表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/61

未勝利戦4

△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race

未勝利戦 芝2000m スタート前

場所:ゲート付近

語り:俺

△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race


 そろそろスタートが近いらしく出走馬がスタンド前に集まってきた。


 俺も返し馬が終わってスタンド前のゲート付近で輪乗りの輪に加わっていた。


 こうして眺めてみると18頭は確かに多い。


 やはり道中いい所につけないとどうしようもなさそうだ。


 こんな時でもアニーは時々ハンスを睨んでいた。


 これから先こいつと付き合いがあるかどうかわからないが、絶対怒らせない方がいいな。



 ファンファーレが鳴った。


 ついに俺の命運が決まるレースが始まる。


 俺達は係員に2~3頭ずつゲートに誘導された。


 俺は一度立ち止まって深呼吸をしてからゲートに入った。


 練習では何度か入ったけれど、こうして本番を迎えても確かに狭い。


 何頭か暴れたり立ち上がったりしてるやつもいるみたいだ。


 気持ちは分かるが消耗するだけだぜ。



 最後に大外の馬が入って掛け声とともにゲートが開いた。


 俺は自分でも最高のスタートが切れたと思う。


 左右を見ても俺より早い奴はいなかったからな。


 だが何故かアニーが手綱を思いっきり引っ張っている。


 それだけじゃない。


 こいつ何考えてんだ?


 立ち上がって俺を押さえつけてやがる。


 バカか?


 このコースは先行有利だろうが!




△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race

未勝利戦 芝2000m

場所:スタート地点→1コーナー

語り:アニー(エリスズナイト鞍上)

△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race


 ああびっくりした。


 こいつ予想外にスタートが早い。


 スタートはこいつが一番早くても外から被せられたら沈むって聞いてるからな。


 案の定外枠から徹底先行の馬が出ムチを入れて行きやがった。


 咄嗟に手綱を引いたおかげでなんとかすっと後ろに下げられたし、こいつも怯えた様子は無い。


 指示では最後方って言われたけど、今後ろにいるのは大した脚もない出遅れ2頭と仕上り不足の太めのやつだからほっといても大丈夫だろう。




△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race

未勝利戦 芝2000m

場所:1-2コーナー→向う正面

語り:俺

△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race


 ああ参った。


 こいつのせいで計画がパーじゃねえか。



 レースは1-2コーナーを回って丁度向正面に入った。


 今の俺は2つに分かれた馬群の先行馬群の一番後ろ。


 後方馬群には3頭しかいないから俺は15番手という事になる。



 気になるのはペースだな。


 競馬が趣味のやつは頭の中に自前のストップウオッチを持ってるやつが少なくない。


 みんな60秒辺りならかなり正確に当てられる。


 だからレース中継や競馬場で時計を見てないのにペースが速いとか遅いとか判断できるやつが多いんだ。


 因みに俺もその一人。


 でその時計で測ると1000Mが64秒・・・


 おいおいヤベエぞ。


 今動かなきゃ絶対間にあわねえ!


 おいアニー行くぞ!


 俺は自分の意思で軽くスパートをかけた。


 外なんて回って届かなかったら事だ。


 俺はそのまま馬群に突っ込んだ。




△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race

未勝利戦 芝2000m

場所:向正面

語り:アニー(エリスズナイト鞍上)

△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race


 向う正面でペースが落ち着いたけどやべえな。


 これは未勝利戦にしても遅すぎる。


 そう思っていたら勝手に馬がスパートをかけやがった。


「何!?おいおい待てよ!」


 こいつヘタレどころか平気な顔して馬群に突っ込むじゃねえか。


 聞いてた情報の真逆じゃねえかよ。


 オーエンのオッサンまともな情報よこせよな。



 まあいい。こっちの方がアタシ好みの展開だ。


 折角馬がやる気を出してるんだしアタシもちゃんとしなきゃな。


 私は思い切り息を吸い込んだ。


 そして周りのやつらを怒鳴りつけてやる。


「おいこらテメエら!!遅せえやつは道開けろ!!

