ランカスターカップ スタート
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ランカスターカップ スタート
場所:待機所→ゲート
語り:俺
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4コーナー出口近くの待機所で俺達は気を落ち着かせていた。
スタンドの方からはザワザワと人の声は絶えないし、祭典を盛り上げようとマーチングバンドも演奏していたし、大型ビジョンにはグラジエーターが勝ったエリオットSに俺が勝ったトライアルの映像も流されていた。
参考映像ってやつだな。
ここの雰囲気もトライアルの時と頭数は変わらないのに、何と言うかピリピリした感じが人からも馬からも比較にならない程伝わってくる。
いつもならハンスのやつがアニーに要らないちょっかいをかけてくるのに今日はそれが無かった。
やはり今日は特別なG1なんだな。
やがて旗が振られて係員から全馬ゲート前に行くようとに促された。
「よし本番だぜ。」
とアニーが俺に声をかけて来た。
あいよ。お互い頑張ろうぜ。
俺は入れ込みがきついやつらを先にやってからのんびりとゲート前に歩を進めた。
そして輪乗りの輪に加わってスタンド側の観客達を見ると元の世界にいた頃の自分の事を思い出した。
俺もあんな風に柵の向こうから馬達を眺めてたっけ。
特にダービーの時の雰囲気は凄くてちょっとした事で大きな歓声が上がっていた。
向うもこっちもそういう所は変わらないんだな。
何分か経つとファンファーレが鳴った。
流石にG1ともなると曲も重厚だし生演奏も素晴らしい。
俺達は次々と誘導されてゲートに入れられた。
まあ尻っぱねをしたりゲートに入るのを嫌がるやつらもいたが長時間ゴネる馬はいなかった。
10番枠の俺は丁度真ん中位の順番で入れられた。
馬は基本的に狭い所が嫌いだから落ち着かないやつは多い。
今日は観客の数が凄いだけじゃない。
それぞれの観客がレースに命の次に大事な金をかけてるのはここだって俺のいた世界だって一緒だし、大レースにはいつも以上の大金をつぎ込むやつが多いのも一緒だろう。
その熱気やら殺気も馬達に伝わってる可能性がある。
どうやら今から大外の最後の馬が入るようだ。
さて最後まで悩んだスタートだが・・
そう思っていたらアニーが俺の肩をポンポンと叩いて「ゆっくりでいいぞ。落ち着いて出ろ。」と言った。
ありがたい。同じ考えだったか。
両サイドがハナ争いをするかもしれないのにそれに巻き込まれたら事だ。
未勝利戦以来の追い込み戦でもやるか。
そう思っていたらゲートが開いた。
いつもより少し勢いを落としたスタートだが悪くない、2頭ばかり出遅れたようだが俺に出遅れは無い。
案の定俺の両サイドからシルバーバレットとバイエルが飛び出した。
外枠のシルバーバレットが被せる形で前に出ようとしても内枠のバイエルも騎手が左鞭を何発も叩き込んでは全く譲らない。
そのまま併せ馬みたいになってハナ争いをしてるから、もし俺がいつもの調子で出てたらサンドイッチにされていた。
そうならなくて良かった。
それにしてもシルバーバレットもバイエルも1コーナーにえらい速さで突進してる。
その二頭から何馬身か離れて3番手にいるのがグラジエーターなんだが・・・
なんか様子が変だ。
グラジエーターの内からノシをつけて一頭並びかけてるしすぐ外にも一頭併せに来てる。
外から併せに行った馬は何とフランジャーだ。
確かに先行タイプではあるんだが、最初から本命馬の真横につけて徹底マークしてるわけだ。
だがあんな感じじゃマークした方がグラジエーターに潰されるぞ。
そう思っていたらグラジエーターの真後ろにも一頭つけて更にその外に1頭加わって先行集団を形成していった。
その先行集団を見ていて俺は妙な違和感を感じていた。
俺の位置取りはと言えば中団の少し後方で1コーナーを回る時は11番手だった。
トライアルの時より何番手か後ろだが、今日は前にいるやつらが異常だ。
この位置で十分だと思う。
それに俺の内には1頭だけで無駄なコースロスは避けられそうだ。
だが厄介な事に俺は外から蓋をされていた。
それもレスターにだ。
この馬は内から馬群を捌く印象があったけど外でもかかって行くような事は無い。
と言うよりはあまり先に行けない馬なのかもしれないな。
出だしが遅くてスピードが乗るまでに時間がかかる馬は確かにいる。
