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帰厩

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放牧 一か月後 昼

場所:ローズ家育成牧場 放牧地

語り:俺

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 今の俺の体は馬だが敢えて言おう。


 人間緩い方にはいくらでも慣れるもんだ。


 ここにきて二週間くらいそう思っていたら一週間前から調教メニューが増えた。


 厩舎にいた頃程の調教量じゃないけど、デビュー前の2歳の相手をすることが多くなった。



 俺に乗ってるこっちのスタッフは俺に本気で走れとは指示しない。


 あくまで主役は二歳馬だ。


 この訓練は他馬に並びかけたり並んだら前に出る様に二歳馬に教え込むためだから本気で引き離すと不味いのだ。


 俺はこの運動が復帰に向けてのウォーミングアップを兼ねている事も承知していた。



 今日もその運動が済んで放牧地でのんびりとしながら、そろそろ帰るのかなあ?なんて思っていると「ナイト」と俺を呼ぶ声がした。


 この声は?ひょっとしてリナ!?


 俺が声をした方を確認すると、柵の向こうから俺に手を振るリナが見えた。


 俺は早速リナの元へと駆け付けた。



 久しぶりだなあ。元気だったかよ?


 リナは俺を柵越しに撫でてくれたし、果物もくれた。


 やっぱりリナに会いに来てもらうと嬉しいし食べ物もうまい気がする。


 こういうのは日常の光景だったけど、今回は一か月ぶりなんだよな。


 何て言うかリナに会えただけですごく元気が出てきた気がする。


「元気にしてた?ナイト。私が言った通りここの人達は優しかったでしょ?」


 ああ確かにな。



 でもなんだろう?この違和感は・・・


 そう思ったらリナの隣に誰かいた。


 えーと・・・オーエンとエリスお嬢様だ・・・


 いつもはすぐに気付くんだが、今日はリナに久々に会えた嬉しさで全然気付かなかった。


 そのお嬢様が仁王立ちで俺をじっと見ている。


 いつも思うんだが、このお嬢様って本当に仁王立ちがお似合いだ・・・


 エリスはいつも以上に鋭い目つきで俺を見て「難しい所ですわね。」と横のオーエンに言った。


 オーエンも「ええ。本当にそうです。では参りましょう。」


 と一言残して2人で何事か話しながら去って行った。



 何だ一体?


 と思っていたら俺を撫でていたリナまで「先生、お嬢様、私もご一緒します。」


 とエリス達が行った方向に走り去って行った。



 何と言うか・・・寂しい・・・




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放牧 一か月後 昼

場所:ローズ家育成牧場 応接室

語り:エリス

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 今日はナイトの状況の確認と、秋デビュー予定の2歳馬達を見るためにオーエン先生とリナと一緒に育成牧場までやってきました。


 二歳馬達は割と順調に行ってる馬が多そうですから安心しました。



 問題はナイトです。


 ナイトの状況が良ければ国王杯の出場を決めた上で連れて帰る予定でした。


 さっき私が見た感じでは放牧前よりは明らかに疲れは取れたようでした。


 という事で放牧自体は成功でしょう。


 そしてこれから一か月の間にトレーニングをして状態をトライアル辺りの水準に持って行けるかどうかという所です。


 今からここの場長も交えての方針会議です。



 ・・・・10分後


「オーエン先生はやっぱりナイトを連れて帰るつもりかい?」


 と場長が仰いました。


 こちらの場長は馬に携わって40年という経歴の持ち主で、先生も一目置いてる方です。


「はい。今の状態なら国王杯に向けてトライアルくらいの状態には持って行けるでしょうから。」


「本当に持って行けるのかい?」


「そのつもりです。」


 それを聞いて場長は「ハア」と一つ溜息をつかれました。



「お嬢様。先生。儂の意見を言ってもいいかね?」


「ええ。是非お願い致します。」


「正直言えば儂は反対だ。

 せめてジュリアと同じくらいはここにいるべきだ。」

 

 ジュリアは二か月ここに置いて厩舎へ戻す予定です。


 確かに本来であればそうなのでしょう。



「ナイトは年が明けて5回も使ったんだろう?

 オープン馬達と戦った二回もかなりの負担だったと思うが、状態が悪い時に使った年明け初戦だってダメージはあったはずだ。

 えーと。リナさんと言ったか?あんたがナイトの厩務員かい?」


「はい。」


 場長から自分に話を振られてリナは背筋を伸ばしました。


「相手が上がってる点を差し引いてもナイトの疲労の回復が段々と遅くなってきてただろう?」


「ええ。トライアル以降は特にそう思います。」


「今の所ここの生活で表面上の疲れは取れたと見えるかも知れないが、根っこの部分の疲れはまだ取れてないと儂は見るね。

 実際状態を上げるのも一苦労だと思うぞ。

 強すぎるトレーニングを課したら、あっという間に疲れが出て予定なんて簡単に吹っ飛ぶ。」


 確かにごもっともです。


 先生を含めて誰も反論できません。


「それにナイトはまだ三歳だ。秋だってあるんだろう?それに来年だって。

 今無理をしたら後を引くかもしれん。

 それでも連れて行くのか?」


「はい。」


 オーエン先生の決意は揺るぎない様でした。


 でも一体なぜ?


 本来先生は馬を大事にする場長に近い考えの方のはず・・



 場長はオーエン先生の表情をじっと見つめた後で「ふう」と一息つかれて決断された様です。


「まあいい。先生にも考えあっての事だろう。

 ただ一つだけ約束してくれ。

 国王杯の後で状態が悪くなったらすぐにここに戻すとな。」


「わかりました。」




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放牧 一か月後 夕方

場所:ローズ家育成牧場→オーエン厩舎 馬運車

語り:俺

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「ナイト、帰るよ。」


 引き綱を手にしたリナに促されて俺は馬運車に乗った。


 ここでののんびりした日々も捨てがたいが、やはりリナがいないとな。


 生活に張りがないしつまらない。


 体調も放牧生活のおかげで随分良くなった。


 今はこれから戻る厩舎生活が本当に楽しみだ。




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放牧 一か月後 夕方

場所:ローズ家育成牧場→オーエン厩舎 ローズ家乗用車内

語り:エリス

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「先生、一体どうされたのです?」


 あの時の先生のご様子には私だけでなく、今は馬運車に乗っているリナも随分驚いていました。


「何がですか?」


「いえ、先生があそこまで強硬にナイトを連れて帰ると仰るなんて・・」


「これはお恥ずかしい。いえ、何と言いますか・・・

 私にも一応の考えはありまして、強敵に当てる以上はトレーニングの手を抜くわけにはまいりません。

 とは言え今の状態できつい調教を課せば場長の懸念通りの事態を招く事も十分あり得ます。

 ですがそこを何とか工夫することによって対処しようと思います。」

 

「トレーニング法を変えるわけですね。」


「ええ。詳しくは明日にでもご説明いたします。」





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