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ランカスターカップ 向こう正面

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ランカスターカップ

場所:内馬場広場

語り:ケイン中尉

△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race


「おい!タスキ留を出せ!」


 俺はそう言いながら酔っ払いの胸倉をひっつかんで揺さぶった。


 馬の足は速い。


 ゴール前にやって来るのもあっと言う間だ。


「な・何の話だよおい!」


 この中年男からは限度を超えた酒臭さを感じる。


 だが怯むわけにはいかない。


「お前がベンチに寝ていて軍人から注意されたろう?その時に軍人のタスキを引っ張ったはずだ。

 その時に落ちたんだ!それをお前が拾ったはずだ!」


「知らねえよそんなもん!見た事すらねえよ!」


 まだとぼけるのか?こいつは!



「それってこれの事か?ケイン中尉。」


 俺が振り返ると男が立っていて、その掌の上には3つのタスキ留があった。


「な・何で?」


「軍人として恥ずべきやつめ。貴様を逮捕する!容疑はお前自身がわかっているな!」


 こいつ憲兵だな。


 私服を着ているがこの雰囲気や喋り方は間違いない。


 周りを見るとすっかり囲まれているようだ。



 俺は素早く懐からナイフを取り出して酔っ払いの喉元に突きつけた。


 その時にこいつの腕を捻り上げて後ろに回り、盾にする事も忘れなかった。


「無駄な抵抗はよせ!お前に逃げ場はない!罪を重ねるだけだぞ!」


 憲兵はお決まりのセリフを言ってる様だが誰が大人しく捕まるか!


「お・おい!何なんだお前らさっきから!俺は関係ねえよ!」


 酔っ払いはそう叫んでいるが、こうなりゃトコトン付き合ってもらう。



 俺と酔っぱらいがその場から何歩か後退すると背中が柵に触れた。


 ここからこいつと一緒にどう逃げるかと考えた瞬間にプシュという音がして俺の意識が遠のいた。


 さては銃にサイレンサーを付けて麻酔弾を撃ちやがったな。


 俺はその場に倒れた。


 その時の俺は遠のく意識の中で、恐怖にひきつった表情で何かを叫びながらダートコースを横切って芝コースの方へと走る酔っ払いの姿を見ていた。




△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race

ランカスターカップ

場所:向こう正面

語り:俺

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 この分だと逃げた2頭は4コーナーか直線に入った所で潰れそうだな。


 向こう正面に入って、俺がそんな事を考えている時に、アニーは明らかに隣のレスターを気にしていた。


 レスターはこちらを押圧してくる事は無いけれど俺の横から動かない。


 まあ正解ではある。


 何せ逃げ馬二頭が尋常じゃない速さで逃げてる上に先行馬達も明らかなオーバーペースだ。


 グラジエーターが囲まれて苦労してそうに見えたけど、馬体をぶつけたりするような明らかな妨害は無さそうだ。


 俺はと言えば内に一頭外にレスターに挟まれてるだけじゃなくて前もつっかえてる。


 未勝利戦の時と違って力量差があそこまでないから早々簡単には隙間は出来ない。


 なら後ろはどうだ?


