ランカスターカップ 前日~出陣
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ランカスターカップ 前日 夜
場所:オーエン厩舎
語り:俺
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今夜は何やら物々しい。
まあジェイクのバカがやってきて以来の事なんで今更ではあるけれど、私兵の放つ殺気がピリピリとした雰囲気を作り出している。
明日がレースだからだろう。
厩舎の周りを更に増員された私兵がしっかりと固めている。
こっちは考えごとに忙しいけど、静かにしてくれているから何の問題も無い。
丁度今くらいの時間だったな。
前回ジェイクのバカがやってきたのは。
そう思っていたら来たよ。お嬢様だ。
エリスが厩舎に近づいてきたら入り口を固めていた私兵が会釈をした。
「ご苦労さま。変わりはありませんか?」
とエリスは私兵に声をかけた。
「はいお嬢様。無事です。
競馬場への出発する時間まで我々が交代でしっかりと見張りますのでご安心ください。」
「では頼みましたよ。今日は馬を見たらすぐに帰りますが、異変があれば何時でも構わないので私を呼びなさい。」
「はい。お嬢様。」
何とも頼もしい。
あーでも、何となく今夜はバカどもは来ない気がする。
何となくだがな。
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ランカスターカップ 前日 夜
場所:オーエン厩舎
語り:エリス
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何となく気になって厩舎まで来てみましたが無事ですか。
また賊が来てたら前回同様半殺しにしてやろうと思って来ましたが、異常を求めてはいけませんね。
ナイトも無事の様ですし、これだけの私兵の中に飛び込んでくるバカもいないでしょう。
今日は帰るとしましょう。
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ランカスターカップ 前日 夜
場所:オーエン厩舎前
語り:リナ
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前回ジェイクさん達が来たのは丁度今くらいの時間です。
何となくナイトが気になって厩舎へ行こうとしたら向こうからお嬢様が歩いて来られました。
「こんばんは。お嬢様。」
「あらリナ。あなたも厩舎が気になったのですか?」
「はい。丁度今くらいの時間でしたから。」
どうやらお嬢様も私と同じだったようです。
「ナイトは無事ですわよ。
うちの私兵が周りを固めてますから、賊もそう簡単には近寄れないでしょうけど。」
「ありがとうございます。お嬢様。」
私はそう言って頭を下げた。
「いいのです。あなた達に安心して仕事をしてもらうのも大事な事ですから。
それにここの馬達はローズ家の財産です。
しっかり守るのは当然のことですわ。」
そんな大事な馬を私はお預かりしている。
しっかりナイトの世話をしなきゃ。
「どうしました?リナ。」
いけない。ついボーッとしてしまいました。
「いえ。何でもありませんお嬢様。
私はこのまま定時巡回に行って参りますので失礼します。」
「そう。お仕事ご苦労様。」
「恐縮です。」
私がそのまま厩舎に向かおうとすると、「リナ。」とお嬢様に呼び止められた。
「はい何でしょう?」
「ナイトを頼みましたよ。」
「はい。」
私がそう答えるとお嬢様は少し微笑んでお帰りになった。
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ランカスターカップ 前日 夜
場所:オーエン厩舎
語り:俺
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「うん。無事だね。」
リナは俺の顔を見るなりそう言った。
まあ確かに無事なんだが。
エリスに続いて様子を見に来てくれたんだな。
「お嬢様に言われたんだ。」
何だ?何かきつい事を言われたのか?
「『ナイトを頼みましたよ』って。」
ほう。あのお嬢様がそんな事を。
「お嬢様のご期待に添えるくらい、私はナイトの世話が出来てるのかな?」
そう言いながらリナは俺の首筋を撫でている。
言われるまでも無くリナは一生懸命俺の世話をしてくれてる。
それはいつも一緒にいる俺だから良くわかる。
こっちに飛ばされて相手がジェイクのバカだったらいつも喧嘩だろうさ。
リナだから俺もこれだけ頑張れているし、今の生活も悪くないと思えている。
「約束だよ。明日も無事にここに帰ってくるんだよ。」
わかったよ。
俺だって怪我とかしたくない。
「じゃあね。また明日。」
そう言ってリナは厩舎を出て行った。
俺もそろそろ寝るか。
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ランカスターカップ 当日 早朝
場所:オーエン厩舎
語り:俺
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翌朝早々俺はリナに誘導されて厩舎を出た。
そして厩舎を出ると何故かいつもと様子が違っていた。
厩舎スタッフのエルフ達が外に勢揃いしていて、俺達を見るなり周りを囲んできた。
そして口々に「頑張れよ。」とか「アボットの所に負けるな。」とか声をかけながら俺を撫でたり、リナに握手を求めてきた。
その中には最終追い切りで相手を務めてくれた2人のラッドもいた。
先週のジュリアの時はどうだったのかはわからないが、3歳最高のしかも一生に一度しか出られないレースなのだから周りの思い入れも違うのだろう。
俺はここのエルフ達が好きだ。
みんなそれぞれ担当馬を大事にしている優しい奴ばかりだし、そんな厩舎の雰囲気はとてもいい。
俺が向うでいた職場でここまで雰囲気の良い所って無かったな。
いつもギスギスしてて息がつまりそうな職場の時は、休憩の時は出来るだけ遠くへ行って、そこの空気から離れる様にしてた。
そういう所に限って殆ど休憩が削られてしまったりしたんだけどな・・・・
その上毎回何時間かタダ働きさせられたり・・・
これはオーエンの人柄による所が大きいのかもしれない。
俺の経験上、嫌な職場って必ず嫌なやつが仕切ってたからな。
職場のやつらも段々それに染まって嫌なやつだらけになってくる。
そうなれないやつは、余程の事情が無い限り早々に辞めて行くから、そこの職場の嫌なやつの比率が更に上がってくる。
表向きには華やかに見えたり有名だったりする所でもそんな所は多かった。
あっさり採用してくれたと思ったら何の事は無い、辞めるやつが多いから沢山採用してただけだった。
あの頃は本当に人間不信が加速しそうだったよ。
元の姿に戻ってもここでならずっと働いていたいよ。
でも戻れるかどうかすらわからないんだよな。
それに元の姿に戻ったら元の世界に戻されるのかもしれない。
これに限っては誰にもわからない。
「ナイト。そろそろ行くよ。」
もう時間なのかリナが俺を促してきた。
そうだな。そろそろ行くか。
厩舎のエルフ達は馬運車に乗った俺達を、姿が見えなくなるまでずっと手を振って見送ってくれた。