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国王杯 最終調整

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国王杯 開催週 最終調整 早朝

場所:王立競馬場 芝コース

語り:俺

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 俺はアニーを背に芝コースを軽く仕掛けて1本、その後キャンターで流した。


 言う間でもなく全体的に軽めだ。


 このコースは殆どが坂だし、良い感じの負荷はかかってると思う。


 でもアニーは難しい表情をしている。


 まあいつも割と強めで仕上げてたからな。


 俺はそのままアニーを乗せて滞在厩舎まで帰った。




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国王杯 開催週 最終調整 早朝

場所:王立競馬場 滞在厩舎

語り:アニー

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 難しい所だな。


 悪くは無いと思うが威張れもしない。


 今回は万全を望めないから仕方ないけどな。



 滞在厩舎が見えてきたらオーエンのオッサンもリナも難しい顔で立っていた。


 厩舎に着いて馬をリナに渡したら早速オッサンが状態を訊いてきた。


「どんな感じだ?アニー。」


「馬体は別に太くねえし、仕上がりとしては悪くねえけど、うーん。」


「物足りないか?」


「まあな。一番良かったランカスターカップの時ほどの状態じゃねえな。

 良くてトライアルくらいか。」


「私もその位が限度と思っていたから、一応予定通りではあるな。

 ただ帰厩後はこのコースを想定したトレーニングに特化してきたから、その成果が出ると良いと思ってるがな。」


「ああ。これ以上は望んじゃいけねえのはわかってる。

 いつもの年だったら最低でも牧場でもう一か月は休ませるべきだと思うしな。」


 本当にこれはそう思うぜ。


 アタシはハンスみたいなやつには厳しいが馬には優しいんだ。



「それでようオッサン。」


「何だ?」


「ハインケルとグローヴァーはどうなんだ?」


「二頭とも順調だぞ?どうした本番は乗り換えるか?今ならまだ変更が効くぞ?」


「バカにすんなよ!?アタシは単純に気になったから聞いただけだ!

 二頭ともアタシが前回まで乗ってたからだぞ!?」

 

「わかった、わかった。そう怒るな。」


 全く、このオッサンは・・・



「どっちかと言えばハインケルの方が期待出来るな。

 グローヴァーはお前も知っての通り今の所試行錯誤してる段階だ。」

 

「そうだな。キースのオッサンが今回の騎乗で何か新味を引き出してくれたらいいんだが。」


 グローヴァーについてはアタシも行き詰まってた。


 だから純粋に興味あるんだ。


 キースのオッサンがランカスターカップでラージワンに乗った時みたいに何かやってくれるんじゃないかって。


 そうなったら正直悔しいがアタシも騎手をやって行く上で勉強になる。



「それにしてもナイトは本当に覚えが良いよな。オッサンもそう思わないか?」


「そうか?」


「ああ、軽く一週した時も下りは意識してゆっくり降りてたし、コーナーも出来るだけ内を回ってた。

 リナのスクーリングが良かったのかも知れないけどな。」


「そう言えばお前言ってたな。ナイトは無駄な事をしないって。」



 ここでアタシは肝心な用事を思い出した。


「あっそうだオッサン。今日は枠順の抽選だったよな?

 後で一緒に会場に行こうぜ。

 また良い所引いてくれよ。今度は両脇にも気を付けてな。」

 

「注文の多いやつだな。全く。」




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国王杯 開催週 最終調整 正午前

場所:王立競馬場 枠順抽選会会場

語り:アニー

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「おいこらオッサン!!いい加減にしろよ!!アタシに対する嫌がらせか!!」


 アタシはオッサンの胸倉を掴んで揺さぶった。


「コ・コラ!放せアニー!仕方ないだろ!クジなんだから!」


 よりにもよってこのオッサンは一番最初にクジを引いたくせに大外12番を引きやがった。


 馬の調子が上がらねえ時はせめて枠順でフォローしろっての!全く!




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国王杯 開催週 最終調整 昼下がり

場所:王立競馬場 滞在厩舎

語り:俺

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「ナイト、枠順決まったよ。」


 おっ待ってました。


 おや?リナの表情が暗いぞ?


