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ランカスターカップ 当日昼前

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ランカスターカップ 当日 昼前

場所:出張馬房

語り:俺

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 リナがまた出張馬房にやって来て俺の様子を見に来た。


 オーエンに言われて落ちついたのか、流石にさっきみたいな短い間隔では来なくなっている。


 でもなんとなく落ち着かないのか、前日に異常があったトライアルの時と同じ位の回数は確認に来る気の様だ。


 あの時と違うのは、ここまで聞こえてくる観客の声が格段に大きくなっている事。


 かなりの入場者がいるんだろうな。


 ただの条件戦でも日頃の特別戦より確実に沸いている。


 やはり今日は特別な日なのだ。


 それは俺が元いた世界でもここでも変わらない。


 俺は客として競馬場に来ていた頃の事を懐かしく思った。



 そう言えば、あのヨッパライのオヤジは元気だろうか?


 あのオヤジから未勝利のパドックでヤジられたおかげで、新聞に気付いて俺は色々と助かったんだよな。


 ラッキーボーイと言うにはあまりにも不細工だし年も取り過ぎてるが俺にとってはそういう存在だ。


 今日もパドックにいたら直に挨拶・・・は出来ないな。


 心の中で感謝の意を示しておくか。



 俺がそう考えていたら、リナが「ねえナイト。」と話しかけてきた。


 何かあったのか?


「さっき前売りオッズを見たんだけど、ナイトの人気思ってたよりすごいよ。」


 そうなのか?


 個人的には5番人気くらいかなと思っているのだが。


「なんとねえ。3番人気!

 1番人気はグラジエーターで、2番人気がラージワン。

 次がナイトだよ。」


 うーん。被り過ぎだなあ。


 俺が馬券を買う立場だったらあんまり買いたくないぞ。


「お嬢様がナイトの単勝いっぱい買ってくれたのかな?」


 あのお嬢様がオッズが変わるくらいにか?


 だとしたら期待に応えないと後が怖そうだ。



 ここで俺にもう一つ頑張る理由が加わった。




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ランカスターカップ 当日 昼前

場所:競馬場内馬場

語り:???

