ヒモのお誘い5
電車を降りるとそこは今まできたことがない街だった。
こっちと言われるままに彼についていく。
「駅から徒歩6分。近いしょ?」
彼が住んでいるマンションはごく普通のありふれたマンションだった。
「…俺、やっぱ帰ります。」
彼の部屋まできて俺は急に帰らなきゃと思った。
「ダメ。なんかほっといたらまた飛び降りに行きそうだし。」
それでも玄関からあがらない俺をみてハァと溜息をつくと俺をじっと見た。俺はいたたまれなくなって目をそらした。
「俺のヒモになるんじゃないの?だからついてきたんじゃないの?」
俺は子供みたいにブンブンと首をふった。
わからない、わからないんだ。どうしていいか。
「俺たちはもう知り合い。死にそうな知り合いを俺はほっとかない。…とりあえずあがったら?」
鈴木の部屋はどうすればこうなるのだろうかと思うくらい散らかっていた。
「ソファーで今日は寝て。明日空いてる部屋片付けるから。」
夕飯どーすっかな、と言いながら鈴木は片付け始めた。
俺もとりあえず一緒になって片付けをした。
出前で夕飯をすますと(俺はもちろんあまり食べれなかった)、鈴木は仕事があるからと言ってリビングからでていった。
電気を消し、ソファーの上で横になる。
普段よりゆっくりとすぎていく時間が心地良かった。
しかし、急に不安になったり、こんなゆっくりしていていいのだろうかとも思った。
携帯電話を開き着信履歴を確認すると何件か部長からの着信がきていた。
部長に電話をするとちゃんと話をしたいと言われたので今度会う約束をした。
部長は忙しいからとても申し訳なくなった。
パチンと携帯電話をとじると暗闇が広がる。
俺はこれからどうしらいいのだろうか。
この先が不安で、やはりあの時死んでしまえばよかったと思った。
死んだら楽になる。考えたくないことも考えなくてすむ。色々なことから逃げられる。
あの時鈴木を無視して飛びおりればよかったのか。
「なんで、あの時俺を死なせてくれなかったんだ。」
俺は暗くなった部屋でポツリと呟いた。
「助けてって背中にかいてあったから。」
独り言だったのにいつのまにかリビングにいた鈴木は答えた。
「…俺は、俺は生きてても、意味がないんだ。いないほうがいいんだ…」
助けなんて、求めていない。
助けて、なんて言ってはいけない。
必要ない俺は生きてても意味がないんだ。
「生きるのに意味なんていらない。」
鈴木は俺の側にくると眠れないだろと言った。
おまじない、と優しく言うと鈴木は俺の目に手をあてた。
その手はとても温かくて気持ち良かった。
「お疲れ様。ゆっくりお休み。」