 グダグダやってるやつはまとめて○○○引っこ抜くぞ!!」

 

 ローズ家のお抱えになる前のアタシの仇名は『暴走アニー』。


 今日は本領発揮と行こうか。




△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race

未勝利戦 芝2000m

場所:3-4コーナー

語り:ハンス(イレイザー鞍上)

△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race


 僕が乗っているイレイザーは実に乗りやすい。


 正に騎手の意思どおりに動いてくれる。


 スタートも上手だったからすっと逃げ馬の後ろにつけられた。


 逃げ馬の騎手はさすがのベテランで巧くペースを落としたけれどイレイザーはちゃんと折り合っている。


 初出走でこれなら未勝利クラスだと明らかに力が上だ。


 本命を背負ってるけど当たり前に勝てるだろう。


 気になるのは内側の斜め後ろにずっとつけている2番人気のレスターだ。


 こちらをピッタリとマークしてるしスローにも引っかかる事が無い。


 はっきり言えば敵はこの馬だけだ。


 お嬢様が言ってたローズ家の馬はスタート直後にどういうわけかアニーが思いっきりブレーキかけてたし無視で良いだろう。


 あんなレースじゃ最後の直線だけで追い込む事しか出来ないだろうけどこのペースじゃ前までは届かない。


 その上かなりの怖がりと聞いてるし、途中で進出してくる事だって無理だろう。


 そもそも母親譲りの追い込む脚があるのか?


 今まで全部大差負けだし可能性は無いな。やっぱり無視でいい。



 そろそろお役御免だよ逃げ馬さん。


 僕はイレイザーにすっと合図を送って3-4コーナー中間で先頭に立った。


 後ろを見るとレスターだけが逃げ馬を交わしてついてきている。


 やはり大方の予想通りマッチレースだな。


 このまま一定の距離を保ってレスターを抑え込めば確実に僕の勝ちだ。



 それにしてもアニーのやつか?


 さっきから何か下品な事を色々叫んでるのは?


 それに気のせいか声が段々大きくなってる気がする。


 まあ気のせいだな。




△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race

未勝利戦 芝2000m

場所:馬主席(スタンド側バルコニー)

語り:エリス

△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race


 私はスタンドからレースを見ています。


 まだレースの途中ですがもう2度も驚いています。


 まずスタートが飛び抜けて良かった事。


 そして驚きの二度目は現在目の前で進行中です。


 何と向正面であの怖がりが馬群に突っ込んで行ったのです。


 一体何があったのでしょうか?


 見る見るうちに一頭また一頭と交わしていきました。


 3-4コーナー中間で前にいるのは5頭程度。


 ハンスが振り返って向き直った直後にはもう逃げていた馬に並びかけています。


 これらすべてが今まで無かった光景でした。



 実はレース前にお守り代わりにうちの馬関連の馬券を全て買っておきました。


 ただ気分の問題でうちの馬とヴィルマの馬が一・二着という組み合わせだけは避けましたが。


 どうせ記念にしかならないと思っていたのですが、ひょっとすると・・・




△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race

未勝利戦 芝2000m

場所:検量室

語り:リナ

△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race


「先生これって。」


「ああ、まさかな。」


 私は先生と検量室にあるモニターを見ています。


 あの子がエリスズナイトが今まで見せた事が無いレースをしていました。


 馬群を縫ってポジションをあげてもう4コーナー出口では前には本命のイレイザーと対抗のレスターしかいません。


 こうしてる間にもナイトはどんどん前との差を詰めています。



 お願いです。


 もし神様がいらっしゃるなら最後までナイトを守ってあげてください。


 私は懸命に神様に祈りました。


 今の私が出来るのはこれだけですから。




△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race

未勝利戦 芝2000m

場所:4コーナー出口→直線

語り:俺

△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race


 4コーナーの出口で俺はようやく本命馬を射程に入れた。


 本命馬は内に進路を取ってラチ沿いを進む対抗馬に併せに行ってるようだった。


 俺はそのままラストスパートに入ろうとしたのだが、アニーが手綱をくいくいっと左に引っ張った。


 コースを見ると少し左に寄ると芝が綺麗に生えそろっていて実に走りやすそうになっている。


 それに比べると本命の進路は荒れていてロスがありそうだ。


 対抗が走ってる最内は一頭分だけ芝がいい。


 でも俺が今から通る所の方がずっといい。


 コーナーを回った勢いもそのまま使えるしな。


 俺はアニーの誘導通りに進路を取った。



 そして綺麗な芝に乗ったタイミングでアニーの右ムチが一発入った。


 それを合図に俺は身を沈めて全速力でスパートした。


 するとあっと言う間に前の二頭を交わす事が出来た。


 俺に気付いたハンスが慌てて併せに来たけどもう遅い。


 並ぶ間もなく差し切るという表現がぴったりな交わし方だったし、俺は外目を通っていたから併せに来ても届かない。


 俺は二頭に差をつけてそのままゴールに飛び込んだ。


 前には誰もいない。


 俺が勝ったんだ!!



