エルフさんの布団
ふかふかの布団で眠る幸せは、麻薬のような多幸感を持っているのです。
根っからお昼寝大好き二度寝大好きなお気楽ぐうたらエルフである私にとっては。試行錯誤の上に抱き枕とハンモックを作った私でしたが、それ以上を諦めてはいません。メイド業務とペット家業の傍ら、ぐうたら惰眠をむさぼる為に努力はしていたのです。あ、ちょっと日本語がおかしいけど内容は間違ってはいないです。
そう、布団改革です。
この辺りの布団って、ぺらっぺらの布か毛皮か藁か羽毛布団モドキのどれかでして、我慢のならなかった私は偶々お城に来ていた商人さんが持ってきたふわふわの綿花に飛びついたのです。羽毛布団で妥協しようとしましたが、どうもあの匂いと寿命の短さが……。そして、旦那様と商人さんとを巻き込んでやっちゃったのですよね。むしろ乗っかかつたと言いましょうか。
旦那様の領地は気候こそ安定しているものの、雨少な目で乾燥した荒地が多いそうです。街のそばには川が流れているので、それまで水不足を感じたことはありませんでした。が、旦那様はその荒地で産業を起こそうと考え、今までは輸入に頼っていた綿花の種を商人さんを通じて入手したらしいのです。旦那様渋い顔で侍従さんと話してらっしゃいましたから、結構なお金使っちゃったんでしょうかね。しかしまぁ、その辺はまるっとお二人に任せてしまっておりました。だってペットですもの。
それからは綿花の試験栽培で旦那様は大忙し。最近、ようやく収穫が安定してきたそうです。そこでやっと私の出番です。新商品の模索ですね。私は棒人間よりもうちょっと進化した画才で、予想図をボードに書いて伝えました。布団やクッションや襦袢として試作品が作られては商人さんに持ち寄られたものにケチを……いえ、品質のチェックをするのです。なんか楽するために楽する道具を作ってるのに、その工程でも楽させて貰ってましたね。忙しすぎて妻と子供に時間が取れない旦那様にちょっと申し訳ない気分ですが、まぁペットですから。
「ふふ、ふふふふっ」
おっと、思わず含み笑いが。目の前に広がるふかふかの布団。乗っても藁みたいにカサカサ言わないし羽毛や毛皮みたいに匂いもしない、腰が痛くならない布団。素晴らしいわ商人さん、とてもいい仕事よ。そのままベッドの上にダイブすると、ボフッと音を立てて綿布団は私を受け止めました。ああ、この柔らかさが私を蕩けさせる。むしろ溶ける。
だらしない笑顔で目を閉じると、私の部屋のドアが勢いよく開かれました。ノックをせずに開けるのは、坊ちゃまですね。
「ココー!あそぼっ外、外!」
ベッドに横たわる私を掛布団の上からぼすぼす叩きます。
就寝時の私の天敵は坊ちゃまなのです。旦那様や奥様は惰眠をむさぼっててもなんか「仕方がない子ね」的な生暖かい視線を向けるだけですが、坊ちゃまは遠慮なくもう元気いっぱいに向かってくるのです。普段ならばすぐ坊ちゃま絆されて起きる私ですが、今日の私は違いました。ごめんなさい坊ちゃま、私は既にこのわた布団の魅力に囚われてしまったの!しかし、このまま寝たふりを続けても坊ちゃまは諦めはしないでしょう。そこで、私は一計を案じました。
「うーん……ぼっちゃま……」
「どしたの?ココ」
小さな声で呟いた私の声を聴こうと、坊ちゃまが私に耳を近づけます。その時、私は布団から手を伸ばして坊ちゃまを捕獲しました。そして、寝ぼけたふりをしてジタバタする坊ちゃまを布団の中に引きずり込みます。ふふふ、離しませんよ。坊ちゃまの頭を私のお腹に抱え込んで固定します。名付けて大好きホールド、猫の母親がお腹に子猫を抱く姿から編み出した寝技です。こうすると相手は私のお腹の暖かさと柔らかさで速やかに眠りに誘われるのです。坊ちゃましにか試したことはありませんけどね。
「……っ!……」
なんか坊ちゃまがもごもご言ってますが、聞こえません。でも、段々動きが緩慢になってきてますね。ぜひともそのまま眠りに落ちてくださいませ。うーん、坊ちゃまの子供特有の高い体温が心地よいですね。さて、貴方の為したいように為すがよいとは誰の言葉か、私も自分の欲望に正直に寝ちゃいましょう。おやすみなさいませ。
また短くなりました。
藁に布掛けたベッドって、夢じゃないですか。ガサゴソうるさそうですが。