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 ほぼ同じ頃、内馬場広場には大勢の家族連れが来ていた。


 それだけではなく、いつもの常連もいるのだが・・



 ここはゴール手前付近のベンチ。


 1人の酔っ払いの中年男がベンチに寝そべって高イビキをかいていた。


 普段なら見過される程度の出来事だが、今日は大勢の家族連れが詰めかけていて、座るスペースは貴重だ。


 横になって寝るだけでなく、新聞を置いて占有する事も禁止されて、警備や係員に見つかった時点で、本人不在でも容赦なく新聞は撤去されている。


 迷惑防止の意味合いもあるし、こんなマナーの悪さを放置すれば、子供の教育上もよろしくない。


 だから今観客から知らせを受けた警備兵が当事者に対処している所だ。



「おい!おい!ベンチを占有して寝るのは禁止だ!起きろ!」


 兵士がそう言いながら酔っ払いを揺すって起している。


「ああ?」


 夢見心地なのか男の意識はあまりハッキリしていないようだ。


「ああ?じゃない!起きろと言っている!」


「眠いんだからほっといてくれよ。」


 男が兵士を無視して眠ろうとすると兵士は更に揺すった。


「放置できないから起しているのだ!起きろ!」


「ああもう・・うるさいなあ・・」


 観念したのか男はようやく上半身を起こした。


「起きたか?」


「ああ、起きたよ。おおっと!」


 男は立ち上がった瞬間にバランスを崩して前のめりになった。


 その時に兵士のタスキを掴んだので、タスキがずれると同時に何かパチンと音がした。


「こ・コラ!何をする!」


「すまねえ兵隊さん。ちょっとふらついちまった。」


 兵士も仕方ないと言った風情でそれ以上何もいわなかった。


 誰だって酔っ払いの相手なんて必要以上にしたくない。


 酒臭いし、支離滅裂な事を言い出すし、場合によっては暴れだす。


 酔っ払いは本当に面倒だ。



 酔っ払いは千鳥足でその場を立ち去り、兵士も元の位置に戻った。


 でもベンチ近くに士官から着けられたタスキ留が落ちていた。


 兵士はいつもと違う現場からくる緊張感からなのか、酔っ払いを片付けた安堵からなのか、その事に気付かなかった。


 その落し物を目敏く見つけたのは、両親に連れられてここにやってきた男の子だった。


「なんだこれ?」


 男の子はタスキ留を拾って、最初は興味津々に見ていたものの、やがて飽きたのか「つまんない。もういいや。」と言って、遠くへ蹴飛ばしてしまった。


 蹴飛ばされたタスキ留は、内馬場広場の柵を越えてコースの方向に飛んで行った。


 そして着地するとダートコースの内ラチ辺りまで転がって行った。


 その時運悪く前座のレースが行われていて、小さなタスキ留に気付く者は誰もいなかった。




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ランカスターカップ 当日 昼

場所:計量室

語り:アニー

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 アタシはついさっき本番と同じ距離の条件戦の逃げ馬に乗ってきた。


 後ろから次々と差されて着順は5着だったけど、人気の割には良く走った。


 管理してる調教師からまた乗ってくれって言われたくらいだからな。



 やっぱり前座のレースに乗っといて良かったぜ。


 本番に向けて良い確認が出来たしな。


 何と言うか、トライアルの時に比べてコースを使いこんでるせいか、今日は芝が荒れ気味だ。


 特に3-4コーナーの内側が酷かった。


 これはコース取りで失敗出来ねえな。


 雨が降る事は無いとは思うし、大幅にコンディションが変わるとは思えないが、本番の返し馬で最後の確認だけはしとくかな。


 まあこれでやる事は決まった。



 ん?視線を感じたから誰かと思ったらハンスのやつか。


 けっ!睨み返したら目を逸らしやがった。


 だったら最初から見るなよ!



 そういやあいつも同じレースに乗ってたな。


 着順はアタシと似たり寄ったり。


 多分ハンスもコースの確認してたんだろうな。


 まあいい。本番でへこませてやるさ!


 なんて思ってたら・・・



「何だとてめえ!!もういっぺん言ってみろ!!」


 計量室で中年男の怒鳴り声が響いた。


「キースさん声が大きいです。」


 何だキースのオッサンかよ。


 話し相手の二人の男が慌てた様子で周りを見回してるが手遅れだろう。


 アタシを始めとしてみんなの注目を浴びてるぜ。



 今オッサンが話してる相手はラージワンの調教師と厩務員だな。


 このレースにも出走馬を出してたんだな。


 まあみんな考えることは同じか。


 下級条件とは言え同じコースを走るわけだから下見に使ったんだろう。



「俺はな!!お抱え騎手の窮屈さが嫌でフリーでやってんだ!!

 だからレースについてあれこれ指図されるのは大嫌いなんだよ!!

 俺に頼むやつらはみんなそれを知ってるぜ!!」

 