「あのね。大外12番だって・・・アニーがかなり怒ってた。」


 アニーが怒る気持ちもわかる。


 これは参ったぞ。


 昨日今日とコースを回ったけど、ここは内に張り付いてた方が絶対有利だ。


 芝の状態も絶好だしな。



「他の馬のも知らせるね。

 3歳から行くよ。グラジエーターは4番、良い所だね。レスターは1番、いつも内にいる感じだしここは良いね。

 うちの古馬はね。ハインケルは3番、羨ましいな。グローヴァーは6番、まあ悪くないね。

 他所の有力所はね。ブルーザーはナイトの隣の11番、コロネは2番だね。」



 有力所の殆どが内かよ。


 これじゃ増々好位の内側に潜り込むのが難しくなる。


 今回は間違いなく俺が一番の貧乏くじだな。


 あーもう。出来れば人間の姿になってアニーとミーティングしたいくらいだ。




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国王杯 開催週 最終調整 夜

場所:王宮 パーティ会場

語り:エリス

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 今この会場では国王杯に馬を出走させる馬主や関係者が集まるパーティが開かれています。


 先程から私は周りの皆様から同じ話ばかり振られています。


 一緒に来ていたお父様はどこかへ行ってしまいましたから、皆さん私の方に来られるのです。



「ねえ、エリス。ナイトは大外だよね。かなり不利じゃない?」


 あなたもですか、ヴィルマ。本当にこの娘は人をうんざりさせる名人です。


「あなたで8人目ですわ。そのお話。」


「だって有力所の一頭なんだから誰だって気になるじゃない。

 所で調教パターンを変えて大丈夫だった?」

 

「その質問は5人目ですわね。」


「出し惜しみしないで教えなさいよ。」


「現状でやれる所までやったとしか申し上げられませんわ。」


「オーエン先生も同じような事言ってたわね。」


 私に訊く前に既に先生に訊いていたのですか?この娘は。



「ナイトは今年のランカスターカップの勝ち馬なんだから、普段なら一番人気よ?

 人気を背負う以上それなりの情報開示は義務じゃないの?」


「人気なんてどうでも良いですわ。人気で成績に箔がつくわけじゃありませんから。」


「まあそうなんだけどね。今年は結構上位人気が拮抗するみたいだし、出走前まで分からないわよ。」


「それよりもデビュー以来一番人気を他馬に譲った事が無いグラジエーターの単勝を山ほど買わなくて良いのですか?」


「当然買うわよ。山ほどは買わないけど。エリスこそナイトの馬券で相当儲けてるでしょう?」


「前回のランカスターカップはミストラルを見張ってましたから馬券は全く買っていません。」


「まあそうよね・・・私は事前に人に頼んで買ってもらってたけど」


 全く。そういう所は抜け目がない娘です。



「やあ二人ともドレスがお似合いだね。」


 ケイトの登場の様です。


「ありがとうございます。ケイト」


「本当?ありがとうケイト。」


 これでヴィルマの興味がケイトに向けば良いのですが・・・


「所でエリス。ナイトは大外枠だけど大丈夫かい?」


 これで9人目。ヴィルマがこちらを見て意地悪そうに微笑んでいます。




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国王杯 開催週 最終調整 夜

場所:王立競馬場 滞在厩舎

語り:俺

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 大外枠かあ・・・


 決まったものは仕方がないがそれなりに対処が必要だ。



 だがどう考えても良い結論に達しない。


 日本にいた頃ここと似たヨーロッパの競馬場のレースをいくつか映像で見た事がある。


 馬群を多少離して逃げた馬がそのまま逃げ切ったレースもあったけど、それは例外に近かった。


 大体は一団の馬群で進んで4コーナー出口でばらけての直線勝負といった感じだった。


 その馬群も結構密集していて隙が無い。


 日本では大逃げする馬や最後方からポツンと行く馬をG1でも時々見る事があるけど、ヨーロッパのレース映像ではそんなレースは無かった。


 まあ俺が知らないだけかも知れないけどな。



 そうなる理由はよくわかる。


 スタートでの下り坂での速度の付きすぎや、道中ずっと続く登りでの消耗を出来るだけ抑えるためだ。


 トライアルやランカスターカップでは、坂の頂上からゴールまでの300mはほぼ平坦になってて絶好のスパートポイントになっていた。


 でもここはゴールまでずっと登りが続くから、圧倒的な力差が無いと相手をごぼう抜きにする様な脚は使えない。


 あまり後ろからだと届きづらいのはその為だ。



 逃げも考えてみた。


 だが出足はグラジエーターが速そうだし、こんな外枠からそれを上回る勢いで内にコースを取っても、加速がつきすぎて道中バテてしまう。


 これは早々に諦めるしかなさそうだ。


 やはり逃げ馬を眺めながらの好位には付けておきたい。


 その場合は多少外を回されるロスも覚悟しなきゃいけないんだろうな。



 そんな事を考えてたら知らぬ間に俺は眠りについた。


 その時どういうわけか、日本の駅のホームで満員電車から弾き出されて乗れなくて遅刻する夢を見た。


 縁起でもない。





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