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未勝利戦2

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未勝利戦 パドック周回

場所:馬主席

語り:エリス

△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race△▼Race


 ここは馬主席。


 競馬場のスタンドの最上階にあって非常に見晴らしがいいのです。


 そしてここは、ある一定以上の常識をわきまえた方々が集まる社交場。


 の筈なのですが・・・一部例外な方がいらっしゃるようですね。


 非常に残念なことですが、その人物と私はお互い面識があるのです。


 さっきからその人物がこちらを見て何やら含み笑いを浮かべているようですが無視すると致しましょう。



 私は今から出走する未勝利馬達によるパドック周回を見ています。


 うちの馬は6番。


 デビュー前はうちの一番の血統馬で随分期待したのですが、思ったように走りませんでした。


 オーエン先生にお聞きしましたら、とにかく怖がりでどうしようもないとの事でした。


 レースで他の馬が寄ってきたら勝手にずるずると後退して全く勝負になりません。


 稽古の時も他の馬を怖がって併せ馬すら出来ない。


 競馬場の大歓声や殺気だった雰囲気に飲まれて、すっかり怖い所だと思ってしまったようで、前回はここに来る事さえ拒もうとして大変だったとか。


 この馬には競走生活自体が合わなかったのでしょうね。


 食欲も随分落ちて出走する度に馬体重も減る一方でした。


 オーエン先生の計らいで前走から厩務員を優しいリナにしてもらって変化を期待しましたが無駄でした。



 情けない。


 これが今は亡き私のお母様が名付け親になって大活躍をしたあのダイアナの初仔でしょうか?


 この馬が生まれた時はそんな思い入れもありましたから本当に嬉しかったのに。


 ダイアナ同様の堂々たるレースを期待したのに。


 だからこの馬のレースを見るのが今まで本当に辛かった。



 前走後オーエン先生からこれ以上馬体重が落ちたら長期放牧に出して立て直しが必要、と言われましたが恐らく無駄でしょう。


 体は戻っても馬は頭がよい動物ですから、競馬場に対する印象が好転するとは思えませんし、同じことの繰り返しになりそうです。


 だから今回結果が出なかったらこの馬がレースに出る事は二度とないでしょう。



 でもほんの数週間前から随分様子が変わりました。


 厩舎からの話によると飼葉を沢山食べるようになったし稽古にも積極性が出てきたとか。


 オーエン先生から連絡を受けて追い切りの後に馬体を見に行きましたが随分良い体つきになってました。


 リナとも良い関係が築けているようで内心ホッとしました。


 今掲示板を見ても輸送による減りもなく随分体重が戻っています。


 今日は今までとは違ったレースを期待してもいいかも知れませんね。




 そう考えていたら常識をわきまえない人物が近寄ってきて、勝手に私のテーブルにつきました。


 やれやれです。


「エリス。どうしたのよ?」


「私は同席を許可した覚えはありませんわ。ヴィルマ。」


 この人物はヴィルマ。


 私の家と同じ公爵の爵位を持つアボット家の娘で、いつもこの様な不遜な態度なのです。


 緑の髪もきれいだし顔もスタイルも服のセンスも悪くない。


 外観だけは良いのに勿体ない。



「相変わらずねえ。折角人がお見送りをさせてもらおうと思ったのに。」


 ヴィルマはカールさせた緑の髪を弄びながらそう言いましたがお見送りなんてこの女が考えるわけがありません。


「何の事です?」


「そちらの一番手の良血馬の”あなたのナイト”が今日引退するって話。」


 私は黙ってヴィルマを見つめました。


「バレバレよ。あなたが厩舎で大声でオーエン先生に今回で引退させろって詰め寄っていたって評判だったしね。

 それに今日はあなたの所の一番手の騎手のアニーを乗せて来てるじゃない。

 これってせめてもの手向けなんでしょ?

 間違いないわよね。」


「いつもながらの地獄耳ですわね。それがあなたと何の関係が?」


「だから私も最大の敬意を払わなきゃって思ったのよ。うちの5番手の馬を用意したわ。

 名前はイレイザー。騎手もうちの一番手のハンスを乗せたし失礼は無いわよね。」


 そう言ってヴィルマはパドックを見ました。


 その馬は一番人気で丁度うちの馬の前を歩いていて確かによく仕上がっているみたいです。


 でも気になる点が一つ。



「この馬は未出走ですわね。まだ新馬戦に・・・」


「そう!去年の夏に怪我をしてここまで使えなかったけどようやく仕上がったのよ。

 あなたの言う通り新馬を使おうと思ってたけど話を聞いてあえてここを使ったの。

 あなたの所の馬を文字通り消し去るためにね。」


 やれやれ自分のつまらない意地のために・・


「そんなにダイアナの血が目ざわりですの?あなたの所の馬が一度も勝てなかったダイアナが。」


 私の言い方が気に障ったのでしょう。


 ヴィルマは髪の毛を弄んでいた手をピタッと止めて私を睨みつけました。


「親の代で負けたからって子供の代で勝てないとは限らないわよ。

 今からそれを証明してあげる!」

 

「どうぞご勝手に。あっそうそう、あなたの髪についてるロールパン。あんまり触ると売り物になりませんわよ。」


「なんですってー!!」


 そう叫んでヴィルマはテーブルを叩いて立ち上がりました。


 そのせいで私達が周りの席から要らない注目を浴びているのは間違いないでしょう。


 この手の話には尾ひれがついて大袈裟に伝わってしまいます。


 後でお父様に何といわれるやら・・・


 ほんと、やれやれです。



「君達静かにしてくれないか?」


 そう言って私達に注意してきたのは、私とヴィルマの共通の顔見知りでした。


 名前はケイト。伯爵家の娘です。


「失礼するよ。」


「どうぞ。」


 私の許可を得てケイトも私のテーブルにつきました。


 ヴィルマと違ってケイトはちゃんと礼儀をわきまえています。


 今回もヴィルマを抑えてくれて正直助かりました。


 ヴィルマも何故かケイトの前では大人しいのです。


 ただケイトもちょっと変わっていて黒髪は短く、服もブレザーにスラックスという男性の様な格好をいつもしています。


 所謂男装の麗人と言われる様な存在なのかも知れません。


 本人によるとそんな自覚は無くて単にこの方が楽だからこの恰好をしているそうですが、何故私の周りには変人ばかりが集まるのでしょうか?



 因みに伯爵家の馬は2番人気の様です。


「あらケイト。あなたの馬もかなり仕上がってるわね。どうやら今日はあなたのレスターとうちのイレイザーの一騎打ちみたいね。」


 わざとらしくヴィルマはそう言いますが、私にとってはどうでもいい事です。


 2人の馬が出る事さえ言われて初めて気がついたのですから。


 今日は最後になるかもしれないダイアナの初仔の走りを見るためだけに私はここに来たのですから。




 どうやら時間が来たようです。


 馬達がパドックを出て本馬場に向かうのに合わせて私もそちら側に移動する事にしました。


 ヴィルマはケイトに任せる事にします。


 レースくらいは騒がしい邪魔者抜きでじっくりと見たいと思いますので。







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