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魔王と輪舞曲を  作者: ひらみ
魔王たちと輪舞曲を
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少女の門出とその冒険に

 

 

 

目覚めの良い朝。やわらかな日差しを受け止めわたしは歩いている。足取りは軽く淀みを感じさせない。下ろし立ての制服の所為だろうか身体に羽が生えたみたいに軽快だ。白のブラウスの上に着込んだ紺色のブレザー、首もとにワンポイントの赤い柄のリボンが風に煽られて小さく揺れる。


 緑を基調とした白と深緑のチェック柄のプリッツスカートがわたしの踏み出す足の動きに合わせて小躍りしている。見慣れた景色すらも今日はどこか輝いている気がした。世界中の息吹が感じられる早朝。

 花が咲いたようにわたしの心にも一点の光がある。

 親しみ深い商店街を抜けていくと、馴染みの薄い駅前通りへやってきた。駅に入るような用事なんて限られている。せいぜい隣町に服や小物を買いにいく程度しかない。田舎町ってなにかと物揃えが悪いから服にしても小物にしても1つ世代外してるのだ。なのでもっぱらわたしは少し栄えた隣町に向かうことにする。

 そっちのほうがお財布事情にも優しいしねっ。


 それはさておき。

 小さな駅に入ると二度、三度と見慣れぬ時刻表を眺めて視線を巡らせる。今日はいつも利用する電車とは違うからだ。胸の動悸がおさまらない。高揚を覆い隠せそうもない。なぜなら今日はわたしの入学式。

 この春、わたし鹿島恵(かしまめぐみ)は“エリシオン高等女学院”に入学することになったからだ。


 やってきた電車に乗り込むとドア近くに滑り込んだ。車内を見渡してみるけど人気は無い。少しだけ早めに登校したのが功を成したのだと思う。もしかしたら元々こっち側に通勤するような人間が居ないだけなのかもしれないけど。


 わたしは窓のほうへと振り返り流れゆく景色を眺めた。眼下には見慣れた街、それらが段々と遠ざかっていくのが見える。幾分寂しさも感じるたりもするけど、それを上回る緊張がわたしの身体には浸っている。はっきり言って何の取り柄のない人間である。小さな頃から運動も勉強も嫌いだったわたしが名門と謳われるお嬢様学校である“エリシオン女学院”に入学するのだから不思議なこともあるもんだ。


 “エリシオン女学院”は初等部から中等部、高等部、そして大学まですべて敷地内に収まっている超巨大学院だ。一貫した教育を施すことで“真の人間に足る人格育成を目指す“という方針らしい。そこらの事情はわたしには分からないが“古いしきたり”、伝統などがいまだに息づいているらしい。

 だから近代化によって緩和されていく現代では希少な学校だと思う。


 なぜそんな学校に自分が入学するかというと『たまたま』なのだ。本来なら今まで自分が住んでいた街になる高校に通うべきなんだろう、と思う。


 でもわたしは嫌だった。

 今までの生活も、今までの街も、今までの友人も、

 今までのすべてが嫌になってしまった。


 環境に罪はない。すべてはわたしの愚かな行動のの結果だ。もし中学という時間をやり直せるというのなら、わたしは間違いなくあの日々を選択セレクトするはずだろう。

 思い出すだけで胸の奥がチクリと痛む。あれは帰らぬ黄金の日々で――。

 はちみつみたいな甘い記憶をコールタールのような真っ黒の珈琲が塗り潰すように。

 わたしの心の瑕は未だ癒えきっていない。


 あの日々の思い出を遠ざけたくって。思い出してしまう環境から逃れたい一心だけでわたしはエリシオン女学院を志望をした。

 正直に言えば受かる気などなかった。わたしは中学三年半ば辺りの間、部屋に引き篭もって自悔の淵に沈み込むだけの日々だった。生きてることが嫌になって自暴自棄に陥って世界のすべてを恨んだりもした。そんな中、親を納得させる動機が欲しかったというだけの理由で受けたのが名門と言われる女学園への志望だった。


 あの時のことを思い出すだけで恥ずかしい。暗闇の中で自分の心を傷つける行為を繰り返していたわたしは親身になってくれた友達の力のおかげでなんとか社会性を取り戻すことが出来たのだった。


