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暗躍2

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ランカスターカップ 二週前追い切り

場所:調教コース

語り:俺

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 俺はリナを背に2週前追い切りに出ていた。


 体をほぐしてコースに出ようとしたら、いきなり聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「よう。リナおはよう。」


「あっ、ハンスさん。おはようございます。」


 なんだハンスだったのか。



 何となくハンスからハンスの乗っている馬に目を移すと、俺はそいつからただならぬ迫力を感じた。


 体格は俺やイレイザーより一回り大きくごつい。


 古馬のG1馬なのだろうか?


「ナイトの調子はどうだい?」


「悪くないですよ。グラジエーターは相変わらず良さそうですね。」



 こいつがグラジエーターだったのか?


 パドックでこんなのを見せられたら俺でも単勝を買いそうだ。


 というかこれで3歳だと?


 完成度では多分世代で一番上を行ってるんじゃないか?


 ただこういうタイプはマイラーが多いけど2400mはどうなんだろうな?


 日本ではダービー辺りまで距離の不安を個体の強さで押し切った馬がいるから何とも言えないけどな。


 こいつもその程度の事はやりそうな気がする。



「こいつは今まで悪かった事が無いな。」


 そう言いながらハンスは馬を軽くポンポンと叩いた。


「そうですか。では私達はこれからですので失礼します。」


 リナはそう挨拶してその場を離れようとしたのだが・・


「リナ、ちょっと待ってくれ。」


 とハンスに呼びとめられた。


「何でしょう?」


「その、アニーはどうしてる?」


「いつも通り元気ですけど、それが何か?」


 アニーもハンスも騎手同士なんだからいつでも会えるんじゃないか?


 わざわざリナに聞く事か?


 俺がそう思っていたら唐突に、「おい!敵情視察かよ!」とアニーの声が響いた。


 これでわかったろう?ハンス。


 アニーは力いっぱい元気だぜ。



 アニーは俺と同じ厩舎の3歳牝馬に乗っている。


 こいつが今日の俺の調教パートナーで、これから日本で言うオークスの一週前追い切りをするんだ。


 こっちはまだピークに持って行く段階じゃないから相手を軽くしてくれたみたいだ。



「いや、そういうわけじゃないんだ。」


「だったらさっさと行きな!アタシもリナも予定が色々つかえてるんだ。」


「悪かったよ。」


 そう言ってハンスは去って行った。


 後ろから見てもグラジエーターはいい馬だった。


 間違いなくこいつは強敵になりそうだ。




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同日 昼下がり

場所:貴族街

語り:エリス

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 私は久々に表通りを歩いていました。


 最近色々ありすぎて出歩く暇すらなかったのです。


 だから気分転換も兼ねてこうして散歩していたのです。


 でもそろそろ飽きてきましたので次にどこに行こうかと思案していましたら、正面から見覚えのある人物がやってきました。


「あらエリス。」


「ヴィルマ。」


「ちょっと聞きたい事があるんだけど、あのお店までいいかな?」


 とヴィルマは向かいのカフェを指さしました。


 何となく気分が乗りませんがまあいいでしょう。


「ええ。いいですわ。」


「ありがとう。」


 えっ?あのヴィルマがお礼?


 私の背に思わず寒気が走りました。




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同日 昼下がり

場所:貴族街 カフェ

語り:エリス

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「単刀直入に聞くけど、トライアル前日に大変な事があったそうじゃない。」


「相変わらずの地獄耳ですわね。」


「そりゃ競馬会からのお触れもあったし、あなたの所の噂もあったからすぐにわかるわよ。」


 ヴィルマは改めて私をじっと見つめました。


 その表情は真剣そのものです。


 そして「何があったのか教えて。」と私に言いました。


 私は少し躊躇しました。



 ヴィルマの言う競馬会からのお触れは被害厩舎の名や犯人の手口までは知らせませんでした。


 模倣犯を防ぐと言う事と真相究明の妨げになると思ったからでしょう。


 そんな情報を私がヴィルマに流していいものでしょうか?


「ねえ。お願い。」


 私は紅茶を1口飲んでから一言、


「他言無用ですわよ?」


 と釘を刺しました。


「わかった。」


 ヴィルマはそう言って頷きました。


 一応信用する事にしましょう。



「実はトライアル前日に厩舎に忍び込んで、ナイトに禁止薬物を服用させようとした輩がいたのです。」


「え!?」


「しっ、声が大きすぎですわ。」


 幸い周りのお客は一瞬だけこちらを気にしただけでした。


「で?そいつらはどうなったの?」


「当然、私がギタギタにしてやりましたわ。」


「ハハハ、まあそうなるでしょうねえ。」


 ヴィルマの態度が気になりましたがまあいいでしょう。


「でも主犯を捕えないと意味無いんじゃない?」


「あなたもそう思いますか?」


「だってそうじゃない。ぱっと思いつくのは馬券で利益を得る事だけど、薬物検査は馬券払い戻しの確定後に行われるし、他の何かが目的と考えるべきよね?

 本当の目的は主犯を捕えないとわからないじゃない。」

 

 良かった。いつも怒ってどこかへ飛び出すイメージしかありませんでしたが、ヴィルマは思ったより頭の良い娘の様です。


「今人を使って探らせていますわ。

 ローズ家に喧嘩を売ってただで済むと思われては癪ですし。」


「言っておくけど、うちはそんな手は使わないからね。」


「わかってますわ。あなたは同じレースに堂々と自分の馬をぶつけてくる。

 それが貴族というものでしょう?」

 

「そうよ。で、大体察しはついてるの?」


「まだ証拠を掴めない現状では迂闊な事は言えませんわ。」



「そうよね。私としてはミストラルのやつらが怪しいと思うけど。」


「ああ、あの新興馬主達の寄合いですわね。」


「ええ、何かにつけて貴族中心の競馬はおかしいだなんて文句をつけてくる。」


 ミストラルは一代で財をなした商人や大立者を中心に組織された馬主会です。


「そもそも競馬は私達貴族が始めたのだから気に入らなければ出て行けばいいのに。」


 ヴィルマが言う事が正しいとは言いませんがミストラルに対して眉をひそめる馬主が貴族に限らず多いのも事実です。


 とにかくお金さえあれば何をしてもいいという態度が敵を作っているようです。



 そう言えば、トライアルの3~5番人気の馬もミストラルの馬主の馬でした。


 もし今回の件が個々の馬主ではなくミストラルそのもの或いはその中の一派によるものだとしたら、正に個人ではなく組織での犯行となります。


 視点を変えなければ犯人達を追い切れないかもしれません。


「エリスはどう思う?」


「それいい線行ってるかも知れませんわ。」


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