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国王杯 ゴール後

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国王杯 芝2400M

場所:王立競馬場 馬主席

語り:エリス

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 ゴール直後、馬主席で私は大勢の方々に囲まれて握手攻めに遭っていました。


 何人の方に祝福の言葉をかけて頂き、何人の方にお礼を申し上げたのかわからない程です。


 でもなぜかお父様がいません。


 レース前にどこかへ行ってしまわれてそのままです。


 ご自分の馬が勝ったというのに、どういう事でしょうか?



 それが一段落すると、


「おめでとうエリス。また負けちゃったね。

 残念だけどハインケルには完敗だ。でも随分ナイトとの差は詰めたよ。」


 とケイトが言ってきました。


「ありがとうございますケイト。」


 私はそう答えながらも、レスターの成長力に驚いていました。


 グラジエーターのスタミナ切れの原因の一つはレスターと競った事。


 更にその直後にナイトと叩き合ってあれだけのレースをしたのです。


 何と言いますか、末恐ろしい気がします。



 今掲示板を見ますと1着がハインケル、1馬身1/4差で2着がナイト、短頭差でレスター、4着は長い間写真判定になっていましたが、4馬身半差でグラジエーターとグローヴァーが同着で分け合いました。


 ローズ家の馬が勝者も含めて5頭中3頭を占めて、生産馬という事であれば4頭を占めた事になります。


 結果としては十分過ぎると言えるでしょう。



「エリスおめでとう。悔しいけど仕方ないわね。

 それにしてもエリスの所が上位独占かあ。

 あーあ、ついこの間までうちが優勢だったのになあ。」


 とヴィルマがやっと口を開きました。


 確かにそうですね。スカーレットカップまではアボット家がこちらより遥かに優勢でした。


 そして何かを思い直したように、「でも路線を変えたらうちには楽しみな馬が一杯いるからね。」と言ってきました。


「ありがとうございます。ヴィルマ。」


 私がそう答えていると、フロアスタッフからメッセージカードを渡されました。


 それによると差出人はお父様で、私も表彰式に出るようにとの事です。


 お父様は表彰会場で待っているとの事。


 今回は勝利馬主に対して国王陛下より直々に記念品を賜るそうで、ローズ家にとって大変名誉のある表彰式となるでしょう。


 ナイトは負けてしまいましたが、ローズ家の一員として私も出る事に致します。




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国王杯 当日夜

場所:オーエン厩舎

語り:俺

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 レースが終わり俺は厩舎に帰って来た。



 何というか、今回は一番疲れた。


 今まで走った中で一番タフなコースだったせいもあるだろうし、負けた事による精神的なものもあるのかも知れない。


 でも最大の原因は今までの蓄積疲労だろう。


 完全に疲れが抜け切る前に急遽仕上げてレースを使われた反動が大きいと思う。



 リナはそんな俺を心配して「大丈夫?」と撫でながら声をかけて来た。


 まあ疲れはあるけど死ぬほどじゃない。


 それより負けてしまってごめんよ。


 わざわざスクーリングもしてくれたし、いつもより長時間調教にも付き合ってくれたのに。



 リナはそんな俺の想いを知ってか知らずか、こう言ってくれた。


「私はね、今回は相手が強くなっただけじゃなくて、ナイトの状態が良くなかったから特に心配だったの。

 だからこうしてナイトが怪我をしないで帰って来てくれたことが一番嬉しいの。

 勿論勝つに越した事は無いけど、2着だって十分立派だと思う。」

 

 何か涙が出そうだ。


 本当にリナの言葉が身に染みた。




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国王杯 翌日 朝

場所:オーエン厩舎

語り:俺

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 何と言うか調子が悪い・・・



 今日は厩舎で休養だけど体がギシギシ音を立てそうな感じすらある。


 前回のグラジエーターと衝突したランカスターカップの時よりずっと酷い。


 おっ、翌日検診のために獣医がやって来たな。


 何か良い薬は無いかい?獣医さん。



 初老の獣医は、俺をひとしきり調べると腕組みをして唸っていた。


 そこにリナがやって来たけれど、獣医に何か言われてすぐに引き返して行った。


 俺としては、リナに撫でてもらったら少しは良くなる気がするんだが・・・



 獣医は相変わらず難しい顔で俺を見つめている。


 暫くすると、リナに連れられてオーエンもやって来た。


 リナの顔は真っ青だ。




「どうした?先生。骨折でもしてるのか?」


 とオーエンが心配そうに聞いた。


「いいや脚じゃない。」


 と相変わらず難しい顔で獣医は答えた。


「じゃあどこだ?」


「強いて言えば全身だ。とにかく疲れが酷いな。

 今回はランカスターカップの後の比じゃないぞ。」


「うーん。こうなる可能性を考えないわけじゃなかったが・・」


 そう言ってオーエンも考え込んでしまった。



「当然休養には出すんだろう?オーエン。」


「ああ、そのつもりだ。どのくらいかかる?」


「そういう考え方じゃダメだな。」


「どういう事だ。」


「とにかく治るまで戻すな。期限なんて関係ない。」


「そこまで酷いのか?」


「今回無理をさせたツケが利息をつけて帰って来たのさ。

 事情が事情だから仕方ないとは言えるが、こいつにとってはとんだ災難だ。」

 

 そう言いながら獣医は俺を見た。



 その後オーエンと獣医の話は続いたが、俺の状態は俺が思う以上に悪く、放牧はどうやら避けられない様だ。




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国王杯 翌日 昼

場所:ローズ家 応接間

語り:ローズ公爵

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 私はとある事情で、アボット家の当主であるアボット公爵と話し合っていた。



「それは間違いないのかい?ローズ公爵。」


「ああ。」


「困ったね。君の所で結果が出てるし、あの馬には僕も期待していたんだが。」


「私もだ。これで随分考え直しを迫られる。」


「生き物を扱う以上宿命とは言え、こうなると辛いね。」


「そうだな。」



「でもうちはまだ影響が少ないけど、君の所へは相手から実際に要請があったんだろう?」


「ああ。所で君はどうする?もし入るなら当然便宜を図るが。」


「持つべきものは友だねやっぱり。是非仲間に加えておくれ。」


「わかった。状況が変化したら連絡させてもらう。」


「ありがとう。」


 この話し合いが無駄に終わればそれに越した事は無いが、多分そうならない。


 少し遅いか早いかだけだろう。



「所で最近君がエリスを表に随分出したがってる様だけど、何か考えがあるんだろう?」


「やはり君にはわかるか。実はな・・・」


 私が話した内容を、アボット公爵は感心したように聞いていた。


 そして「よし!うちもそうしよう!」と私と同じ決意をした様だ。






<ナイトの出走レースについて:その5 3歳古馬混合G1>

 3歳古馬混合G1は3歳クラシックG1の春シーズン終了後から行われる。

 まだ初夏の頃だと4歳以上の古馬の方が強い時期ではあるが、その分3歳は斤量で優遇される。

 3歳の場合トップクラスが出て来る上に、成長の勢いも味方につけて古馬を打ち破って勝利する馬も少なくない。

 牝馬は更に斤量が軽くなるので、能力の高い3歳牝馬は侮れない。

 因みに斤量1Kg辺り1馬身のハンデと言われる。


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