表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/61

潜入2

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

パーティ当日 夜

場所:ミストラル パーティ会場 VIPルーム

語り:ケイト

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



「はいどうぞ。」と中から男の声が聞こえてきたので、「失礼します」と一声かけて私は部屋に入った。


 中には10人前後の男がいてグラス片手に話しこんでいたりタバコを吸っていたりやってる事は様々だ。


 その中には国王軍の制服を着た士官らしき者までいる。


 そう言えば見覚えのある人物が何人かいる。


 そうだ。馬主席で見たのを思い出した。


 相手の反応を見ると私だとばれていないようだ。


 どうやら変装は成功らしい。



 周りを見回すと、かなり豪華な造りだけど何というか下品だ。


 単に金ピカにすればいいというものでも無いだろうに。


 これが成金趣味なのか?


 そして部屋の奥に大きな窓があって、ついさっきまで私がいたパーティ会場が見渡せるようになっていた。


 成程ここで私の事を見てのご指名か。


 日頃は男の格好をしているから意識もしてないけど、私も女として少しは自信を持っていいのかもしれない。


 こんな時でなければな。



 このまま立っていても仕方がない。


 声くらいかけてみよう。


「所でご用件は何でしょう?」


 と私がそう言った途端、そこにいた全員が大笑いを始めた。


「アハハハハ・・・ご用件ときたよ。」


「クククク・・・え?何するか聞いてないの?」


 辛うじて二人だけが私に答えてきたけれど、残りはまだ腹を抱えて笑っている。


「ええ、マネージャーからはここに来るようにと言われただけですので。」



「え?何?新人さん?」


「はい、そうですけど。」


「じゃあ知らなくて当然だな。それにしてもあのマネージャー人が悪い。

 おいサム!お前の教育がなって無いんじゃねえの?」

 

「おいおい、オーナーの俺のせいにされても困るぜ!」


 サム?ひょっとしてサミュエル・ブラウン?こいつがラージワンのオーナーか?


 馬主席で見覚えのある人物の一人だし間違いないだろう。


 だとすればこの中にバイエルやペドロのオーナーもいる可能性が高い。


 そうか。こんな所に集まっていたから下の会場では何も無かったんだな。


 更に言うならこの建物はサムの持ち物で、こいつらにとって安心できる場所と言う事か。


 そういう肝心な情報をヴィルマは事前に言ってくれなかったな。


 急だったから把握できなかったのかもしれないが、分かっていれば違う動き方も出来たかもしれないのに。


 それとヴィルマだったらここにいる者全員の名前と顔を一致させる事が出来ると思うけど、私は貴族はともかくミストラルのメンバーをあまり覚えていない。


 どちらかと言えば関わりたくないやつらだったし、こんな感じで接するとは思っても無かったからな。



 そうだとしてもこれ以上下らない与太話を続けられても聞くだけバカらしい。


 この仕事の時間内に一応の目途をつけなきゃいけないんだし。


 ちょっと仕掛けてみるかな。


「御用がおありで無いなら失礼します。」


 私は一礼してわざと踵を返してみた。


 すると誰かがすぐに席を立ちあがる音が背後でして、そいつは慌しく私を追い越して来た。


 そして真横から腕が伸びて来て扉の前をつっかえ棒の様に塞いできた。


「おいおい待てよ。オーナーの俺に恥をかかせる気か?」


 腕の主はサムと呼ばれた男で、こいつが何か喋るたびに酒臭い息が私にかかる。


 更に言えばこいつは喫煙者の様で、息の臭さに輪がかかっている。


 その上走ったせいで息も荒い。


 正直かなり不快だ。



「ではご用件をお話し下さい。」


 私は何事も無かったかのようにもう一度尋ねた。


 こいつは私に答えるように何かを言いかけたけれど、


「おい、サム。まだ話の途中だぜ。」


 という声が背後からした。


 こいつは一瞬迷ってから、


「仕方ねえな。ちょっと話し合いが済むまで隣の部屋にいろ。」


 と言いながら、隣の部屋へのドアを指さした。


 私は仕方なく指示された場所に移動した。


 但し、置き土産は忘れなかった。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

パーティ当日 夜

場所:ミストラル パーティ会場 VIPルーム隣室

語り:ケイト

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


『おいサム随分慎重だな。』


『まあな、これでよしと。』


 サムの声に重なる様に何かガチャガチャと2回金属音がした。



『よしゲームを始めるぜ。

 話も煮詰まってたし気分転換と行こうじゃねえか。

 カードかダーツにしようぜ。』


 とサムが男達に向かって声をかけた。


『おいおい、余興は良いがさっきの話の方が大事だろ?ランカスターカップの本番でチャンスのある馬を本気で生贄にする気かい?』


 チャンスのある馬だって?


 私は声が出そうになるのを必死に抑えた。


 私はさっきこちらの部屋に移る前に調度品に送信器を仕掛けておいた。


 今手元の受信機で話し合いの内容を録音しつつ聞いている所だ。



『なんだよ。ポイント上位者同士でいつもこうして決めてたじゃねえか。ジェイド。』


 ジェイド?ジェイド・ブラックか?


