表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/61

ランカスターカップ 当日早朝

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

ランカスターカップ 当日 早朝

場所:首都競馬場 王立軍警備控室

語り:???

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 ここは首都競馬場内の王立軍警備控室。


 1人の士官が他部署から応援に駆け付けた4人の警備兵に何事か話していた。



「お前達は全員競馬場の警備は初めてか?」との士官の問いかけに、「はい!」と4人は同時に返答した。


「成程、それでか。」


 士官はそう言いながら4人を改めて眺めている。


 士官の様子に何が悪いのかわからない4人は何事かとお互い顔を見合わせた。


「問題はそのタスキだ。」


 競馬場警備の場合、士官は青、一般兵は黄色のタスキ状のヒモを左右の肩からクロスするように掛けている。


「ずれているだろう?」


 4人は自分のタスキを見てそれに気付いた。


「はい。申し訳ありませんでした!」


 とまた4人は同時に返答した。



「いや。いいんだ。慣れなければそうなる。だがお前達にそれにこまめに気付けと言うのも酷な話しだ。」


 4人はもう一度顔を見合わせた。


「後ろを向け。」


「はい?」


 意味が分からず、1人の兵士がそう声を上げた。


「いいから!」


「はい!」


 今度は4人揃って同時に背を向けた。



 士官は1人1人の背中にあるタスキの交差点に何かを付けて行った。


 それは2cm角くらいの大きさの紐と同じ色をしたタスキ留だった。


「これでいいだろう。」


 4人は少し動いて簡単にはタスキがずれない事を確認すると「ありがとうございました!中尉殿!」と揃って礼を言った。


「いや。いいんだ。ではお前達の配置と役割を説明する!」

 

「はい!」


「お前達は内馬場広場のコース沿いに配置される。

 役割は観客がコース内に侵入しない様に見張る事だ。

 内馬場広場は、その名の通りコースの内側に作られていて、馬券売り場だけじゃなく子供が遊ぶ施設もある。

 つまりイレギュラーが発生しやすいとも言える。

 だからレースが始まっても間違ってもレースに没頭することなど無い様に観客の様子だけを見ていろ!」

 

「はい!」


「それぞれの立ち位置については後で私が直々に現地で説明する!以上!」


「はい!」




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

ランカスターカップ 当日 早朝

場所:首都競馬場

語り:俺

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 厩舎を出てから前と同じくらいの時間で競馬場についた。


 競馬場までの様子は変わりなかったけれど、馬運車を下りると何となく雰囲気が違う。


 いつもと違って軍人みたいなやつがあちこちに配置されていて警備についているようだ。


 そこの責任者みたいなやつが寄って来て、関係者であるオーエンやリナにまで身分証の提示を求めているみたいだ。


 やはり厳重だな。


 確認が終わると、ようやく俺はリナに連れられて待機馬房に移動した。


 何と言うか本当に物々しい。


「ナイト。いつもと雰囲気が違うけど気にしないでね。」


 ああ、わかってる。


 俺がやる事はいつもと同じだ。


 相手は上がってるけどな。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

ランカスターカップ 当日 開場直後

場所:馬主席

語り:エリス

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 今日は今までと違って随分と物々しいです。


 そして馬主スペースにも変化がありました。


 普段よりずっと人が多く来ており、来ている方々の服装も華やかです。


 今日は特別なG1なので、ランカスターカップのパドックにも馬主が入る事が許されました。


 何から何まで特別なのですが、あまり浮かれてはいられません。


 ミストラルが何かをしでかすのを未然に防がなければ。



 今日はヴィルマとは休戦協定を結んでいます。


 そんな大袈裟な事をしなくても私は大人しく過ごすつもりでしたが、ケイトにどうしてもと言われて渋々承諾しました。


 まあ今日は騒ぎを起こさず、あの連中をしっかり見張るとしましょう。


 ランカスターカップのミストラルの出走頭数は9頭。


 そのうち勝負掛りが恐らく3~5頭。


 あとは、多分妨害馬でしょう。


 丁度その人数の集団が私達の斜め前のテーブルを囲んでいます。


 あれがミストラル。


 今まで気にも留めていなかった連中ですが、何かあったら全員消し炭に変えてやります。



「エリス、エリス。」


 ケイトが小声で私を呼びました。


「なんですの?」


「そんな怖い顔をして睨んでいたらまずいよ。

 あくまでさりげなく頼むよ。

 ほら、ヴィルマも。」


 ヴィルマの方を見ると完全に殺気丸出しで睨んでいます。


 いけません。私もこんな表情をしていたのでしょうか?