 あー・・なんかちょっと耳が痛いぜ。


 確かにお抱え騎手は色々あるけどな。


 アタシみたいな性分でよく勤まってるって時々感心するくらいだもんなあ。


 おっなんか続きがあるみたいだぞ。



「そ・それは知ってますけど・・今回だけ何とか・・」


「やかましい!!そうしたけりゃ今すぐ他の騎手を探しゃいいだろうが!!」


「無茶言わないでください!本番当日にアクシデント以外で騎手の変更なんて・」


「だったら最後まで黙って見とけバカヤロウ!!」



 オッサンはそう言って出ていっちまった。


 残された二人は周りの目に耐えられなくなったのかオッサンとは別の扉から出て行った。



 あーあ折角の見世物なのにこんなもんで終わりかよ。


 キースのオッサンはちゃんと自分で騎乗馬を調べて関係者から癖とか聞きだしたら後は任せろってタイプだもんな。


 実際キースのオッサンが馬の新味を引き出して勝たせたのを何度も見てる。


 ああいう所はベテランの凄さを感じるぜ。


 ナイトにしてもアタシじゃなくてオッサンが乗ったら全く違うレースをしてあっさり勝つかもしれねえ。



 ただあのオッサンはプライドも高くて調教ならともかくレースでああしろこうしろって言われたら本気で切れる。


 今回みたいにな。


 だから頼んでくる調教師も限られてて腕は良いのに勝ち星が思ったほど伸びない。


 まあラージワンの関係者は主戦の騎乗停止で腕の立つ奴を選んだって事だろうが悪い意味で火を点けちまったな。


 ただ本番はちゃんと乗ってくるオッサンだから油断は出来ねえけどな。




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ランカスターカップ 当日 昼

場所:馬主席

語り:エリス

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 私とヴィルマはさっきからずっと馬券も買わずにフロアでミストラルのメンバーの様子を見ています。


 気になる軍人との接触は今の所はありません。


 そして今はそれ以上に気になる事があるのです。


「やっぱり思った通りでしたわね。」


「うん。何か重要な事はロッカールームで話してるみたい。」


 ミストラルのメンバーはヴィルマの言う通り、雑談はこのフロアで行っているようなのですが、何か込み入った話になると顔つきが変わって、話し相手と連れ立ってロッカールームに消えるのです。


「これでは尻尾を掴むなんて無理ですわ。」


「そうね。なんか悔しい。」



「そう言えば、ヴィルマのお父様はいらっしゃらないのですか?」


「エリスのお父様こそ。」


 私達はお互いに顔を見合わせました。


 確かにおかしいです。


 いくら娘に任せたとはいえ、普通に考えればG1の時くらいは顔を見せるはず。


 ましてや今日はG1の中のG1と言われるランカスターカップです。


 それなのに来た様子がありません。


 そう言えばケイトの姿もさっきからありません。


 一体どこに行ったのでしょうか?




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ランカスターカップ 当日 昼

場所:スタンド内廊下

語り:ケイト

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 私はエリス達とお茶を頼んだ時に、ウエイターからこっそりとメッセージが書かれたメモを受け取った。


 私はそこに書かれた待ち合わせ場所に向かいながらあの忌々しい日の事を思い出していた。




「あ・あなた方は・・・」


 非常階段の上から降りて来たのは私の見知った人達だった。


「久しぶりだなケイト。いつもうちの娘がお世話になっている。」


 こちらはローズ公爵、エリスのお父上だ。


「やあケイト。おつかれさん。うちのもお世話になってるね。」


 こちらはアボット公爵、ヴィルマのお父上だ。


 このお二人が揃うなんて珍しい。


「いえ。そんな。」


「それにしてもお互いの娘にはこの件に深入りしない様に注意を払っていたのだが、君のヴィルマの情報網はすごいものだな。」


「いや、うちの家内のおしゃべり好きが娘にも移ったみたいで困り果てているんだ。

 君の所のエリスみたいに魔法の天才になってくれた方が良かったよ。」


 このお二人は娘達と違って仲がいい。


 何でも学生時代からずっとこうらしい。



「所でケイト。得た情報を渡してくれないか?」


「私からも頼む。ケイト。」


「でもこれは・・・」


 これは私があんな思いをしてまで手に入れた情報。


 それにエリスやヴィルマもこれを待っている。


 私がそう考えていると、新たに階段を下りる足音が一つ聞こえてきた。


 私が警戒して身構えていると、「ケイト。お二人にそれをお渡ししろ。」と足音の主は言った。


「お父様。」


「全く、お前には困ったものだ。手を出すなと言ったろう。」


 お父様は心底呆れた顔でそう言った。


「いやいや、ケイトを責めないでやってくれよ。大方今日の事はうちの娘が発端だろうし。」


「もしケイトじゃなくて、うちのが来ていたらここは焦土になっていた。

 だから少しはましだったと言える。」


 お二人は、そう仰って私を庇って下さった。



 ん?焦土?