 けどこれはまた別の話。しかし神様は意外なところで天恵をくれたりする。無謀だと思われた志望校への合格通知。晴れてエリシオン女学院に合格したわたしは学院の一員になるべく通い慣れぬ電車に乗って登校をしているわけだったりする。


 そんなことを考えている内に隣町の駅『久里砂市』に到着したらしい。わたしは出勤するサラリーマンの間を潜って階段を早足で駆け下りていく。改札口に切符を押し込むと軽快な音と共に出口を隔てるためのドアが開いた。


 ここからは自分の未知の世界。想像するだけで心臓が早鐘を打つ。


 1歩。2歩。3歩。両の足が鼓動に合わせて弾む。改札口を通り抜けて駅前まで駆け出すとステップを踏んでトンっとしっかり踏みしめた。


 ここが久里砂市。


 ここからわたしの新しい生活が始まるんだ。





               /





 先に行っておくとわたしは方向音痴だ。それもかなり重度のくらいにあると言っても誇張じゃないくらいに。見知った街でも少し回り道をしたり、知らない曲がり角を行くとそれだけで方角を見失う。異次元に迷い込む。

 これは方向音痴の人間にしか分からない感覚だと思うけど、地図なんて無意味なのだ。あれは方角や現在位置を正確に把握してこそ初めて意味を成すものであって、踏み出した瞬間に異空間に迷い込んでしまう人間にはなんの意味も無い。

 繰り返そう。意味が無いのだ。結論から言うとわたしは大いに迷った。大通り道沿いに歩けばいいと弟に言われて地図まで渡されたというのに完全に迷宮入りしている。事前に細かくチェックを入れて迷わないようにって散々準備をしたって言うのに、結果としては無駄な努力だったと言うしかない。


 わたしは遠くに聳える学院のシンボル『時計塔』を諦観の目で見つめながら思わず溜息をついた。さっきからどーも同じところをグルグルと回っているだけにしか思えず繰り返すばかり、「もうこれはだめかもわからんね」と諦めかけた時、背後からわたしに話しかける人がいた。


「あれ、メグじゃん。なにしてんの?」


 背後から見知った声が聞こえてきてわたしはそっちに振り返る。


「ああああ! 倉子っ、良かったぁ。わたしこのままミイラになっちゃうかと思ったよ」


 わたしの反応に目を剥く倉子。それもそうだろう。話しかけたら縋るような目で幼馴染みが迫って来たんだから。けれど幼馴染みはいつもの鋭さを以て、わたしの今現在の状況を素早く理解してしまったらしい。苦笑混じりに戯けた様子でわたしに話かける。


「そりゃ大げさな。ん~~いつも通り道に迷ったワケか。いまメグってば学院とは逆方向に行ってるよ、そっちだと私の砂白高校に行くことになっちゃうと思うけどね」

「ああ、やっぱりこっちじゃないんだ。なんとなくそんな気もしてたんだけど」


 ここで補足しておくと方向音痴の人間には方角的な正しさは皆無である。つまりどっちに行こうがどちらを選択しようが自己の行動を疑ってかかる習性があるのだから。


「しっかたないなー。私がちょっくら校門前まで付いて行ってあげるからお姉ちゃんについて来なさい」

「えっでもいいの?」

「幼馴染みのメグをここに放置して、登校出来るほど倉子お姉ちゃんは意地悪じゃありません。ほら、置いてくよー」


 簡素にそれだけ言うと倉子はゆるりと自転車を降りた。そして自転車を旋回させてわたしが先ほど来た方向に向けて歩き出す。そして昔から馴染んだ爽やかな笑顔を向けて手招きをしてくれた。


 彼女は小栗おぐら倉子くらこ。砂白高校に通う高校二年生。さっき彼女が言ったように1つ上の幼馴染みだったりする。高い身長、金色のショートカット、流れるように涼やかな瞳。まるで外国人のような容姿だ。


