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モイラー  作者: 斎藤 風雅
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十二支の亥

「それでは始めましょうか」


 窓も光もない、ただ禍々しい空気が肌を破るように存在する異形な空間。

 そこにノイズがかかった機械音が流れると、数個の火の玉が空中に現れ計十二人が囲める西洋風の長テーブルを照らしだした。


「ふむ、すまんな遊浮院(ゆふういん)。できれば俺の目の前の火の玉を離してもらえるとありがたいのだが」


「っは? ヤだしー。あんたのその厳つい顔? このイヤーな空間にあってんじゃーん。だから照らしてんだよー」


 火の玉に照らされた金剛力士像のような彫りの深い顔立ちの男は、長テーブルを挟んで向かい側に座る遊浮院と呼ばれた少女を睨む。

 身長は二メートル弱の巨体であり体格もそれ相応、座っていながらも肌をつんざくような威圧を発していた。しかし、遊浮院と呼ばれた少女はその威圧に臆することなく、その大男の外面的特徴を罵倒し笑い声をあげる。


「少し笑いが過ぎるんじゃないか? 小娘」


「あぁん? お前の顔面が悪いんだろおっさんよー……」


 おっさん。その言葉に反応してか、大男の体を支える大木のような右足が赤い絨毯の敷かれた床に亀裂を走らせる。そして、座っていた椅子を後方へとふっ飛ばし、遊浮院との間合いを一瞬にして詰め、大男の右拳が真っ直ぐ遊浮院の顔面へと叩きつけられようとしていた。

 それを見ていた遊浮院の隣に座る冷然とした美しい黒髪の少女はテーブルに立て掛けていた黒い刀に手を伸ばし


「その腕をどけろ……柳沢轟傑(やなぎざわごうけつ)……!」


「ふん、お前か守夜(かみや)。素手相手に刀剣とは如何なものなのだろうか、な?」


 遊浮院の顔面すれすれで大男、柳沢の素手を止めた。

 刀対素手。しかし双方が擦れ合う音はギシギシという金属同士さながらの音。火花が散り、周りの空気を振動させる程のものだった。

 そして、押し引きはあるものの両者の力は互角。しかし、体格差を踏まえると長期戦になればどうしても柳沢に軍配があがる。それを悟ってか、はたまた経験済みなのか、守夜は息を整えようと深く一呼吸し微かな獣のような殺気を帯びた声を発する。


「私は馬鹿じゃないんだ。お前くらいの化け物には一切の油断をしない……!」


「っぬぉ……!」


 そう言って守夜の黒刀が柳沢の素手を弾くと、柳沢は体勢を立て直すべく後方へと飛んだ。それを読んでいたのか、柳沢が着地するのと同時に守夜は弾丸のように懐へと突進。右手に握られた黒刀は、筋肉の隆起した岩のような柳沢の胸を貫こうとする。


「とまりなさい、二人とも」


 しかし、二人が直撃する瞬間、機械音が争いを止めるよう低い音程で喚起した。その言葉を聞いてか、守夜は舌打ちをしつつも黒刀を鞘におさめ、柳沢は首の骨を鳴らし自分の席に着く。事の発端である遊浮院は、先ほど友人から送られてきたメールの返信をちょうどし終えたところであった。それらを見て機械音は話を続ける。


「では皆さん。そろそろ時間ですので席に」


 そう促された十名は、座る者の役職を表してるかのようにひとつひとつ装飾された椅子に座る。そうして機械音は口火を切るようにして一度咳払いをし、話し始めた。


「今日はですね、(がい)……の席を守る者を紹介したいと思い皆さんを集めました」


「「「!?」」」


 亥の席。その言葉に反応し数名が二つ空いた席の片方に目をやり隣の席に座る者と話し始める。

 いったいどこの学校だ。そいつは男か女か。交わされる言葉は様々だったがそれには一様にして驚きの感情が込められていた。

  

「で、そいつは今どこに?」


 そのような者達がいる中一人。落ち着いた雰囲気を持った腰まで伸びる白髪の男が代表して機械音に尋ねる。


「今来ますよ、私の使いの者が向えに行っています」


「イッ……イケメンだったらどうしよう! 顔面巌のせいでメイク変になってないわよね!」


 柳沢に喧嘩をふっかけた遊浮院だけは普段と変わらずに、慌てて胸ポケットから鏡を取り出しロリ顔の化粧ののりをチェックしている。と、横から恥ずかしそうな声で


「大丈夫ですよ遊浮院さんは……いつも可愛いですから」


 と顔を赤らめながら守夜が少女をフォローすると、それを快く思えなかったなのか柳澤が横やりを入れる。


「ふんっ、そこのガキの何が良いという」


「あらっ、ありがとね守夜。あと、うっさいわよ巌くーん。今まで生きてきた中でルックスについて一度も褒められたことのない巌君は見苦しいから黙っててねー?」


 またしてもこめかみに筋が現れわなわなと右手を力強く握りしめる柳沢。それを見て守夜は腰の鞘に納めていた黒刀にゆっくりと手を伸ばす。両者の喧嘩が再び始まるかと思いきや空気の重さが一瞬変わりテーブルを囲む各々が一斉に同じ方向を見た。


「君か……新入り」


「お前がねぇ、ふーん」


「えっ、超イッケメーン!」


 そこには一般的な男子高校生と変わらない身長の少年が立ち、目にかかる前髪を振り払うように顔を左右に振っていた。

 総勢十人の視線。一般人なら卒倒しそうなくらいのプレッシャーがそこには感じられるが、少年はなんら感じないのかニコッとほほ笑み口を開ける。


「本日をもって春夏秋校(ふゆなしこう)から春夏秋冬校(ひととせこう)へ転入した水瀬結城です。よろしくお願いします」


 最後に頭を下げ、三秒も満たないうちに顔を上げた。


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