 今日の本命馬はヴィルマのグラジエーター。


 G1の本命となると、普段は他の貴族達が気軽にヴィルマに挨拶や激励に訪れるはずなのに、何故か遠巻きに私達を囲んで様子をうかがっています。


 大方また私達がケンカでも始めて機嫌を損ねていると思われているのでしょう。


 大変迷惑な話です。



「ほらヴィルマ。皆様がご挨拶にみえてますわよ。」


 私はそう言いながらヴィルマの肩を揺すりました。


「え?」


 ヴィルマは周りを見回すとたちまち他所行きの表情になりました。


「あら、皆さんおはようございます。」


 そうヴィルマが柔らかく挨拶した途端に、遠巻きに見ていた方々はあっという間に私達のテーブルを囲んできました。



 ヴィルマが周りに愛想を振りまいている時に、ミストラルの連中がヴィルマを見て嫌な笑いを浮かべているのを私は見逃しませんでした。


 ケイトに目配せをするとケイトも軽く頷いていました。


 この連中が何かを画策しているのはほぼ間違いないでしょう。



 競馬場入りする前に私達3人は集まって各厩舎の様子を報告しあいました。


 結果としてどこも異常なし。


 厩舎に対するトライアルの時の様な工作はありませんでした。


 と言う事は、競馬場で何かをやる可能性があります。


 ナイトが逃げると見て短距離の逃げ馬で潰しに来たやつらです。


 その時はこちらの作戦と合わずに盛大な空振りをしたようですが、今日は一体何をするつもりなのか?



 そう考えていたら場内アナウンスがあって、今日最初の第1レースの馬券発売を始めたとの事でした。


 どうやら長い一日になりそうです。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

ランカスターカップ 当日 開場直後

場所:待機馬房

語り:俺

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 何だろう?


 今日のエルフ達は不思議と落ち着きが無い。


 俺が出るメインレースは馬にとって一生一度の大レースだからそうなるのは仕方ないのかもしれない。


 でもまだ今日の開催が始まったばかりだと言うのに、何かソワソワしているやつが多い。


 うちの厩舎では今日の出走馬はどうやら俺だけだが、中には別のレースに他の馬を出走させる厩舎もあるだろうし、メインの緊張感がもう出てると言う事なのか?


 うーん。人のそういう緊張を馬は敏感に感じ取るらしいぜ?


 お前らまあ落ちつけよ。



 これからG1の前座のレースはその辺りも考えて馬券を買うべきかもな。


 でもまあよくわからん。


 図太い馬だっているんだろうし、落ちついた関係者だっているはずだ。


 第一馬券を買う身分に戻れるかどうかすらわからないんだし。



 リナはどうかと言うと、定期的に俺を見に来てくれている。


 でもその頻度が段々上がってきているのは気のせいか?


 そして今またやってきた。


「うん。大丈夫だね。」


 おいおい、前回から10分くらいしか経ってないよな?


「リナ落ちつきなさい。」


 オーエンが見かねたのかリナを連れ戻しに来た。


「でも・・」


「ランカスターカップと言ってもいつもとやる事は同じだ。

 ゼッケンが特製ゼッケンになったり、レース前のセレモニーがあったりするが、それは主催者側の話だ。

 それよりも落ちついてナイトが普段通りの力が出せるようにするべきだ。

 今のお前の様子だとナイトが何か異変を感じてしまうぞ?」

 

「わかりました先生。」


 そうそう落ちつけリナ。


 誰よりもお前が一番慌ててるぞ。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

ランカスターカップ 当日 1レース前

場所:馬主席

語り:エリス

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 ヴィルマを囲んでいた貴族達も立ち去り殆どの人達は1レースのパドックを見に行きました。


 1Rに出走馬も無く、馬券を買おうとも思わない私達は荷物を置きに控室へ向かいました。



 普段はこんな事をしなくても良いのですが、もうグラジエーターが勝ったつもりでいるのか、ヴィルマが周りの貴族たちに配るお祝い品を山ほど持って来ていて、どこかに置く必要があったのです。


 他にもそんな人を何人か見かけました。


 今日はそんな人達のためなのか、競馬場側が粋な計らいをしてくれたのか、ロッカールームの様な所を4部屋解放してくれました。


 特にどこを使うようにと指示はされませんでしたが、自然と部屋割は決まって行って、貴族が2つ、平民が2つ。


 平民のうち1つがどうやらミストラルが使う様になったようです。


 勿論仲の良い者がいれば双方身分の隔たりなく部屋を行き来しているようですし、あまり厳密には守られている感じがしません。


 単なる荷物置き場の様なものですし、それはそれで構わないのですが、ミストラルのエリアだけが他所との交流が無さそうです。


 平民の中でも嫌われ者と言うのは本当の様ですね。



 私はヴィルマとケイトと同じ部屋に行きましたが、そこには既に他の貴族達がいて何事か話していました。


 私達は開いている複数のロッカーにヴィルマの手荷物を適当に詰め込んでから部屋の一角に集まりました。


「参りましたわね。」


「そうね。」


「そうだね。部屋に籠られたらどうしようもない。」


「これじゃ、役目が果たせないじゃない。」


「仕方ないよ。私達に出来る事をやろう。」




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

ランカスターカップ 当日 1レース前

場所:ジョッキールーム

語り:アニー

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


 うーん。いよいよ本番だな。


 今日のアタシの騎乗予定は2レースだけ。


 本番と、本番と同じ距離のコースを使う前座の条件戦だけだ。


 それも他の厩舎からの頼まれだし人気も無い。


 当然勝利を目指すけど、コースのコンディションをしっかり見ないとな。


 本番の予行演習には、頭数も18頭揃ってりゃ文句なかったんだが10頭しかいねえ。


 まあやれないよりはいいか。



 本当は厩舎に今日使う予定のアタシのお手馬が何頭かいたんだが、アタシが本番に集中できるようにオーエンのオッサンが配慮して全部来週に回してくれた。


 昨日オッサンと話した作戦が使えるかどうか。


 しっかりと確認させてもらうぜ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