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潜入3

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パーティ当日 夜

場所:ミストラル パーティ会場 VIPルーム隣室

語り:ケイト

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『そのトライアルの二着馬のレスターも侮りがたいぞ?

 あのレースに出てたうちの馬達を全部競り落としたのはあの馬だ。』


 うちの馬も評価してくれるのか。


 お前の様なやつに評価されても嬉しくは無いけどね。


『ああ確かにあの馬は不気味だ。だがあれこそ秋からの馬だろう。』


 今度はコーディか。


 確かにうちの馬は先生からも本格化は秋からだと言われてる。


 こいつら一応馬を見る目はあるみたいだな。



『まあとにかくさっき決めた作戦通りに行こうぜ?

 裏工作も含めてな。』

 

『おいちょっと待ってくれ。サム。』


 ん?これは誰だ?


『なんだ?ロニー。お前まで協力したくないなんて言うんじゃないだろうな?』


 ロニー?ロニーホワイトか?


 確か私達が選んだ妨害馬候補の馬主の1人だな。


『違う。俺はちゃんとグラジエーター包囲網に参加するさ。どこまでついて行けるか分からないがな。

 ただなあ。エリオットステークスはアクシデントで段取りは全てパア。

 トライアルにしてもエリスズナイトは逃げずに中団待機でサムが用意した逃げ馬は無視された。

 だからジェイドの主張もある意味面白いんじゃないかって気がするんだ。』


 グラジエーター包囲網?私達が検討した様な四方を囲うやり方か?それとも他のやり方なのか?


 頭数は?うーん・・ここでも肝心なことが分からない。


『だが今更混ぜっ返されてもなあ。』


『だからお前さんがさっき言ってたゲームだよ。

 単なる余興じゃなくて、方針を決める大事なゲームだ。

 その代わりジェイドの方は無理を通すんだから賭ける金額は10倍だ。

 これならどうだ?』

 

『ああいいぜ。』


『サムとコーディは?』


『さっきも言ったが俺はミストラルが勝つなら誰が勝ってもいい。』


『俺も同じだ。』


『そうこなくちゃな。よーし見てる俺達もどっちが勝つか賭けようぜ!』


『おお!』


 何だこいつら。


 ゲームの勝ち負けで方針変換か?


『よし、そうと決まればあの女を呼んでくる。』



 ん?あの女?


 ひょっとして私か?


 私は慌てて機材を耳から離してショーツの後ろ側に隠した。


 幸いにしてロングヘアのウイッグで隠し場所は目立たない。


 最初はレイの提案で機材を脚の裏地のスリットの横につけていたけれど、今はそこにつけ直す余裕がなかった。


 サムが扉を開けたのはその動作が終わるのとほぼ同時だった。




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パーティ当日 夜

場所:ミストラル パーティ会場 VIPルーム

語り:ケイト

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 元の部屋に戻った私はサムに言われて部屋の一角のステージの様な所に立たされている。


 私は部屋の男達から奇異の目で見られていた。


 何やら視線がいやらしいと言うのはこういう事を言うのだろう。


 服は体のラインに張り付くようなワンピースで、胸の上半分は大胆に開いていて谷間が見えているし、脚の横側には腰の近くまでスリットが入っている。


 こんなものを着ているからある程度は仕方ないのだろうけど、やはり気分がいいものではない。



 どうやらサムとジェイドがテーブルを挟んでカードに興じるようだ。


「ジェイドの賭け金はいつもの十倍で勝負。

 どちらか5回負けた時点で勝負ありだ。いいな?」

 

 どうやらロニーがこの場を仕切るみたいだ。


 まあどうでもいいが。



 ジェイドが賭け金として帯封を巻かれた高額紙幣の束を5つテーブルの上に積んだ。


 一つの束に百枚の紙幣が束ねられていて合計五百枚といった所か。


 さては最初からゴネる気でやってきたな。


 あれ?ジェイドは賭け金をテーブルに積んでるのにサムはテーブルに何も置いてないぞ?



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 ゲームは静かに始まった。


 お互いディーラーであるロニーから指定の枚数のカードを貰い、自分の手札を覗き込んでいる。


 二人とも手札が気に入らない様で、相手の表情を確認しながらお互い何回も降りて何度も配り直しがされる。


 そしてそれぞれ5度目に達した時に、「よしこれで二人とも規定の回数だ。」という野次が外野から飛んできた。


 サムとジェイドは一瞬睨み合ってからカードをテーブルの上に広げた。



「くっ!」


 ジェイドは悔しそうに俯き、サムは得意気な顔になった。


「悪いなおい。」


 そう言ってサムは紙幣の束を一つ手元に引き寄せた。


「くそ!次だ!」


 とジェイドはいきりたった。


 高額な賭けをしてるし仕方無いんだろうな。



「おいおいジェイド。何か忘れてるぜ。」


 となだめる様にロニーが言った。


「ああ、そうだな。」


 ジェイドはそう返事をしてから私を見た。


 一体何だ?


