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お座敷えるふさん  作者: ビタワン
新たな日常
11/15

エルフさんの菜園

ここが私の城になるのですね。

感無量で私は周りを見渡します。耕されて掘り起こされた土が、約20メートル四方に渡って広がっています。麦藁帽を押し上げ、袖で汗をぬぐう私にぽんっと背中を叩いて笑顔を見せてくれる庭師のお爺ちゃん。労働の後の爽やかな充実感がそこにありました。そして、私は畑の端に置かれていた木札を手に取り、私の体重も込めて地面にさし込もう……として、差し込めなくてお爺ちゃんに刺してもらいました。非力なエルフの身が悲しい、ぐぬぬ。


『ココ の さいえん』


木札にはそう書かれています。そうです、ここは私の、私だけの菜園なのです。

坊ちゃまと共に魔法を初級魔法を習っておりましたら、私の緑魔法の適性が微妙に高かったのですよね。なんか久々に森妖精のエルフらしいことが見せられた気がします。初級だと、足元の草を操って相手を転ばせたり、植物を元気にする程度の魔法しかないのです。後者の魔法は農家の方には大好評ではありますが、あまり人気はないそうです。そうですねー、植物がないと使えないという制限が厳しいですし。ですが、森の中で緑の上級魔法を使うエルフの存在は、大変脅威だという話を先生に教えられてました。気楽に「へぇ、そうなんですねー」なんて言ってたら呆れた先生に小突かれてしまいました。そうそう、私はエルフなのです。姿はともかく中身が想像の森妖精と離れすぎているせいか忘れそうになりますね。


森魔法の実習は、枯れ掛けた鉢植えの花を元気にすることでした。最初は思う通りやってみなさい、と言われたので坊ちゃまは「……をみたしたまえ!」とかカッコいい事を言ってます。とても魔法の詠唱っぽいです。坊ちゃまの鉢植えはしなびた葉がちょっとだけ水気を帯びてますね。いきなり成功とはさすが坊ちゃま、私の未来のご主人さまでございます。次は私の番ですが、坊ちゃまみたくカッコいい呪文は考えておりません。どうしようかとうんうん唸っていると先生から、心に浮かんだまま言葉に出してみなさいと言われました。なるほど、では


「元気になーあーれー!」


うわぁ、とてもやってしまった感があります。先生と坊ちゃまの驚いた顔が見えます。ごめんなさい、こんなおバカなペットでごめんなさい。ちょっと涙目で二人を見上げると、二人の視線は私の手元の鉢植えへ向かっていました。おや、私の鉢植えが艶々とした葉っぱを茂らせてますし、しおしおだった蕾が大輪の花に。


「曲がりなりにもエルフという事か、お前には緑魔法の適性が高いようだ」


先生、曲がりなりにもは余計です。気持ちは分かりますけれど。

しかし、あんなファジーな呪文詠唱で効果を出せるとはびっくりです。先生が仰るには、魔力と思い描くイメージと適性があれば詠唱なんて適当でいいそうです。続いては、緑魔法の応用編です。自分の魔力を植物に分け与えて、イメージ道理に動かしたり変化させたりする練習です。これは坊ちゃまにはまだ早かったようですが、私が試したところ花びらを大きな蝶々の形に変化させることが出来ました。坊ちゃまは最初はご自分が失敗したことを悔しがっていましたが、私の鉢植えの花がにゅにゅと変化していくうちに感嘆しながら観察していました。そんな素直な坊ちゃまはとても可愛らしい、もとい好感が持てます。


先生は続けて緑魔法が実際にどんな使われ方をしているかを教えてくれました。これは前回の水魔法、風魔法でさんざん私たちが悪戯に浸かってしまった為、ちゃんと使い道を教えておこうという方針になった模様です。もう悪戯に魔法を使う気なんて……あんまり無いのです。それでも、実際の使われ方を聞くことで頭の中でイメージしやすくなるので授業がより楽しくなるのです。緑魔法は主に農家や庭師さんに好まれるそうで、作物の成長を少しばかり促進したり、病気で枯れかかった木々を治したり、大きい実がなるようにしたりと使われるようです。