 昔から幼馴染みの少女くらこはいつもわたしのことを気にかけてくれていた。悩んだ時も落ち込んだ時も楽しい時も苦しい時でも共に居てくれる幼馴染み。それだけじゃなくて誰にだって優しくて気遣いが出来るスーパーお姉ちゃん。弱点はちょっと面倒臭がりで運動嫌いというところ。「私は文学少女なの」というのは本人の談。実際のわたしは彼女が運動をしている場面を見たことが無いからおそらく本当に嫌いなんだろうって勝手に思ってる。

 いつも飄々としていて一言で表すなら“あかぬけている”そんな言葉が最も似合う女子高生じゃないかなってわたしは考えた。


「――で」


 大通りに戻ってきたわたし達。二人で歩きながら倉子は口を開く。

 自転車を両手で押しつつわたしの様子を伺うように言葉を漏らした。


「メグ姫の心境は如何かなー?」


 ぼう、と空を見つめながらそんなことを聞いてきた。一瞬、何のことだろう? と悩んでみたがわたしと倉子はあの日以来会ってない。聞きたいことなら多分あのことをぐらいしか無いだろう。わたしは倉子のほうを見て若干だけど硬い笑みを向ける。


「うん、もう平気かな。」


 そう言ってみたけど全部が全部本当じゃない。でも倉子に無駄な心配をかけさせたくないからわたしはあえて嘘を付いた。 


「そりゃ良かった。私さ、こう見えてメグのこと心配だったんだよ。あれから少し経過たちはしたけど」


 そこまで言って口を閉ざす。あのことを紡ぐにはまだ“重いんじゃないか”という倉子の気遣いだろう。こういう気遣いをなんでもないような事のようにサラリと嫌み無く言えるのは倉子の才能かもしれない。倉子の言葉はまるで魔法のように人同士に生じてしまう壁のようなものを解きほぐす。

 唇から発する涼やかな言葉はそんな空気を持っているのだ。


「きついと思ったらそう言ってね。じゃないとお姉さんは悲しいから」


「うん、分かってる。なにかあったら倉子を頼る。約束したんだもん。わたしだけじゃ抱えきれないなら誰かに頼らなきゃダメだって」


 あの日の誓いを口に上らせる。それほど前のことでもないのにすっごく昔のことみたいに思えた。


「うん、頼ることは恥じゃない。誰にだって壊れそうになる時は必ずあるから」

「だからこそ倉子には感謝してるの。あの時、倉子が居なかったらわたしは本当に対人恐怖症になっていたかもしれないし……」


 そういう私の顔を倉子は見つめて一つ苦笑を漏らすとまた正面に向き直る。


「でもさ、メグ。一度壊れてしまった心は――元通りにはならない。心の痛みはね、時間と共に薄れて消えていくけど。心の傷は勝手に消えたりどこかへ言ったりはしない。それはずっとわたし達が抱えこむものだから」


 彼女は言いながら遠くの空を見つめている。痛みは記憶の曖昧さがいつか消し去ってくれることもある。けれど一度残った傷は消えたりはしないのだ。

 それはある日突然に目の前で開かれたりすることだってある。

 倉子の無言に深い独白が込められていたような気がした。わたしはその横顔を見つめる。それはどこかここではないナニカを見つめているようで少しだけ倉子が遠くに感じてしまった。


「ま、私が言いたいことはなにかあったら私に頼りなさいってこと。いいね?」


 わたしを見ないままで穏やかな口調で諭すと彼女は笑う。


「うん、当然だよ。だってわたしたち友達じゃない」

「まったくだ。私たち幼馴染みだもんね」


 見つめ合いふたりでクスクスと笑った。幼い頃から続けられているふたりの思いは今もそのまま何一つとして変わらない。穏やかな日々、これからもきっとふたりはそう生きていけるってそう感じられた気がした。倉子はわたしの傷がまだ癒えてないのを心配してくれていた。確かにわたしの瑕は癒えることはないのかもしれない。でもそんな時、彼女が側に居てくれるということはなによりも嬉しかった。いつだってわたしを庇ってくれているお姉ちゃん。


