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ランカスターカップ 一週前

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ランカスターカップ 一週前 朝

場所:調教コース

語り:俺

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 厩舎にいるエルフ達の話を聞いていると、今週末にスカーレットカップ、俺の世界で言うオークスがある。


 と言う事は俺の出番は来週末の様だ。


 そして今日は一週前追い切りと言う事になる。



 リナを背にした俺は左右を見回して今日の調教パートナーを探していた。


「ようリナ待たせたな。」


 そう言って現れたのはアニー。


 前回同様同じ厩舎のジュリアという名の3歳牝馬に乗っていた。


 この馬が今週の主役か。


 がんばりなよ。



 先週に続いてこいつと併せ馬か。


 とそう思っていたら


「姐さん。お待たせしました。」


 とG1古馬に乗ったマイクが現れた。


 こいつはアニーの弟弟子でマイクと言って、以前俺の主戦騎手だったらしい。


 時々追い切りの時に一緒になるけどソツなく乗ってるようだし、多分腕はいいんだろう。


「バカ野郎!姐さんはよせっていつも言ってるだろう!」


「すみません。姐さん。」


「お前なあ・・・」


「フフフ・・・。相変わらず仲いいね。」


 姉弟弟子のやり取りを聞いてリナが堪え切れずに笑いだした。


 アニーはリナを見てちょっと照れたように赤くなった。



 そして照れ隠しをするように、「おい、打ち合わせの内容を確認するぞ」と二人に言った。


「まずマイクが先行して適当に流す。次にアタシが追いかけて並びかける。最後にリナが合流。

 これでいいな?」


「わかった。」


「はい。姐さん。」



 早速マイクが出発した。


 そしてアニーが暫くして追いかけ始めた。


 リナは時計を見ながら出発のタイミングを計っている。


 そして「行くよナイト。」と声をかけてきた。


 あいよ。



 俺はコースに出て先行二頭を追いかけた。


 もうアニーはマイクに追いついて併せ馬の形になっている。


 速度も思っていたより結構速い。


 それに今までの追い切りの中で先行馬との距離が一番ある。


 先行している二騎はコーナーをもう左へ曲がり始めている。


 追いつけるのか?


 差が大きいせいかリナのムチが軽く入る。


 俺はそれに応える様にスパートした。


 前を行っている二騎が段々と大きくなって最後の直線に入った。


 途中でアニーが振り返って俺に気付いたようだ。


 アニーはジュリアにムチを入れて加速した。


 G1古馬もそれに呼応するように速度を上げた。



 アニーが必死に追うのとは対照的にマイクの手綱は殆ど動かない。


 そうこうしているうちにゴールが見えてきた。


 俺は更に加速して追いかけた。


 これはとても追いつけない!


 それでも必死に追い込んで何とか二頭に首差くらいまで並びかけた所がゴールだった。



 あー疲れた。


 いくらなんでも最初から距離差がありすぎだろ?


 無茶させやがって。


 段取りのミスか?


 そう思って周りを見回したけどリナもアニーもマイクも至って普通の表情だ。


 何でだ?




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ランカスターカップ 一週前 朝

場所:調教コース

語り:アニー

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「どうだった?アニー、リナ。」


 オーエンのオッサンが追い切りから戻ってきたアタシとリナにそう聞いてきた。


「ジュリアはこんなもんだろ。最終追い切りとしちゃ充分だと思うぜ。

 ナイトがゴール前だけ飛んでくるように、リナがいい具合に差をつけてくれたから、

 ゴール前で粘る訓練も出来たし道中の走り過ぎも防げた。」


「そうか、ならいい。今日の主役はジュリアだからな。

 後は本番だ。当日も頼むぞアニー。」


「ああ、任せとけ。」



「ナイトはどうだ?リナ。」


「はい、アニーも言いましたが最初から差をかなりつけてましたから遅れは当然です。

 さっきはよくあそこまで差を詰めたと言うのが正直な感想です。

 このまま本番まで順調にいけばいいと思います。」


「よしわかった。二頭とも順調で何よりだ。

 じゃあいったん解散。」

 