 そう思っていたらサムが、「おいこっち来い。」と私に言ってきた。


 私がステージを下りてテーブルに近づくと、「ここに立て。」とテーブルの横のサムとジェイドの丁度真ん中の位置を指さした。


 正面には見物人がいる。


 そしてそれぞれ目がいやらしい。


 私がそこに立つと今度は「前にかがみな。」と言ってきた。


 私が少しかがむと「もっとだ。」と言ってきた。


 見物人の目が私の胸の谷間に注がれているのがよくわかったが仕方がない。


 ここは我慢だ。


 私の上半身がテーブルの上に被さる様に更にかがんだ瞬間、私の胸の谷間にざらついた指と共に何かが押しこまれた。


「キャッ!」と私が悲鳴を上げて後ろに飛び退くと、見物人から「ギャハハハ」と下卑た笑いが巻き起こった。


 我ながらこんな悲鳴を上げるなんて恥もいいとこだ。


 こいつら絶対に許さない。



「おいおい落ちついて見ろよ。金だよ金。」


 胸に押し込まれたものを取りだすと、高額紙幣が一枚出てきた。


 押し込んだのは負けたジェイドで、どうやら勝負に負けた方がこうする決まりの様だ。


 それにしても本当に下品なやつらだ。


「おい、礼くらい言えよ。」


 とサムが不機嫌そうに言ってきた。


「あ・ありがとうございます。」


 私は怒りを堪えて、ようやくお礼を口から絞り出した。


 お前達相手が私で良かったな。


 もしエリスだったらこの建物全体が消し飛んでここら一帯が焦土と化すところだ。


「いいぞ、さっきの所へ戻れ。」


「はい。」


 私はさっきのステージの上に戻った。



 続いて二戦目、さっきと同じ様な駆け引きがあって今度はジェイドが勝った。


 さっきの位置に進み出てかがむと、今度はサムが遠慮なく胸に紙幣を押し込んできた。


 指の感触が相変わらず不快だ。


 こいつら後で全員仕返ししてやるから覚えてろ!


 そしてステージに戻ろうとしたら、「おいおい待てよ。」とサムが言ってきた。


「こっち側に来い。」


 サムは私をさっきとは反対側の位置に誘導した。


 私は見物人達に背を向けて立った。


「違う。後ろを向け。」


 つまりにテーブルを背後にして、正面の見物人から見える位置になる。


 私が言われた通りにすると「靴を脱げ。」とサムが言った。


「え?」


 どういう事だ?


「お前は俺の賭け金なんだよ。

 ジェイドは金を、俺はお前の着てる物を賭けたんだ。

 そのユニフォームだったらお前が身につけている物は5つの筈だ。

 だからお互い5対5の賭け金というわけさ。」

 

「そんな。」


 その瞬間「ギャハハハハ。」とまたしても見物人から笑いが起こった。


 ジェイドは5つの札束。


 サムは私の靴、イヤリング、ワンピース、下着二枚を賭けたと言う事か。


 最悪だ。



「そんな事出来ません。」


 私はそう言って部屋の出口の廊下に続く扉へ向かった。


 それなのに何故か部屋中の男達は何もしないで笑っている。


 私は構わずドアノブに手をかけた。


 ドアノブを回して押しても引いても開かない。


 ガチャガチャと音がするだけだ。


 そうか、さっきの聞き始めにしていた音はこれだったのか。


 サムが戸締りの確認をしていたんだな。


「残念だったな。ここの部屋は外からも内からもカギを使って戸締りをする構造なんだ。」


 とサムは得意気に言ってきた。


 扉を見てみると、サムの言う通りドアノブのすぐ上にカギ穴がある。


 カギを使うか破壊しなければここから出られない。


 それともサムをブチのめしてカギを奪うか?


 いや、そんな事をしたら余計な警戒を招くし、サムがカギを身につけているとは限らない。


 どこか別の場所にしまっている可能性だってある。


 一番避けなければいけないのは入手した情報が死んでしまう事だ。


 だから強行手段はとれない。



「心配するな。勝ったらちゃんと分け前はやるし、勝っても負けても手当は弾む。だからやれ!」


 とサムは私に追い打ちをかけてきた。



 私は渋々靴を脱いだ。



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