 こいつはバイエルのオーナーだな。


『そりゃ普通の重賞なら文句はねえさ。

 でもランカスターカップはG1中のG1で3歳最高のレースだぜ?

 それも今回勝てば我らミストラルにとっての最初の栄冠だ。

 まあ順番で行けば、前走アクシデントがあったせいで勝たせてもらえなかったあんた達の番なんだが、レースを有利に運ぶための黒子にしちゃバイエルは格が上すぎないか?』


 エリオットステークスの上位2人がちゃんと揃ってる。


 ヴィルマの情報は正しかったわけだ。


 それにしてもこいつらこっちの予想通り星の貸し借りをしてるみたいだ。


 本当に最低なやつらだ。



『お前のバイエルはシルバーバレットの計算違いの落馬で逃げ粘っただけじゃねえか。

 奇跡が二回も起るかよ!』


 サムのやつ勝たせてもらえるはずだったエリオットステークスを取れなかった事が相当悔しかったみたいだな。


『おいおいシルバーバレットは左回りはからきしの馬だぜ?

 性懲りも無く出てくるみたいだが、今度は間違いなくバイエルが上だぜ?

 それに何度も言うようだが単純に権利をスライドさせるにはレースの格が違いすぎるぜ?』


 バイエルの馬主も欲が出てきたか。


 このやりとりをシルバーバレットの関係者が聞いたら怒るくらいじゃ済まなそうだ。



『だが今度は有力馬からかなりマークされるだろ?

 グラジエーターのハンスは腕達者で有名だ。

 お前の馬を利用するだけ利用して最後の直線でポイ捨てされるのが落ちだぜ?』


『けっ。』


『おいおい仲間割れはよそうぜ。貴族達に出来ない事を俺達はやって好成績を出してるんだし。』


 この声は誰だかわからない。


『お前さんのペドロだってサムと同じでバイエルに犠牲になって欲しいんだろ?コーディ。』


 相変わらずバイエルのオーナーは未練タラタラだな。


 コーディはペドロのオーナーのコーディグリーンか。


 会話の内容から言っても間違いない。


 この声はさっき私に新人かどうか聞いてきたやつだな。


 これでエリオットステークス上位三人そろい踏みというわけか。



『やれやれ。バイエルのオーナー様はいつの間にか貴族みたいな事を仰る様になったな。』


『何だとコーディ!?もう一回言ってみろ!』


『レースの格がどうのって、言ってる事が貴族その物じゃねえか。』


『う・・』


『俺達ミストラルは組織で1つだ。

 誰が勝とうがレースが終わった時にトロフィーがミストラルに来ればいいのさ。

 レースの賞金や種馬にした馬の権利だって名義そっちのけで会員全員に分配してるだろ?

 俺は誰が勝とうが構わないぜ。

 サムのラージワンだろうがあんたのバイエルだろうが。

 俺にとっちゃ名誉なんて質にも取ってくれねえもんなんてどうでもいい。

 そんなものを有り難がるのは貴族や頭の固い老人どもだけで充分だ。』


 昨日三人で話した通り、こいつらが全体で一つの馬主そのものという考えは合っていた。


 でも私達が思っていた以上にタチが悪い。


 ただ今回に限っては一枚岩では無いみたいだな。



『前回もそうだったがグラジエーターの実力は現時点では一枚抜けてる。

 先行馬では残念ながらあいつに対抗できる馬は俺達の所有馬にはいねえ。

 さっきも言ったがお前のとこのバイエルだって2着とは言え完敗だったじゃねえか。

 だから先行不利の流れを無理やり作って追い込みをかける作戦しかねえだろ?

 追込馬だったらサムと俺の馬が有力だったし、ポイントも俺達が上位だった。

 ジェイド以外のみんなはそれで納得してくれて協力してくれるんだ。

 どうするんだい?』



『もし俺のバイエルが犠牲になったとしてもあの馬はどうするんだ?』


『あの馬?』


『トライアルを勝ったエリスズナイトとか言う馬だ。

 2月の未勝利戦でいきなり化けやがってから3連勝したやつだよ。

 トライアルでサムの逃げ馬をぶつけて潰そうとしたやつだ。

 ついでに裏工作もやったけどな。』


『おいおい裏工作なんて大声で言うもんじゃねえよ。ジェイド。

 前回は3バカがドジってくれたみたいだが、今回の狙いを隠すいい囮になってくれそうだぜ。』

 

 やっぱりエリスの所の騒ぎはこいつらのせいか。


 許せない。



『当然方針としては、さっきの打ち合わせ通りやるんだろ?サム。』


 とコーディが改めて確認している。


『まあな。

 まあエリスズナイトは大丈夫だろう。

 本番と同じ舞台をいい勝ち方をしたとかでトライアル勝ちの馬はそこそこ人気になるが勝った試しがねえ。

 それに3連勝の内容を見たか?あの馬脚質すらまだ定まってない未完成品だぜ?

 秋ならともかく今は来ても二着がいいとこだろう。』


 打合せだって?


 一番肝心な話はもう終わっていたのか・・・


 もう少し早く来てれば相手の手の内も判ったかもしれないのに惜しい事をした。


 でももう少し張り込めば更に情報が得られるかもしれない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