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事件前夜

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条件特別レース後 当日夜

場所:オーエン厩舎

語り:俺

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 厩舎に帰ってきた俺は疲れるには疲れていたが前回ほどじゃない。


 負けたら肉屋行きという最高のプレッシャーがあった前回が異常と言えば異常だったからこれは仕方が無い。


 今回は気分の上では随分楽だったからな。


 回復も早いだろう。



 リナも随分明るい表情を見せてくれていた。


 厩舎に戻ってもそれは変わらない。


 特別勝ちでリナも少しは実入りがあったかな?


 それなら俺も嬉しいが。




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条件特別レース後 数週間後 朝

場所:オーエン厩舎

語り:俺

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 あれから数週間。


 厩舎のエルフ達の噂によるとイレイザーはマイル路線に転向したそうだ。



 よくマイル路線転向=都落ちと思うやつがいるけど、それは完全な誤解だ。


 実は競馬の距離体系は1マイル(約1600m)を基本に作られている。


 ダービーなんかの2400mは1マイル+1/2マイルで天皇賞春の3200mは2マイル。


 逆にスプリントの1200mは3/4マイルで1400mは7/8マイルというわけだ。


 当然競馬場の設計事情で1300mとか1500mとかの競争はあるけど、それはどちらかと言えば特殊な事例。


 だからマイラーは競走馬の基本を追い求める存在と言って良いだろう。


 実際ヨーロッパでダービー馬は売ってもらえても優秀なマイラーはなかなか売ってもらえなかったという話を聞いた事がある。



 スポートは条件特別を逃げ切り勝ち。


 でも連戦の疲れから放牧に出されたそうだ。


 ゆっくり休みなよ。



 俺はと言えば相変わらずトレーニングの日々を過ごしていた。


 だがこちらで日々過ごしているとやはり疑問に思う事がある。


 俺は今は馬だ。


 飼葉をうまいと感じるし、足だって当然速い。


 だが俺は周りの馬の考えや鳴き声による意思表示がまるでわからなかった。


 エルフの話し言葉がわかるのにこれはないだろうと思う反面、そこまでわかったらもう戻れなくなりそうで怖かった。


 もう一つあるのが、俺がこの体に入る事によってそれまでにいた意識はどこに行ったんだろう?


 今はどこかを幽霊の様に彷徨っているのだろうか?


 それともこの体の中に眠っているのだろうか?




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トライアル 数週間前 昼下がり

場所:オーエン厩舎 応接室

語り:エリス

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 さて、今日はオーエン先生と次走についての打ち合わせで厩舎に来ています。


 まあスケジュールは決まっているわけですから近況の確認が中心になりそうですが。


「お待たせして申し訳ありませんでしたお嬢様。」


 と深々とお辞儀をされました。


「いえ。こちらこそお忙しい時間ですのにお邪魔いたしまして。」



「では早速ですが近況のご報告と次走についてと言う事で。」


「ええ、お願致します。」


「近況は順調です。予想通りに馬体も出来て来ていますし、調教に関しても問題ありません。」


「そうですか。順調が一番ですわね。」


「これもお嬢様に送っていただいている野菜や果物のおかげです。

 ナイトも喜んで食べています。」

 

「でしたら送り甲斐もあるというものですわ。これからも用意させます。」


「ありがとうございます。」



「次走なのですが、予定通りランカスターカップのトライアルに向かいます。」


「ここで2着に入らないと・・。」


「現在の賞金では本番の出走は叶わないでしょう。」


「3連勝と行けば良いのですが、確かこの馬は左回りは・・」


「一走だけですが負けています。でもこれは今とは比較にならないデビューの頃の事ですし、右左以前の問題でした。

 あまり参考には・・」


「そうですわね。今回が文字通りの試金石というわけですね。

 本番と同じ競馬場の同じコースで行うわけですから。」

 

「そう言う事になります。権利取りのためにフルゲートの18頭が出走しそうですし、道中のポジション取りの良い訓練にもなりそうです。

 もし良い位置を取れなかったら未勝利の時より骨っぽい相手に馬群を捌く必要が出てきますから、それはそれでこの馬の能力の見極めが出来そうです。」


「距離の心配は?」


「少しづつ距離を伸ばしてみましたが、どうやら距離の不安はなさそうです。」


 私はイレイザーとのスタミナ比べを思い出しました。


 あれなら多分大丈夫でしょう。



「あとは時計の面と相手関係ですが、決して持ち時計自体は悪くありません。」


「まあでも時計は相手次第でどうとでもなりますし、この時期の3歳ではあまり参考にはなりませんわよね?」


「前回は自分でレースを作ってのものですから信頼していいと思いますよ。」


「それは心強いですわ。所で相手関係ですが・・」


「レスターが出ます。それと2歳時に重賞を取った休養明けの馬もいます。

 用心すべきはレスターの様に最近調子が良い馬でしょう。

 そんな馬があと2~3頭います。」

 

「簡単には勝たせてもらえそうにないですわね。」


「ええ、仰る通りです。やはり重賞ともなるとそれなりに強敵が集まります。」


「所で鞍上ですが。」


「アニーがずっと乗ってくれることになりました。」


「それは喜ばしい事です。アニーに代わってから連勝してますし。」


「そうですね。こういう流れは大事にしたいものです。」


 まあ馬に関しては心配なさそうです。


 でも私にはもう一つ解決すべき疑問があります。



「所で前回の祝勝パーティにリナがいませんでしたが何かありましたの?

 最も労うべき厩務員がいなかったので何とも締らないパーティになりましたわ。」

 

「申し訳ありません。リナによるとその様な場所に来ていく服が無いとか。」


「服が無い?」


「ええ。」


「仕方ありませんわね。ではこうしましょう。」


 私は先生にある相談事を持ちかけました。


 ええ、もちろんリナに関してです。




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トライアル 2日前

場所:調教コース

語り:俺

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 最終追い切り日、俺はアニーを乗せてコースに入った。


 最近長めをやる事が増えたからこの調子だとまた距離が延びるんだろうな。


 それとここ何週間かは左回りの調教に変わったと言う事は今度は左回りのコースか。



 待てよ?3歳・・・距離延長・・・・って事はひょっとして次走はダービートライアルか?


 と言う事は我が愛しのコースで走る事が出来るのか?


 府中の2400Mで!


 まあ似てるだけなんだろうけどな。


 大欅(実際には欅じゃないそうだが)も無いだろうし。



 さて今日は例によって3頭併せの様だ。


 G1古馬相手だからまたきつそうだが今回は特に気合が入るぜ!


 2頭を先に行かせてまた追いかける。


 前走はゴール前でやっと追い付いたけど今度は違った。


 余裕を持って追走出来た上に100m手前で追いつく事が出来たのだ。


 相手が加減をしてくれたのか、こちらが前より走ったのかはわからないが気分は悪くない。




 だが意気揚々と引き揚げてきた俺に翌日とんでもない事件が待っていた。

 

 

 


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