そこで私は閃きました。

あまり甘くない果実や野菜なんかも甘くおいしくできちゃうのではないか、と。


前世でも農家や研究者の皆さんの努力で、甘いトマトやピーマンも作られてましたしね。地球と似たような触感や味の果実はあるのですが、水気が多かったり種だらけだったり固すぎたりと改善の余地があります。そこで、緑魔法を使って前世で食べたあの美味しい野菜や果実が作れないか?と思い立ったのです。特に果実です。今日の講義が終わると私は坊ちゃまと早速、ククリというイチゴの味に似た果物を調理場から貰ってきました。まずは腹ごしらえと実の部分を食べ、中にある種を取り出して鉢に植えます。そして、目をつぶって手を掲げながら


「おおきくなーれーおおきくなーれー、おいしくなーれー」


と猿蟹合戦のカニのようにつぶやき続けました。他に思い浮かばなかったのです。ボキャブラリーの不足は深刻です。しばらく怪しい儀式を続けると、坊ちゃまが隣で歓声をあげられました。


目を開けると、早くも種から芽が出て双葉どころか四葉くらいまで葉っぱが出るほど成長しているではありませんか。驚異的な成長スピードです。しかし、何度か繰り返してふらっと軽い虚脱感を覚えたので「これがMP切れというものでしょうか」と呟くと、坊ちゃまに変な顔されました。ともかく、無理は良くないということで数日に分けて実験することにしました。



数日後、そこには真っ赤なトマトほどの大きさとなったククリの実がっ!

元はイチゴ程度の大きさのはずでしたが、正直やりすぎました。

そして甘さの方も、まるで煮詰めた砂糖漬けを食べているような甘さ。


甘くて瑞々しい果物を想像していたのに、食べるには甘すぎてコレじゃない感があります。甘い物好きの私の舌でこの反応なんだから、男の子の坊ちゃまには辛そうですね。齧った後に苦い顔してぺっぺっと吐いていましたので、そっと布巾を渡しておきました。メイドのたしなみです。発想の着眼点は間違ってないと思うのですが、結構魔法をかけるその加減が難しいようです。加減をあやまって大鍋一杯分を収穫してしまったので、どうしようかとメイドさん方に泣きつきましたら、これを他の果物と煮詰めてジャムにしてくれました。砂糖を使わないジャムだからコンフォ……、えぇとコンフィ……なんとやらでしょうか。酸っぱい系の果物も入って、見事な美味しいジャムが出来上がっておりました。メイドさんたち凄いよ。



作られたジャムは、旦那様や奥様の朝食にも振る舞われ、たいへん好評をいただきました。もとは私の失敗作だったので気まずそうにしていますと、意地悪な顔をした坊ちゃまにあっさりとバラされ食卓に話題を提供してしまいました。皆様の前で「おいしくな~れ」の実演は勘弁してもらいたかったです。あれをお仕事でやっている前世のメイドさんのいる喫茶の人に尊敬の念を覚えました。もう顔から火が出る思いでございました。


そして、私の緑魔法の実験の話になると旦那様が庭園の端っこを私の試験場、もとい菜園にしてみないかと仰られました。私としては嬉しいご提案なのですが、どうやら旦那様も奥様も私が「趣味」を持ったことに喜んでいただいているようです。あまり我儘を言ったことはない私の事を心配してくださっていたようでした。旦那様、奥様、ずっとここで飼ってくださいませ。わふん。坊ちゃまも「遊びに行っていい?」と笑顔で聞いてこられましたが、わたしが坊ちゃまを拒もうはずがありませんよ。即答で了承させて頂きました。


そうして、庭師のお爺さんに手伝ってもらいながら、私のプライベートスペース「ココのさいえん」が誕生したのでした。


もう自然と笑顔が零れてしまいますね。さぁ、次はどんな果物や野菜を品種改良しましょうかね?坊ちゃまの嫌いな青野菜類を美味しくしちゃって、食べた後にネタ晴らし、これで坊ちゃまを驚かせてみたいですね。そうと決まれば早速、種を幾つか貰ってきましょう。さてさて、楽しみです。



更新ペースが今くらいの方が字数が安定するような気がします。

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