようと思う。」


「逃げるって・・情報では徹底先行のスポートが出るって話だぞ。」


「そいつより外枠だったり無理な競り合いになりそうだったら諦めるさ。

 でもスポートに乗ってるキースのオッサンは機転がきくからあんまり無茶はしないだろ?」

 

「まあそうだが。何でそう思ったんだ?」


「前回あれだけチグハグなレースになったのに大捲りを打って勝てたんだ。

 母親譲りの末脚がある事はよくわかった。

 しかも持続性があるし大したもんだ。

 でも言わせてもらえば、最初からまともな情報貰ってたらあんな無茶しないで済んだんだがな。」

 

 そう言ってアタシはオッサンをちょっと睨んだ。


「ま・待て。私が言ってた事は本当だ。

 実際に言ってた通りの馬だったんだ。」

 

「冗談さ。だが前走で大幅な変わり身を見せてくれたのは確かだし、血統通りの実力を見せ始めている事は認めるさ。

 だがクラスが上がったら、いつもあんな戦法で勝てるとは限らねえ。

 前回は未勝利クラスで骨っぽいのは実質三頭だけで、その中の本命と対抗がお互いけん制し合ってた事も大きいだろ?」

 

「まあな。だがよくあれだけの多頭数を捌けたな。

 さすがアニーだ。」

 

「それはあれだ。誰だって引っこ抜かれたくはねえだろうしな。」


「引っこ抜く?何だそれは?」


「まあ気にすんなって。」


 そう言ってアタシはオッサンの背中をバシバシ叩いた。


「痛い痛い。わかったからやめろ!」


 オッサンは半分涙目になっていた。


「今はさっきみたいに併せ馬だって普通にこなしてるんだろ?

 まさかG1古馬相手にあれだけやるなんてびっくりしたけどな。」


「まあな。だが本番でどうなるかはわからん。

 前回は馬の勢いとコース取りで併せ馬の格好にはなってないからな。」

 

「そうだな。だから今回は。」


「それを試すと言うのか?」


「そう言う事。出だしでスポートと3-4コーナーや直線でハンスのキザ野郎が乗ったイレイザーとも試すチャンスがある。」


「まあ、条件戦で試せるならそれに越した事は無いが・・」


「それと前走恐ろしく出足が良かったからな。

 先行した時のレース振りを是非見たいんだよ。

 さっき言った様にクラス上がったら前に行ったやつもなかなかバテないぜ?」

 

「そうだな。色々課題はあるが頼むぞアニー。」


「アタシが言いだした事だ。ちゃんとやるさ。」

 

 

 

 さて今日はおあつらえ向きの最内一番枠で出だしも最高。


 キースのオッサンも引いてくれたし、打ち合わせ通りの逃げのレースをしてみるかな。





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