「おいオッサンちょっと待ってくれ。」


「何だ?アニー。」


「一週前だしナイトにそろそろ・・」


「そうだったな。わかった。」


 まあこれであいつの気が済むなら安いもんだ。




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ランカスターカップ 一週前 昼下がり

場所:オーエン厩舎

語り:俺

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 追い切りも終えてぼんやりと過ごしていた昼下がり、リナが新聞を持って厩舎にやってきた。


 そしてリナは俺を怪訝そうに見た後、意を決したように話しかけてきた。


「ほらナイト。ナイトの好きな新聞だよ。」


 そう言ってリナは俺に新聞を広げて見せてくれた。


 ついでに写真をタップして浮き出た映像も見せてくれた。


 これはジュリアだな。



「アニーがね。”ナイトがパドックでいつもあの酔っ払いのオヤジに絡むのは新聞が好きだからじゃないのか?”

 なんて言うんだよ。」

 

 俺は内心ドキッとした。


 まさか記事から色々読み取っていたなんて知れたら事だ。


 ・・・ん?


 そんな想像は普通しないよな?


 まあ俺は堂々としてればいいか。


「だから”厩舎で新聞を読んであげたらナイトも落ちつくんじゃないか”って。

 これから本番前まで毎日ナイトに新聞記事を読んであげるし見せてあげる。

 だからもうあのおじさんに絡んじゃ駄目だよ。」


 おおっ。アニーのやつ良い事言うじゃねえか!


 リナが新聞を読んでくれるなら枠順だって前の日に分かるし、作戦を立てるのも随分楽になる。


 そうなったらあんなオヤジに用は無い。


 あばよ。オヤジ。




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ランカスターカップ 一週前 昼下がり

場所:ローズ公爵 本邸

語り:エリス

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 私とヴィルマとケイトは先週の事でそれぞれの親からこっぴどく怒られて、今では謹慎の身です。


 そのせいで屋敷を出る事は週明けまで許されません。


 どこでどう情報が漏れたのか、私達が潜入調査をした事までバレていました。


 あの日ケイトは折角手に入れた情報を紛失したとの事ですし、あった事は殆ど話してくれませんでした。


 それに妙な事にその質問をした時に顔を赤くしていました。


 何かあったのでしょうか?



 だから今回のミーティングは私ではなくお父様が行くことになりました。


 丁度今週のスカーレットカップにうちのジュリアを出しますから、ついでにナイトの事を聞いてもらうつもりです。




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ランカスターカップ 一週前 昼下がり

場所:オーエン厩舎 応接室

語り:アニー

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 さて今日はジュリアの本番前、ナイトの一週前のミーティングなんだが、いくら退屈でも眠るわけにはいかねえ。


 何せ二頭ともアタシが主戦なんだし、よりにもよって今日は公爵様がおいでだ。


 所であのお嬢様は一体どうしたんだ?


 まあいいけどよ。


 今はオーエンのオッサンがジュリアについて話してる所だ。


 手間もかからない馬だし、勝てるとは言わないが、悪くない着順には来るだろう。



「・・・というわけでして、ジュリアは順調にきております。」


「よくわかった。あとは本番だな。頼むぞアニー。」


「はい。」


 何故かこの人にはアタシらしくない返事になってしまう。



「そう言えば厩舎にはあれから変化は無いか?」


「はい。私兵の方々のおかげで平穏に済んでおります。」


 平穏ねえ。まあ厩舎の中の雰囲気は仕方ないんだろうけどさ。


「ならいい。これからも続けるぞ。」


「はい。よろしくお願いいたします。」


 そう言いながらオーエンのオッサンは頭を下げた。



「ナイトの様子はどうだ?リナ。」


「はい。懸念された疲れも殆ど無く順調にきています。

 お嬢様から送って頂いている野菜や果物も喜んで食べています。」


「そうか。ならいい。そちらも続けるようにしよう。」


「ありがとうございます。」


 今度はリナが頭を下げた。


 ナイトに関してはえらく短いな。


 細々とした事は来週聞く気かな?


 まあミーティングなんてもんは短い程いい。


「そろそろ時間だ。失礼する。」


 公爵様はそのまま席を立ってお帰りになった。




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