「あの、ひょっとしてVIPルームで何があったか皆さんご存知なのでは?」


 そう聞いた途端にお父様も含めて3人とも目を逸らした。


 こ・これは・・・


「あのう。ですから私が今日ケイト様がなさった事を行う予定でした。

 何回かパーティに潜伏して信頼を得たので、マネージャーからは今日は多分私だと聞かされていたのですが・・・」

 

 とレイが言ってきた。


「そう。ケイトの美人振りにあいつらが急遽指名を変えたわけだね。」


 何の事は無い。


 私達が勝手にお父様達の作戦に割り込んでしまったんだ。



「私達はマーリン伯に止める様に言ったのだが・・・」


 そう言ってお二人は困った様にお互い顔を見合わせた。


「この好機を逸する事は出来なかったし、お前にはいい薬だと思って私がそのままやらせた。

 どうだ?親の言う事は聞くものだろう?」

 

「お父様!」


 さすがにこれは頭にきた!


 いくら親でも娘を何だと思ってるんだ!



「それにしても、流石にケイトはマーリン家のご息女だ。あんな状態になっても手に入れた情報は守り抜いたのだから。」


「そうだね。その気になったらあいつら全員ぶっ飛ばす事だって可能だったろうによく耐えたよ。」


「いえ、うちの娘などまだまだです。」


 我がマーリン家は、昔からずっと王家の諜報活動を担っていた。


 つい3代前まで爵位も持たない影の存在だったけれど、近隣諸国との関係も改善した事で、我が家の存在をあからさまに隠す必要が無くなった事と、役割に対する正当な地位を与えるべきと当時のローズ公爵が国王陛下に進言して頂いた事で貴族となる事が出来た。


 ただ本当の役割は今でも国王陛下と一部貴族以外には伏せられている。


 だからマーリン家はローズ家に末代までの借りがある。


 そのローズ公爵様が仰るのだから証拠をお渡しして指示に従うのが私の務めだろう。


 エリス、ヴィルマごめん。



「あのう。」


「なにかね?」


「なんだい?」


 こんな時でもお二人は仲がいい。


「これが証拠です。会話の内容で星の貸し借りというか、ミストラルの実態がわかるはずです。」


 そう言って、私はローズ公爵様に証拠の機材を渡した。


「ありがとう。これで随分助かる。」


「いえいえ。うちの娘が邪魔をしなければレイがもっとすんなりと情報を手に出来たでしょうから、お礼など・・」


「娘が邪魔をしたと言うなら、うちも同じだ。」


「それならうちだって同じだよ。」



「いいかい、ケイト。君には本当の事を言っておこう。

 だからヴィルマとエリスがこれ以上介入しない様に見張り役をして欲しいんだ。頼めるね?」


「はい。」



「私達はうちのオーエン厩舎の一件があってすぐに連絡を取り合ったのだ。

 今度はそちらが狙われるかもしれないと。」

 

 流石だ。


 私達よりずっと早い。


「だから私達はすぐに手を尽くして調査に入った。

 ミストラルの存在はすぐにわかったよ。

 そして調査して行くうちに私達が思っていたより根が深く広い事に気付いた。」

 

「さっき国王軍の士官を見ましたがその事でしょうか?」


「それは一部だ。一馬主会だけじゃなく、厩舎関係者や軍まで関わっているとなるとただ事ではない。

 ここまで来ると競馬会も一応疑う必要があるかもしれない。」


 ローズ公爵様の仰る通りだ。


 厩舎関係者に勝負度外視の指示を出して従わせるわけだから、それなりに金も動いているのだろう。


 関わってる競馬会の職員や軍人の数だってどれだけいるのやら・・


「だから娘であるお前にも黙っていた。

 下手するとお前達の身にも危険が及ぶからな。」

 