 そう思って確認したら何とラージワンが俺の真後ろにいた。


 こいつは徹底した追い込み馬だったはずだ。


 中団からのレースも・・・・と思って鞍上を見ると納得がいった。


 そういやベテランのキースだったな。


 条件特別の時に俺とイレイザーの争いを離れた位置から静観してスポートを二着に残した騎手だ。


 リナから事前に情報を得てたけどやはり侮れない。


 後方馬群にはペドロがいる様だ。



 さてどうするかと思案していたら俺の前にいる2頭がペースを上げた。


 ここはまだペースを上げる場所じゃない。


 その馬達を見てようやくさっきから感じてた違和感の正体に気付く事が出来た。


 それは騎手の勝負服だ。


 俺のいた世界では騎手の勝負服は馬主ごとか、騎手固有で柄が決まっていた。


 俺はアニーの勝負服を一種類しか見た事が無いが、後ろのキースの今の勝負服は条件特別の時とは別のものだ。


 という事は馬主固有と見て良いだろう。


 それなのに今動いた二頭やグラジエーターの周りの馬達の騎手の勝負服は胴体の部分の柄は違っても左腕の二の腕の柄が同じだ。


 その柄は二の腕を二本の同じ太さの青い線が腕章の様に巻いていた。


 そして後ろのキースの勝負服もそう。


 更に後ろのペドロの騎手もだ。



 つまりこいつらは一種の馬主連合なのか。


 俺はトライアルの時のスプリンターとレスターにまとめて潰された先行馬達の事も思い出した。


 たしかあいつらもこんな勝負服だった。


 そしてフランジャーを始めとしたグラジエーターを囲んでる奴らも先頭でシルバーバレットと競ってるバイエルも。


 ひでえもんだな。


 数を頼って本命潰しかよ。


 今行った二頭は先行してる二頭の代りにグラジエーターに競るか蓋をする気だな。



 その時アニーがニヤリと笑ったのを俺は見逃さなかった。


 アニーは俺の肩をムチでポンと軽く叩いてから手綱を前に促した。


 あいつらについて行けってのか?


 俺がスッと前に出たらレスターの騎手(クルーズだっけ?)は手綱をかなり押してレスターを前に出した。


 やはりこの馬は速い動作が苦手なんだな。


 俺の様にすっと行動できないみたいだ。


 暫くその速度を維持したかと思うとアニーは俺の手綱を抑えて肩に手をやった。


 俺はスピードを落として位置を維持した。


 しかしレスターはそのまま前に進んでいく。


 クルーズが悔しそうな顔でアニ-を振り返って見ていた。


 あの様子じゃ止めるのも大変なんだろうな。


 ワンペースという程極端じゃないにせよ、それに近いものがあるんだろう。



 アニーは俺に進路を外にするように促してきたから俺はさっきまでレスターがいた辺りまで外に進路をずらした。


 レスターは向こう正面の急坂のおかげで何とか先行集団の手前である程度減速したようだ。


 でも完全に元のスピードに落ちたわけじゃない。


 そのまま先行集団に緩やかに追いついていく感じだ。


 惜しいな。最初の速さのまま進んでくれたらライバルが一頭減ったのに。


 そして後ろからラージワンが俺の半馬身差まで詰めて来たけどキースが必死になだめている。


 目の前から俺が消えたから進んできたんだな。


 そのまま行かせてくれりゃよかったのに。



 ん?それにしても前回G1で二着に粘った馬を逃げ馬にわざわざ競らせるのはどういう事だ?


 未だにあの二頭は競り合ったままで3コーナーに飛び込もうとしている。


 逃げ馬を潰しに行った上に先行勢に息をつかせないという事はこいつらが本命か?


 俺はまた俺の後ろに戻ったラージワンと後方馬群のペドロに視線を移した。


 最有力候補のグラジエーターを潰すと同時に先行勢を総崩れにさせて、ペドロとラージワンによる追い込み競馬にする気だな・・


 このペースはまともについて行ったらダメだ。


 だが府中の2400の過去のジャパンカップで当時のアメリカで記録されたばかりの世界レコードをあっさり塗り替えたレースでは、超ハイペースを三番手で追走していた馬が直線で抜け出してギリギリで勝ったことがある。


 あまり後ろでも届かないかもな。


 多分キースも同じことを考えているんだな。


 だから中団で我慢させる競馬をしてるのか。



 俺はそのままのペースを維持して急坂を上って3コーナーに向かってゆっくりと坂を下りた。


 アニーが俺を少し外にやってくれたおかげで内側の芝が荒れた所を通らないで済んだ。


 そこを走ると明らかな消耗を強いられるからなあ。


 でもそこに猛然と突っ込む馬がいた。


 レスターだった。





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