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「悩む男」10円
男が公園のベンチに、一人ぽつんと座っていた。ある悩みを抱えているのだ。
「なぜ、人は生きるのだろうか」
小さな子どもを見た。
「子供のため?」
「もし、子供のためならば、人間の寿命は三十歳で足りる」
母親を見た。
「それとも、愛する者のため?結局は、子供を育て、家族になること」
自分自身の手を見た。
「俺自身のため?」
「死ぬために生きる。この世に生を受けて、そんな暗い一生ではないはずだ」
足元にボールが転がってきた。子供へ蹴り返す。
「趣味のためなのか」
右手でレバーを回す。
「パチンコで勝って、負けて、己自身の糧になるというのか」
「金のためか」
財布を開く。
「金金金、そうやって最後には、戦争になったじゃないか」
「利益だけを求め続けてもだめだ」
「他の国に売りつけるなんてとんでもない」
「ここらで、優しさが欲しい」
「奉仕の心か?」
胸に手を当てた。
「心臓はあるが、心は脳みそにつまっている」
「人を救う心。それこそが、世界に必要」
「でもそれが、俺個人に必要かどうか」
「俺は誰かを救いたいと思わないからだ」
「日本は、八百万の神様の国」
「神に溢れている」
「その神に頼るということは、自分の意思で生きていない証拠」
「少なくとも、俺は自分の足でちゃんと地面に立ちたいと思う」
「か弱い者は、助けなければいけない」
「困っている人はたくさんいる」
「そうすると、自分自身の行動に理由づけできる」
足を組みかえる。
「人間のさまざまな煩悩、そのまま支配されれば」
「動物となってしまい、人にあらず」
「これも間違えということになる」
「理性があるのが、人という生き物」
「俺は、明日も仕事に行く予定」
「金を稼ぎ、飯を食うため、楽しみも生まれる」
「だからといって、ずっと仕事ができるとは限らない」
「日雇い、派遣、嘱託、リストラ」
「何が起こるかわからない世の中だ」
「未曾有の不景気なんてのは、言葉の逃げ道だ」
「政治家の言葉に憤りを覚える」
「会社が仕事をくだされる」
「仕事一筋は、趣味のない男に映り寂しい感じがする」
ベンチから立ち上がり、歩き始めた。
「そう、体を動かすと暖かい」
「脳から、手の指先までの命令がある」
「これが生きるということなのか」
「なぜ、俺は生きるのだろう」
「今は、公園を歩くために生きている」
「公園は、心が落ち着く、悩む場所にはぴったりだ」
「中には、白い目で見る親もいるが」
「ここでしか、考え付かないことがある」
「人生哲学」
「そうか、哲学なんだ」
「俺と同じように、哲学者は人生について考えて来たのだ」
「誰もがたどり着く領域」
「ん、大きな謎が解けそうだ」
手のひらを拳で叩いた。
「そうかわかった」
「俺は、生きる理由を探すために生きている」
完




