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お座敷えるふさん  作者: ビタワン
はじまり
7/15

エルフさんの転機


ここの所、奥様のお茶会にお供する機会が増えました。今までは、お菓子に夢中で話を聞いていなくても奥様の横で撫でられていれば許されていたのですが、参加者のご婦人ご令嬢に話題を振られるようになりました。全然お話についていけません。香水とか化粧品とか衣服の話とか、だれそれが格好いいとか紳士で素敵だとか言われても分かりませんし、種族的に必要なかったり今や根っからペット根性なので関心も無いのです。たまに恋愛話やドロッドロの愛憎劇なご相談やお話も拝聴するのですが、神妙な顔を作って半分以上聞き流している感じです。もうちょっとこの世界の事、勉強した方がいいんでしょうか。今の所、履歴書を書いたら特技の欄に「四十八手で古今東西できます」くらいしか書くことがありません。なんだそれ。



このままではいけない。

そう、私はご主人様が恥ずかしい思いをしない知識なり教養なりを会得すべきではと思うのです。


そんな焦燥感に背中を押されて色々考えを並べてみたものの、私のスペックと言えば、演奏は前世ではリコーダーでチャルメラが吹けました。だからどうなんだというレベルです。文才はそもそもこの世界の字が書けません。絵画は棒人間なら何とか……。なんだかバカの考え休むに似たりという言葉が頭に浮かんでしまうココです。しかし、昔の人は言いました、思い立ったら吉日、鉄は熱いうちに打てと。私は奥様に相談してご意見を伺おうと、奥様のいるテラスに向かいました。


「……だから、皆さんのお話が分かるよう、勉強したいのです」


こんなに長い事しゃべったのは、この世界に来て初めての様な気がします。奥様は私のつたない説明を聞いて頷き、困ったように微笑みました。


「事情は分かったわ、ココがまさか、そんなことを気にしていたなんてね」


そこで一泊置いて、私を撫でつけながら「でもね」と続けます。


「あの方達はね、例えばこちらに相談をしていても、既に心の中には選択を持っているの」


なんとなく言っている意味は分かるような気がします。でも、それって相談する意味ないんじゃないですか?という、私の疑問は顔に出ていたようです。


「大抵は、誰かに話を聞いて貰いたい、背中を押してほしいといった所なのよ。あなたがね、分からないなりに真面目に話を聞いてくれるでしょう?それでいいのよ。それにまつりごと、お仕事の話をあなたに聞くことはないでしょう?」


うーん、そんなものでしょうか?

分かりました奥様、これまで通りに分からなかった話は神妙な顔で聞き流すことにいたします。でも、やっぱり知識とか教養は勉強していた方が良いのではないでしょうか。礼儀作法だけは覚えておかないと、いつか問題になるような気がします。


「そうかしら、貴方は最低限の礼儀は出来ているわ。気遣いもできる子ですし。私に付き合ってお茶会に出てもらったとしても、そこは私の知り合いだけですもの。いつも通り気楽に振る舞って大丈夫よ。それに、公の場に貴方を出すようなことは、恐らくないと思うわ」

「公の場に、出なくてもよいのですか?」


エルフ自体がめったに姿を現さないため人生で1度見れば幸運というほど希少だそうですし、大変珍しい私を見たいという野次馬的な興味を持つお方も多いと思うのです。それが旦那様の断りづらい所からだった場合は、公に顔を出す必要もあるのではないかと愚考する次第なのです。いえ、奥様旦那様の為なら客寄せパンダになって笹でもカジる覚悟はあります。


「あの人もね、貴方を気に入っているわ。あまり口には出さない方ですけどね」


旦那様が私を可愛がってくれてるのは知ってます。少し荒い感じで髪の毛をかき回すその大きな手も私のお気に入りです。しかし、続いてお聞きした奥様の言葉は私の予想を超えていました。


「あの人がこの間、王都に出かけたのはね、貴方の為なのよ」


私の、ため?


「王都の方々にね、貴方がこの街から離れられないことを公言したの。森から出たエルフが体調を崩すのは有名な話でね、それを理由に。ふふ、貴方はそんな事はないようだけれど」


はい、日々健康そのものです。おかげ様で食う寝る遊ぶで充実した生活を送らせて貰ってますから、風邪も引いたことありません。


「ココ、貴方はとても貴重な身の上なの。ロンド家はそれなりに大きな力を持っているわ、貴方の身を保護するくらいはできる。けれど、本来なら国の名もとに王都で保護されてしかるべきよ。でも、あの人はね。貴方はここから離れられない、そして公の場には出ることはないとして、その代わりにこの国の王族にあなたと編纂した秘伝の書を献上することで、それを認めてもらったの。幸い、あの書にそれだけの価値は認めて戴いたようだしね」


私は驚きすぎて、また予想以上に旦那様が私に心を砕いてくれていた事に言葉が出ませんでした。希少な身とはいえ、ペットの為にここまでするでしょうか。


「だから、貴方はそのままでね。ここに、私たちのそばに居てくれれば、ね」


呆っとする私を、奥様はきゅっと抱きしめられました。奥様の暖かい体温を感じます。その暖かさに溶かされるように、悲しくないのに、いえ、嬉しくって涙がボロボロとこぼれて奥様の胸を濡らしてしまいます。泣いてすがる私を、子供をあやす様に奥様は抱きしめ続けてくれました。見知らぬ異世界に来て早数ヶ月、ようやくこの世界に私が受け入れられ、私はこの世界を全部受け入れられた、そんな気がしました。





思いっきり涙の引っ込んだ私はしばらく奥様の胸に体をあずけたまま余韻に浸っておりましたが、いつまでもこうしては居られません。少し気だるい体を起こして服の袖で目元をぬぐいます。


「もうちょっとくらい、甘えてくれてもいいのよ?」


と少し意地の悪い笑顔を見せる奥様。


「奥様、すこし、意地悪です」


恨めしい目で見上げますが、さんざん縋って泣いてしまった後だけに気恥ずかしくってたまりません。全くもって締まりません。


「あら、そんなこと言うのね?」


奥様はさらに笑みを浮かべると、私の背に片腕をまわしてホールドし、もう片方の手で耳のはじを摘まみました。思わず私の体がビクッと反応します。


「そんなこと言う悪い子は、ちゃんと分からせないとね」



その後、私は奥様にさんざんあひんあひん言わされてしまうのでした。



ワンコの心の区切り


次からまたバカ話に戻るような気がします

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