 その割にはさっきは止めてくれませんでしたね。お父様。



「困り果てた私達は競馬会の最高責任者にお話したんだ。」

 

 最高責任者と言うと・・・


「国王陛下ですか!?」


「そう言う事だよ。」


「国王陛下はこう仰った。

 『非常に嘆かわしい事態だ。

  しかしランカスターカップを楽しみにしている国民も大勢いるのだから中止には出来ない。

  ただこれを機会に全ての病巣を抉り出せ。』と。」

  

「つまり、相手をある程度野放しにして、実行犯も黒幕も全て捕えろとのことですね。」


「そういう事だね。」


「レース当日もですか?」


「そうだね。」


「危険ではないですか?」


「そうなのだが、国王陛下の許可も頂いている。

 今は相手の関係者を徹底して洗っている所だ。

 非常に微妙な時期だからうちの娘とヴィルマには絶対に邪魔に入らない様にして欲しい。

 さっき三人で決めたのだが、君達3人には明日から自宅で謹慎してもらう。

 時期はスカーレットカップが終わるまでとしよう。

 それ以降の一週間もそれとなく2人が変な考えを起こさない様に見張っていて欲しい。」


「わかりました。

 ただ何もするなと言っても・・・」

 

 あの二人の事だ。


 何か聞きつけたらどんな行動に出るか・・・


 

「そうなんだよね。特にうちのヴィルマときたら・・

 あっそうだ!こうしよう。

 ランカスターカップ当日の馬主席の警備の士官とミストラルのメンバーの動きを、それとなく見張れと言ってくれないか?」

 

「何かあるんですか?」


「何もないからだケイト。あいつらも人目のある馬主席で事を起こすようなバカではないだろう。」


 お父様の仰る通りだ。


 何か役割を与えれば二人の目はそちらに向く、無意味だが安全な役割を与えておけばお父様達の邪魔にはならない。





 やがてメモの指定の場所に着くと、二人の公爵様とお父様が私を待っていた。


「やあケイト。楽しんでるかい?」


 アボット公爵様はいつも気さくだ。


「いえ、とても楽しむ気には・・・」


「ならいい。エリス嬢とヴィルマ嬢から目を離すんじゃないぞ。」


 そしてお父様はいつもこの調子。


「ケイトはしっかりしてるから大丈夫だ。マーリン伯。

 うちのもケイトには世話になっている。」


 ローズ公爵様はいつもそれとなく私を気にかけてくれる。


「恐れ入ります。」



 お父様は苦笑しながらそうお答えになって、私に向き直ってこう言ってきた。


「ケイト。実は今から警備の対策会議が開かれる。

 お前にはあの日の出席メンバーや証拠の確認を頼みたい。」


 それを聞いた瞬間に私は耳まで真っ赤になった。


「ひょっとしてその内容はそこにいる人たち全員に知られているのですか?」


 あの時の様子を捜査関係者全員に赤裸々に知られたのであれば今後とても人前に出られそうにない・・・


「安心しろ。全員が職務として当たってるし必要以上に情報の拡散もされない。

 肝心なのはあの場に誰がいてどのような悪事の相談をしていたかだ。

 お前が危惧してる部分は私達しか知らない。」

 

 かなり複雑だけどここは信じるしかなさそうだ。


「対策会議が終わっても私達は引き続きミストラル対策を続ける。

 ケイト、お前は会議が終わったら引き続き公爵様方のご息女に何か起こらない様にしっかり側についているんだ。」


「わかりました。お父様。

 ですが、そろそろ何か変化をつけないと・・」

 

「そうだね。じゃあ内馬場にでも遊びに行けば?」


「子供じゃないんですから。」


「それもそうか。アハハハハ。」


 アボット公爵様は何と言うか。軽い。



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