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モイラー  作者: 斎藤 風雅
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十二支の子と丑

「では、今日出席する予定の十二支のメンバーが揃ったことですし、今日初入りの水瀬結城へ()から自己紹介を始めてください」


 会合開始前とは打って変わって妙に乗り気な機械音は、ディスプレイ側の左の子の席に座る腰まで伸びた白髪の男へ指示をする。


「では私か……」


「ちょっといいか劉刻殷(りゅうこくいん)。俺からマスターに一つ聞きたいことがある」


 自己紹介ということで機械的に席から立ち上がろうとする白髪の男・劉刻殷は、白衣を身にまとい眼鏡をかけた小柄な少年に止められる。と白衣の男の頼みを了承したのか劉刻殷は立ち上がろうとしている身をかがめそのまま椅子へと腰を落とした。


「マスター、もしかして今日俺達はそこの新入りのガキのために自己紹介をするためだけに呼ばれたのか?」


 薬指で眼鏡を持ち上げ、マスターと呼ばれる機械音に尋ねると、機械音は「んん……」と少し考え込み


「そうでしたら、どうしますか、英徹(はなぶさとおる)?」


 挑発するように白衣の男、英の問いに答えた。それに対し、英は含み笑いをして機械音の挑発に乗る。


「この時間は必要ないと判断し俺は帰るが?」


「そうですか……残念です。今日は皆さんに依頼があるので帰ってもらえそうにないですね」


 機械音は期待通りの返答がきたのか機嫌が良くなる。対する英は何か興味がそそられたのか「なるほど」と口にして席に深く座りこむ。英が目の前に置かれたパソコンへと手を伸ばすと、遊浮院の幼い高い声が離れた席から飛んできた。


「あんたはなーんでそういうこと言うかなー」


遊浮院にとっては、ただ頭に思い浮かんだことを口にしただけだったのだろう。しかし、ふっかけられた本人は気に触ったのか少々汚い言葉で返答する。


「貴様には時間の貴重さは分からないだろうな。ビッチ」


「ビッチじゃないし! てか結城君の前でそういうこと言うなし!」


 バンっと机を力強く叩き頬を朱色に染めた遊浮院が立ち上がると、背後の空間が歪みだしうねるように炎が現れとぐろを巻いた龍を形成していった。

 それは、長テーブルを照らす火の玉とは桁違いの高さの放射熱を発し、まるで意志を持ったようにゆらゆらと不安定な動きを繰り返していた。そして、遊浮院が炎龍の標的であろう英へとボールを投げるようにして腕をふり抜くと、勢いよく炎龍が英へと襲いかかった。


「っち」


 炎で形成された龍が英へと衝突する瞬間、英は何か左手を不自然に動かす。すると炎龍がその莫大なエネルギーを放出するように爆発した。しかし、その爆破の余波が英へと達しようとした時、爆発とは真逆の中心へと向かって収束し炎龍の姿•形が一瞬にして消えた。

 もちろん英には怪我はなく身にまとった白衣にすら煤一つつくことはなかった。渾身の技、とまではいかないものの軽くあしらわれた遊浮院の心は穏やかではなく、英を睨みつけ次の一手を考えだす。それを見た劉刻殷は


「そろそろ私の自己紹介を始めてもいいかお前ら?」


 溜息を零しつつ二人の仲裁を図り、その場を静める。


「あーごめんね劉ー。そこの眼鏡がうっさくて」


 遊浮院は英へとさらに、棘のある言葉を投げかけた。しかし英はいい加減話を進めたいのかその言葉をキャッチすることなくスルー。その様子を見て劉刻殷は立ち上がり話し始める。


「私は十二支の()の席、春夏秋高校(ふゆなしこうこう)生徒会、生徒会長。劉刻殷魅宗(りゅうこくいんみむね)という。まぁ、自己紹介なんてしなくても水瀬君は元々春夏秋校の生徒だから知ってると思うから私からはここで終わらせてもらうよ」


 静かに席に座り、隣の(ちゅう)の席の二メートル近い大男、柳沢をちらりと見る。

 柳沢はその合図に一度頷き、喉の調子を確かめ席を立ち水瀬を向く。


「よし、では次は俺からだな。名は柳沢轟傑、丑の席だ。役職は春秋冬高校(なつなしこうこう)生徒会・生徒会副会長。好きな食べ物は肉、色は青だな」


「顔面巌のおっさんの好きなもの聞いてどうすんだよ、あんたってほんと馬鹿だよねー」


 柳沢の自己紹介を聞いてあきれたようにヤジを飛ばす、遊浮院を一度目だけ睨み


「好きなタイプはそこのビッチと正反対の性格の女性だ」


「なんだと顔面巌っ……」


「おいっ、柳沢……!」


 またしても二人は睨み合い、守夜が横で刀を抜く準備をする。そんな何度も繰り返される光景を見て、それまで黙っていた水瀬はくすすっと口元に握った手を当て笑う。


「あ……はは。成功ー! 水瀬君を笑わせたいと思ってやってたんだよ私?」


 全然笑わない水瀬を気にかけていたのか、遊浮院は見え見えの嘘をつきつつ照れる。そんなさっきまでとは違う遊浮院を見て水瀬は笑顔で答える


「そうなんですか、ありがとうございます。中学生に気を使わせちゃっ……て?」


 中学生、という単語が出た瞬間、遊浮院がプルプルと震えだしたので、言葉を切りながら首を傾げる。と、柳沢は腹を抱え太鼓のような爆音と錯覚するほどの笑い声をあげる。


「私……高校三年生……だよ……」


「っえ?」


 それまでクールだった水瀬は気の抜けた声を出した。

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