その馬がピッタリと俺の真横に並んでいる。
まだ動くような場所でもないし、気にするような場面でもない。
だが相手は明らかにこちらを封じる気でいる。
そんな相手にずっといられては気味が悪い。
「チッ。」っとアニーの舌打ちが聞こえて来た。
アニーも俺と同じ気持ちなんだろう。
どうやらアニーはどこかで俺を外に出す気だったみたいだ。
3-4コーナーの荒れ方は酷かったからなあ・・・
あんな所を通る事になったら著しい消耗を強いられることになる。
レスター側の狙いは間違いなくそれだ。
今まで二回とも切れ味で負けて来たからこちらに余計な消耗を強いる事にしたんだろう。
立派な作戦だがやられる方としてはたまったもんじゃない。
それに馬格はレスターの方が俺より上だ。
簡単に弾き飛ばすわけにもいかない。
そう思いながら1-2コーナー中間に差し掛かったらシルバーバレットとバイエルがまだやりあっていた。
見た感じではシルバーバレットが頭くらい前に出て外からバイエルを内に押し込めてるように見える。
それにしても何だあいつら?競ってるせいかトライアルの時のスプリンターより速いぞ。
なだらかに下ってるから加速もつくだろうけどな。
そこから5馬身以上後ろにグラジエーターを始めとする先行集団がいて、更に5馬身空いて俺がいる中団馬群、更にその後ろに後方馬群だ。
多分スタンドから見たらかなりの縦長なんだろうな。
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ランカスターカップ
場所:1-2コーナー
語り:ハンス(グラジエーター鞍上)
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何だろう?僕のグラジエーターにこんな形で競って来ても潰れるだけなのに内も外も一歩も譲ろうとしない。
それ所か真後ろにもそれっぽいのが2頭いる。
なるほど・・これが馬主連合ミストラルのやり方か。
この馬達は最初から潰れるつもりでこちらに競ってきてるんだな。
それと後ろを塞ぐ事でこちらに速度を落とさせない作戦か。
こんなあからさまな相手に負けるわけにはいかないな。
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ランカスターカップ
場所:内馬場広場
語り:ケイン中尉
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レースはたった今スタートしたし、俺は一応タスキ留を仕掛けた兵士の様子を見て回る事にした。
そのうちの三人は遠目に見ても問題ない。
だがゴール前100m辺りの位置に立ってる奴のタスキがまた歪んでいる。
今朝注意したばかりだろうが全く!
仕方ない。一言言ってやる。
「おい。またタスキが歪んでるぞ。」
「申し訳ありません中尉殿!」
俺が注意するとそいつは敬礼しながら謝ってきた。
見た所振る舞いはしっかりしているし、わざと緩めたわけではなさそうだ。
「何かあったのか?」
「はい。実は昼頃酔っ払いを注意した際にそいつが体勢を崩しまして、私のタスキを掴んだのです。」
「成程。だがその直後には直したのだろう?多少動いてもズレないためのタスキ留なのに随分歪んでたぞ。」
「そうですか?あっ!ありません無くなっています。」
そいつは背中に手をやって確かめてそう言いながら随分慌てている。
俺も実際にそいつの後ろに回って見てみたが本当に無くした様だ。
「おい!それは一体どこだ!」
「申し訳ありません。必ず弁償いたしますので。」
「そんな事は聞いてない!その酔っ払いをどこで注意したのだ!?」
「そこのベンチに横になっていたのですが・・」
ベンチの周りを見ても無い。
これはまずい。さっきから冷や汗が止まらない。
サミュエルのやつが何をするつもりかはわからないが、4つ揃わないと効果が薄いと言っていたな。
失敗したらコトだぞ。高飛びどころか延々と借金取りに追われる羽目になる。
いや・・・命だって危ないかも知れない。
それに事情が事情だし誰にも助けを請えない。
ひょっとすると・・・その男が持ち去ったのか?
「おい!その男の特徴は!?」
「は・はい。赤ら顔で頭髪は薄く太った中年の男でいかにもだらしない感じで・・・
あっいました!あの柵に肘をついて酒を飲んでる奴です!」
もうレースは向こう正面に入っている。
時間がない。
俺はその男の所へ駆けだした。