 競馬場は静まり返っている。


 そりゃそうだろ。


 本命と対抗2頭を16番人気の馬がまとめて差し切ったんだから。



 アニーが1コーナー手前で俺の首をポンポンと軽く叩いて「ご苦労さん」と言ってくれた。


 それから検量室前に誘導されて俺は一着馬を止めるスペースに繋がれた。


 そこには涙で顔をぐしゃぐしゃにしたリナが待っていて、俺に駆け寄って抱き締めてくれた。


 あーあ折角の美人がもったいない。


 リナはアニーと握手して何度もお礼を言っていた。



 アニーは俺から鞍を外して検量に向かった。


 今日は本当の意味で全力疾走したから正直しんどい。


 でも何となく心地よい疲れでもある。


 検量で不正が無ければ俺の勝ちは確定。


 早く確定してくれ。



 ふと隣を見ると二着馬のスペースには本命じゃなくて対抗がいて、三着馬のスペースに本命がいた。


 ハンスのやつ俺に気を取られたせいで対抗馬にも交わされたのか。


 これはアニーが大喜びしそうだ。



 数分後にレースは確定して俺は生き残る事が出来た。


 因みに3馬身半の着差をつけての完勝だった。


 二着と三着の着差は首差で、それ以降は8馬身の差があったそうだ。



△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race

未勝利戦 芝2000m

場所:馬主席(バルコニー側)

語り:エリス

△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race


 レースが終わってから暫く経っても私は呆然としていました。


 レースは確定して一着の馬番にはうちの馬の番号が表示されています。


 馬券の配当が発表されて大きなどよめきが起きてようやく意識がはっきりしました。



 でも私以上に呆然としている者が1人。


 ヴィルマが信じられないと言った感じでまだコースを見つめています。


 いつもこの位静かなら可愛げがあるのですが。


 そんなヴィルマをケイトが揺すってしっかりする様に言っています。


 そのまま放っておけばいいのに。



 そんな事を思っていると競馬場の係員が


「これから表彰式と記念撮影を行いますので、エリスズナイトのオーナーか関係者の方は1Fまでお越しください。」

 

 と呼びに来ました。



 お父様は今日は別の用事で来ていません。


 ここにいるローズ家の関係者は私だけなので行くとしましょう。


 視線を感じたのでそちらを見るとヴィルマが何とも言えない表情で私を見ていました。


「あなたもご一緒します?」


 と声をおかけしたら


「誰が!」


 と吐き捨ててヴィルマはこの場を立ち去ろうとしました。


 でもピタッと足を止めてこちらを振り返って


「見てらっしゃい!!今回は馬の経験不足で負けたけど次は負けないから!!

 それにうちはイレイザーだけじゃないんだから!!」

 

 と叫んで立ち去りました。


 ケイトはその場に留まって私とヴィルマを交互に見比べて肩をすくめました。


 まあいいです。


 言いたい者には言わせておけば。


 今日の出走馬は一頭だけですから記念撮影が終わったら帰るとしましょう。



 それより馬券はどうしましょうか?


 この馬の今までの応援馬券全てにかかった費用の何倍もの払い戻しがありそうです。


 お父様に相談してみますが恐らくこうおっしゃるでしょうね


「厩舎関係者に祝勝会でも開いてやれ」と。


 無論私もそうするつもりです。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

同日メインレースの結果

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 一方この日のメインレース3歳限定重賞(1800m)に出走したハンス騎乗のアボット家世代一番手のグラジエーターは好位抜け出しで圧勝。


 クラシックの有力候補の地位を確たるものにした。


<ナイトの出走レースについて:その1 未勝利戦>

 文字通りまだ勝った事の無い馬達による最下級レース。

 2歳夏シーズン初めから3歳秋シーズン初め位までの間に開催され、その間に勝つ事が出来なかった馬の大半は厩舎から去る事になり、競走馬としての役割すら終える。

 最終的な勝ち残り率は以外と低く、全体の3割にも満たない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