 ――ありがとう、倉子。

 わたしは心の中だけで友人に礼を言うと、やがて見えてきた桜並木にその足を踏み入れた。





                /





「到着っと。いやぁ、意外に間に合うもんだねぇ」


 桜並木の緩やかな上り坂を登り終えるとその先に大きな校門があった。歴史と伝統を感じさせるような石造りの門。左右に伸びる巨大な壁はまるで障壁、どこかの監獄を連想させるほどに強固な作りをしている。何者をも拒絶する外壁、威圧するように聳え立つ門構へ。どこかの城に迷い込んでしまったんじゃないかと勘違いしてしまうほど幻惑的な光景に圧倒されてしまう。


「ありがと、倉子っ。これで遅刻しなくてすみそうだよ」

「うん。けど私が道案内出来るのはここまでだけどね。そのまま入っちゃうと私が捕まるし」


 首を振って「いいよいいよっ」と答えた。

 流石に幼馴染みを不法侵入者にしてまで道案内してもらうというのも道徳的なものでどうなんだとも思うし。やっぱりここからは自分の足で行かなきゃならないのだ。そして倉子の学校は真逆だ。つまり倉子は遅刻確定だってこと。


「大丈夫、ゴメンね。倉子を遅刻させちゃうようなことになっちゃって」

「別に良いんだよ。メグを放っておけないし。それに私の遅刻は日常茶飯事だから。何とでも言い訳が立つんだ」

「……へー」


 相変わらずわたしの幼馴染みは奔放な生活をしているらしい。気が向かないと学校にもいかない。風の向くまま気の向くまま。


 本人曰く――。


「ほら、私って前世がロマだから」


 知らないし。前世がジプシーだなんて妙なな発言を披露されても幼馴染みとして色々、その……困る。そんな異相の人、倉子は気にした様子もない。ただわたしの顔をじぃっと見つめてなにかに気付いたように目を細めた。


「そうそう、メグ」

「なに?」

「なんか異性関係のトラブルがありそうだよ」


 出た。

 わたしの脈拍が跳ね上がる。彼女の不思議な力。

 昔から倉子は感が鋭くて捜し物や落とし物を見付けるのが上手だった。それだけじゃない。彼女の話だと漠然とだが人の未來を観ることが出来るということらしい。彼女に言わせれば「普通だよ。少しだけ“人と違う目線”で“人を捉えている”だけだから」とのこと。だけど未だにわたしは視えた事もないし、他の人も視えたという報告もない。つまり彼女だから出来る一種の才能だってことだ。


「異性? 同性じゃなくて異性なの?」

「うーん、なんだかもやっとしてて正確に“視え”てこないからなんともいえないけど。うん、たぶん異性じゃないかな」


 これから男子禁制の女子校での寮生になるわたしには一番ほど遠い予言のような気がするけど……


「先生とか……そんなろまんす?」

「メグ、年上趣味か、そういえばパパさん好きーって言ってたもんね」


 いきなり忘却の底に仕舞い込んで鍵を何重にも掛けていた戸棚を空けられた、ガラリとな☆ 思わず顔が羞恥で林檎のように赤く染まってしまい叫びだしたい衝動を押し殺す。


「そっ、そんな太古の昔のこと、今出すかなあ!」

「はははっ。私に取ってみれば昨日みたいなことなんだよ。十年前だろうと三年前だろうといつでも変わらないよ。いつの瞬間いまだってわたしは明瞭なんだから」


 その言葉の意味はわたしには理解出来ない。その言葉の質量も意味も“わたしには理解出来ない”。倉子はわたしの様子を見て満足したように微笑を浮かべる。


「うんうん。せっかく相伴したんだから駄賃くらいは貰わないとねぇ。ま、足しにはなった気がするよ。久しぶりにメグの乙女力を見たね」

「ぐぬぬーっ、すっごく恥ずかしいなぁ。こういうからかいは人のいないところでやってよね、倉子」

「で、年上好みなわけ?」


 倉子の奸計に見事に嵌って「うがー」と乙女力ゼロの声を上げつつ倉子にじゃれ付く。校門の前で本校生徒と他校の生徒が暴れてますって通報が入らないことを祈るばかり。


「とにかくっ、異性とろまんすになるようなシチュが本校にはありません!」

「ふーん……じゃあなんだろね、私の景観」


 倉子が踏み込んできて、わたしの顔を覗き込むようにする。パープルアイの瞳が半眼になりわたしの目を凝視した。

 ちょ、っと、顔近い……息が掛かりそう。

 傍目からお目文字すると明らかにそっちのお人。 背景には百合の花。キマシタワコレと思われそうなほど接近している顔と顔。元々、倉子は美人だし、男性にも告白されるが、女性にはそのバイ、でなく倍くらい告白されているほど。たしかにわたしから見ても格好良いと思える同性だし憧れの対象になりやすい人柄だと思う。

