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国王杯 一週前追い切り

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国王杯 1週前追い切り 早朝

場所:坂路

語り:俺

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 この調教メニューが始まって3週目。


 じわじわと強度も上がって来ていたけれど、今週は思いっきり駆け上がってみた。


 今まで入らなかったリナのムチも今日は何発か入った。


 感じとしては悪くない。


 自分としては条件特別辺りと差のない所まで回復してると思う。


 来週になったらトライアル程度の出来にはなる気がする。


 ただ一度もコースに出てないし、併せ馬だってやってない。


 我ながらそれでどこまで仕上がるのかと心配になる。



 そんな事を考えながら最後の一本をこなしていたら、後ろから何かが追って来る。


 相手はグラジエーターだった。


 丁度いい。ちょっと併せてみるかな。


 俺はグラジエーターが近づくと速度を上げて併せに行った。


 とは言っても本番の様に馬体を近づけるような事は無い。


 相手とは横の間隔を保ったまま速度だけを合わせてみたのだ。


 リナは驚いていたようだけど、手綱を抑えるような事はしない。


 ハンスはグラジエーターに、リナは俺にそれぞれムチを入れて並んで坂路を駆け上がった。


 どっちが前かなんてどうでも良いけど、結果としては大雑把に言えば併入。


 頂上へ仲良く到着した。


 俺の方が先行してたから純粋に見れば俺の負けという事になる。


 やはりグラジエーターは強い馬だと思う。



 ハンスがこっちにやってきた。


 妙に嬉しそうだな。


「やあリナ。ナイトは随分仕上がってきたね。」


「おはようございますハンスさん。いえ、それほどでも無いです。」


「帰厩直後に見た時は国王杯を回避するんじゃないかと思ってたけど、今日の状態だったら出てくれそうだね。それだけでも嬉しいよ。」


 妙なやつだな?そんなに俺が出るのが嬉しいのか?


「お嬢様が『ナイトが出ないレースで勝っても半分も嬉しくない』なんて言ってたからね。

 僕だってそうだよ。その馬に勝つチャンスが与えられたんだから本当に嬉しい。」


 そうは言いつつ、既に勝った気でいるな?


 大したもんだ。


「グラジエーターは凄く状態が良いですね。」


 そこはリナの言う通りだ。俺だってそう思う。


 帰厩後すぐの稽古の時に追い越されたけど今日の方が状態が上に見えるしな。


「そうかい?まあ最低でもランカスターカップの時を下回る事は無いんじゃないかな?」


 あの時と同じかそれ以上になるのか?そいつは大変だ。


「おっと、そろそろ他の馬の稽古をつけなきゃいけないから失礼するよ。

 じゃあ本番を楽しみにしてるよ。」


 ハンスは時計を見ながらそう言って頂上から降りて行った。



 俺とリナも後に続こうとしたけど「リナ」と誰かに呼ばれた。


 周りを見回すと監視塔の方からオーエンがこちらに歩いてきていた。


 表情は何と言うか渋い感じだ。


「オーバーワークだぞリナ。」


「すみませんでした。」


 リナは俺から降りるとオーエンに頭を下げた。


「よりにもよってグラジエーターが相手とは・・・

 あいつは坂路ではすごく良いタイムを出すんだ。

 だからあいつに付き合うと今のナイトの状態だと確実にオーバーワークになる。」


 ごめんよ。


 リナを怒らないでやってくれ。


 今回は全部俺が悪いんだから。


「まあ仕方がない。あのくらいの芸当ができるくらいには回復してると見たら良いんだろう。

 後は余計な疲れが出なけりゃいいが・・・」


「本当にすみませんでした。」


 リナはもう一度頭を下げた。


 俺のせいで本当にごめんよ。リナ。




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国王杯 1週前追い切り 朝

場所:オーエン厩舎 応接室

語り:エリス

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 今まではナイトに関してはレースが行われる週に直前ミーティングを行ってきたのですが、今回はその週には予定が立て込むとの事で一週前打ち合わせに急きょ変更になりました。


 今回は色々と状況が違いますから仕方がありません。


 メンバーはいつもの私、先生、リナ、アニーの4人です。


「お嬢様申し訳ありません。一週早くした上にこんな朝早くにお呼びだて致しまして。」


 と先生が頭をお下げになりました。


「いえ、良いのです。それより何かあったのですか?」


「はい。それをこれからご説明いたします。」


 ナイトに何か悪い事があったのでしょうか?


