ローズ家
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レース後週明け
場所:オーエン厩舎
語り:リナ
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月曜日に私が厩舎で作業をしていると新聞記者の方がやって来て先生の所在を尋ねてきました。
先生は今ローズ家に行っています。
その事は伏せるように言われていましたので、私が行先は知らないと告げるとちょっと困ったような顔をされていましたが、私にナイトの出走後の様子を聞いて帰って行きました。
その時の置き土産として記者の方がナイトの記事が出ている朝刊を置いて行かれたのですが、さすがに重賞勝ちともなると扱いが違います。
それなりに大きな写真が載ってレースの様子が書かれています。
レース後のアニーのコメントでは、『グラジエーターをぶっつぶす』なんて書かれてますが、これはどちらかと言うと鞍上のハンスさんに向けた言葉でしょう。
論評でも『裏街道一番手』とか『良血本格開花』等と書かれていて、ナイトはどうやら本番においてもそれなりの支持を集めそうです。
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レース後週明け
場所:オーエン厩舎
語り:俺
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俺は正直驚いていた。
競争の疲れは確かにあるけど今はそれどころじゃない。
一連の朝の作業が終わったリナが俺の傍で新聞を見ていたのだが、素材はどう見ても紙。
それなのにリナが写真を指先で軽くタップすると写真が立体化されて紙面上に浮かんできた。
ひょっとしてこれはスマホやタブレットを遥かに超えるテクノロジーなのか?
ベテラン厩務員がやってきて記事を読み終えたリナに新聞を見せるように頼むと、リナはそのまま新聞を渡して俺の鼻面を撫でてから立ち去って行った。
俺はベテラン厩務員の様子を注意深く見ていたのだが、更に驚かされた。
なんと記事をタップするとさっきと同じように文面が浮かんできた。
こちらは3Dではなかったけれど、指先で広げる動作をするとなんと字が拡大されて見える。
競馬場のパドックではあのオッサンが新聞を持ってると言う事以外あまり注意して見てなかったから何とも言えないけど、他にやってる人がいたのかもしれない。
今度注意深く観察してみよう。
そして俺が一番驚いたのは、読み終えたその新聞をベテラン厩務員がゴミ箱に無造作に捨てた事だ。
つまり何か?このすごい紙(?)は無造作に捨てる事が出来るほど安価な存在で、そこら辺にいくらでもあると言う事か?
これってもし現代の日本で実現したら、間違いなく大金持ちになれるぞ。
この新聞紙(?)はこっちに来て一番の大発見かもしれない。
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レース後週明け
場所:ローズ家本邸 公爵私室
語り:オーエン
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私は公爵様に今回のジェイクが起した事件の謝罪と厩舎解散の許可を頂くためにローズ家に来ていた。
何とか公爵様にお願いをして厩舎スタッフに咎が及ばないようにしなければ。
「今回の件は申し開きのしようもございません公爵様。
ただ全ては私の不徳の致すところでありまして、現在の厩舎スタッフには何の落ち度もございません。
厩舎を解散して私は競馬から一切手を引かせて頂きますので、何卒残ったスタッフ達には寛大なご配慮をお願い致します。」
「それは承服しかねるぞ。オーエン。」
「公爵様。」
「お前が責任感が強い男だと言う事は前々から知っている。
だからこそ私の馬をお前に預けているのだ。
ナイトにしてもトライアルを勝ったとは言え、本番はこれからだ。次が大一番なのだろう?」
「はい。そうでございます。」
「事件当日の夜に娘と話したのだが、娘はお前の厩舎解散には反対だ。それには私も同意見だ。
ナイトが立ち直ったのは娘が言う通り、お前とリナとアニーのおかげだ。
だから私はお前からあの馬を引き離す気は無い。
ナイトだけじゃなく他の馬達もそうだがな。
それよりも今厩舎環境が変わる事がどれ程のマイナスになるのか計り知れない。
第一ナイトの出走プランを立てたのはお前なのだろう?
だったら最後までしっかりと責任を取れ。」
「しかし、元々多少臆病だったとはいえ、ナイトをあの様な状況にまで追い込んだのはジェイクです。
それに関しましても私に責任がございます。」
「その事はお前から既に謝罪を受けているではないか。
担当厩務員を経験の浅いリナにすると言われた時はさすがに驚いたが、3連勝と言う形で結果を出して充分な立て直しを成功させた。
お前は充分有能だし、私はそのような男を失うつもりは無い。」
「ですが。」
「お前の事だ。至らない身内を一時的にでも厩舎に置いた自分が許せないのだろう?」
「はい。」
「だが考えてみろ。お前ほどの腕を持つ調教師がそんなにいるか?
それだけではないぞ。纏まった頭数を引き受けられる規模も必要だ。
もし厩務員と担当馬をセットにしてあちこちの厩舎に預ける格好になってみろ。
お前は私と娘にあちこちの厩舎巡りをしてそれぞれバラバラに対応しろと言うのか?」
「それに関しましては・・・確かに・・」
「それにだ。今回の一件の黒幕を今燻りだしている所だ。
それも終わらないうちに厩舎の解散などしてみろ。
なにかやましい事があったと認めるようなものではないか。」
「・・・・」
「今一番必要なのは再発防止だ。早速今日にでも私兵を厩舎の警備に向かわせ、昼も夜もしっかり警備させる。
私兵とは言ってもちゃんと厩舎スタッフに見せかけるように変装させるから心配はいらん。」
「公爵様・・」
「お前が本当に責任を感じているのなら、次の本番でダイアナの血に相応しい結果を出せ。
亡き妻が最後に名付け親になったあの馬の子にな。
いいな。責任はお前の最高の仕事で最高の結果を出して取れ。」
「本当によろしいのですか?」
「そうしろと言っている。」
「では微力ながら全力を尽くさせて頂きます。」
「事件の事は私に任せておけ。
我が先祖が武勲により公爵の爵位を国王陛下より拝命したローズ家に対して喧嘩を売ったのだ。
それなりの返礼をさせてもらう。」
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レース後週明け
場所:ローズ家本邸 廊下
語り:エリス
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たった今オーエン先生が父の私室から出てきました。
こちらに歩いて来られますが向こうもこちらにお気づきのご様子です。
「おはようございますお嬢様。」
「おはようございますオーエン先生。あの・・厩舎解散というのは・・・」
「先程公爵様とお話しさせて頂きましたが、責任を取るなら仕事で最高の結果を出して取れと仰いまして。」
「では解散は無いのですね。」
「はい。またお世話になります。」
そう仰って先生は頭をお下げになりました。
「こちらこそ、お願いいたします。」
私は心底ほっとしました。
ナイトに限らずローズ家の馬はオーエン厩舎にいなければ。
「二人とも廊下ではなくて応接室に行けばどうかね?
お茶くらいはあるだろう?」
といつの間にか部屋から出てこられたお父様が私達に仰いました。
「ええ、そう致します。では先生そちらに移動しましょう。」
「はい。お嬢様。」
と先生のお返事を頂きましたので応接室に行こうとしたのですが、一つお父様にどうしても言わなければならない事が。
「あっそうそうお父様。後でローズ家に喧嘩を売ってきた無礼者共に対する返礼についてお話しましょう。」
「おいおい、実行犯達を袋叩きにしただけじゃ気が済まないのか?」
「あんなトカゲの尻尾なんて・・本体を叩き潰してこそ気が済むと言うものです。」
「私よりお前の方がローズ家の血を色濃く受け継いでいるようだな。」
「どういう意味ですの?」
これはしっかりとお父様から理由を聞く必要がありそうです。