 だからってこれは拙い……


「んーん、“視“え難いなー。まだメグ自身、未開の場所だから“意識出来ない”って所為もあるんだろうけど」

「そっ、そうなんだ……ははは」

「んー? なに焦ってんの。私なにかやっちゃったっけ?」

「何でもない何でもない、大丈夫。気にしないでいいから!」


 この至近距離はやばいって。倉子の香りと吸い込まれそうな紫瞳に魅入られてしまうとなにもかも捧げてしまいそうな衝動が沸き上がりそうになる。校門の前なのに。じぃっと見詰められる仕打ちに堪えきれなくなって視線をそむけると首を振って煩悩を打ち払う。


「そか。てことで倉子お姉ちゃんからの最後の助言ね。“異性問題に気をつけろ”ってね」

「異性かぁ、なんだろうね、実際」


 まるで見当が付かない。いつも倉子が言うことは中っていた所為もあってか居心地が悪い。


「分かんない。もしかしたら空から降って来たり、校門くぐったら赤ん坊の男の子を拾ったりするんじゃない?」

「あり得ないけど倉子が言うとそうなりそうだからヤメテ」


 きっぱりと否定する様が可笑しいのか笑いを押し殺すように「くくく」と低く倉子が笑う。


「大丈夫、その類じゃない。それだけは保証出来るよ」


 いつもより漠然としている云い口にわたしは複雑な表情になりながらもうん、と一つ頷いた。


「さて、あまり他校の制服で此処をうろついてると変な勘ぐり受けちゃいそうだからそろそろ私、行くから」


 わたしが苦笑を浮かべている様を見るとご機嫌の様子で頷きながら倉子は自転車に跨がる。


「ああ、うん。ありがと、倉子。なんだかすっごく助かったし、気が楽になったカモ」

「気にしない。友情はプライスレス。大切なものだしね」


 ウインクを一つするにとっても美人は絵になる。 おまけに同期するように桜が倉子の周りを彩るように吹き上げていくと、自然まで美人の味方かっなんて馬鹿なことを考えたり。


「ありがとう、倉子。じゃあわたしもそろそろ行くね」

「うん、じゃあまた。暇が合ったら遊ぼうか、電話するよ」

「分かった、じゃあ行ってきます!」

「いってら。てことで私も行ってきまー」


 手を振り合い、わたしは校門の内側へ。彼女は校門から遠ざかっていく。

 ふいに立ち止まって後ろ姿を見送った。幼馴染みは振り返ることなくそのまま地平線の向こうに消えようとしていた。


 心細さが沸き上がって忘れてた病魔が這い上がってくる。

 それを胸の奥で押さえ込むと背中を向けた。

 もう振り向かず――その先へ。



 季節は春―――。

 桜舞う季節。

 咲き乱れる桜葉の乱舞の中をわたしは行く。

 暖かな日差しとキンとした風がわたしを包み込んで幻想に包まれていた憧憬に誘おうとする。耳に残る甘さを振り切って歩む。

 胸を擦る想いはあれど。

 今日は新たな一年の始まり。

 忘れ得ぬ瑕は痛むけれど、ただ歩く。

 まどろみのような時間は終わったのだ。



 そうしてわたしの長いようで短かったあの日々が始まりを告げる。

 ちょっぴり甘く、ほろ苦い。

 黄金色の日々。

 




 4月――わたしは魔王と出会った。






初投稿になります。

稚拙な作品ではありますが読んで頂けたら幸いです。


尚、誤字脱字など見つけられましたら教えて頂けたら嬉しいです。


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