「おいおい。ナイトに何かあったのかよ?」


 アニーも同じ事を思っていたようです。


 それを聞いてなぜかリナがビクッと反応しました。


「いや、そういうわけじゃないんだ。まあ焦るな。」


「なら良いけどよ。」



「まずお知らせです。来週ナイトの王立競馬場への滞在許可が出ました。」


「滞在許可ですか?」


「はい。ナイトが今まで経験したことが無い競馬場ですし、その上特徴も今までの競馬場とは全く違いますので、事前にスクーリングを行う予定です。」


 なるほど。それは良いと思います。


 でもそうしますと問題が・・・


「おいおい。そうなると直前追い切りはどうするんだ?

 あそこには調教用の坂路コースなんてないぞ?」


 アニーも当然そう思いましたか。


 今日は意見が合いますね。


「だから3日後か4日後に坂路で追ってから輸送する。

 無論本数は減らすし状態に応じて強弱をつけることになる。」


「じゃあレースの直前は・・・」


「競馬場の芝コース辺りで軽めに調整することになる。」


「今までとは全然違うな。」


「ああそうだ。」



「そうなると馬が勘違いする可能性はありませんか?

 輸送した日か翌日がレースだと。」

 

「そうだよお嬢様。アタシもそう思ってたんだ。」


 今日はアニーととことん意見が合うようです。


「ええ、その心配はあります。

 対策と致しまして、実質的な最終追い切りの坂路調教はリナが行います。

 そして直前の調整はアニーが行います。」

 

「アタシとしては自分でビシッと追い切って感触を確かめたいんだがな。」


「悪いなアニー。今回は色々と異例でな。

 今まで同様レース直前に最後に乗るのがアニーだと馬が覚えてるならこれでいいはずなんだ。」


「まあそれなら仕方ないけどよ。あーもう!異例尽くしってのは色々面倒だぜ!!」


 そう言いながらアニーは頭を掻きむしっています。


 アニーは大変でしょうし、私も正直不安は隠せませんが仕方ありません。


 本来なら今頃牧場で休ませておくべき馬なのです。



 これでどうやらナイトの議題は終わりの様ですね。


「ではナイトの事はよろしくお願い致します。

 私はそろそろ失礼しますわ。」

 

 と私が引き上げようとしますと、


「お待ちくださいお嬢様。ご紹介したい人物がおりまして。」


 と先生に止められてしまいました。


「はい。それは構いませんが・・・」


「恐れ入ります。おい。入って来てくれ。」


 との先生の呼びかけに、


「はいよ。」


 と返事をしてその人物は応接室に入ってきました。


「キースのオッサン!生きてたのかよ!」


 とのアニーの声に、


「勝手に殺すな!お前は!」


 とその人物は返していました。


 この二人は仲が良さそうですね。



「ご存じだとは思いますが、フリーの騎手のキースです。

 ベテランで腕はかなりのものです。

 今回グローヴァーに乗ってもらいます。」

 

「わかりました。

 キースさん、よろしくお願い致します。

 好騎乗を期待していますわ。」

 

「ええお任せを。全力を尽くさせて貰いますぜ。」


「おうおう年甲斐もなく照れてやがるぜ。オッサンがよう。」


「うるせえよ!バカヤロー!」


 本当に仲が良いですね。




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国王杯 1週前追い切り 昼

場所:オーエン厩舎

語り:俺

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「ごめんねナイト。私が止めるべきだったね。」


 俺の鼻面を撫でながらリナが謝ってきた。


 こっちこそごめんよ。


 俺が勝手にグラジエーターを追いかけてリナが怒られちまった・・・


 本当に気をつけなきゃな。



「今日の新聞なんだけど、大体の出走馬が決まったみたいだよ。」


 おっ待ってました。


 こうしてリナが新聞を読んでくれるのが俺の楽しみであるのと同時に、貴重な情報収集のチャンスだ。



「今の所は全部で12頭かな。

 3歳はランカスターカップのナイトも含めた上位三頭だけ。

 後は全部古馬だよ。」


 12頭か。そこから直前回避が出る可能性もあるんだよな。


 俺も含めて・・・


 多少少ない気がするけど、こんなもんだろう。


「強敵はやっぱりグラジエーターとレスターかな。斤量も有利だしね。

 これはナイトも一緒だね。

 古馬は皆強いよ。うちの二頭もG1馬だし。」


 そうなんだよな。


 稽古でお世話になってるけど、洒落にならない強さだ。


「それとね。今度の競馬場は今までとは全然違うから早めに現地入りするよ。」


 それは有難いかな。


 そこが俺が知ってる競馬場に似てたら尚良いんだが。




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国王杯 1週前追い切り 夜

場所:オーエン厩舎

語り:俺

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 なんか疲れがイマイチ取れない。


 これがオーエンが言ってたオーバーワークの影響か。


 今の俺の状態は本当に綱渡りみたいなもんだな。


 今日は大したことないが気を付けよう・・・

 

 

 


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