散歩
ことりと男の日常風景・1
「ねえ、お散歩したいの」
小春日和の庭。
金の鳥籠を大事そうに抱えて歩く男にかけられたのは、不機嫌な声。
「今、しているだろう?」
足を止め、男は言った。
「私と君は、散歩中だよ?」
不思議そうに鳥籠を見下ろす男に。
「私はお散歩したいって言ってるの!」
鳥籠の中からは。
「違う! こんなの違うのっ!!」
不機嫌極まりない返事。
「違う?」
さきほどまではにこやかだった男の顔が。
「自分の足で、歩くの! お庭を歩きたいの! あなたなんか大嫌い!」
自らの失敗に気づき、険しいものに変わった。
「……わかった」
数日後。
「この庭は外の庭よりいいだろう?」
男が『庭』を用意した。
「鳥籠が鳥小屋になっただけじゃないっ!」
室内に置かれたのは。
金銀の柱を持つ瀟洒な……鳥小屋。
「ほら、見てごらん。草花だけじゃなく、池もあるんだよ?」
宝石で縁取られた池には、輝石で作られた観賞魚。
「馬鹿馬鹿っ! あなたなんか嫌い!!」
「そんなに気に入ってくれたのか。良かった」
「え? なんでそうなるのわけ!?」
満足気にうなずく男に、思わず聞き返し。
「大嫌いが嫌いになったから」
その答えに、言葉を無くす。
幸せそうに微笑む男に。
与えられたご褒美は。
「っ……ばかぁあああ!!」
愛しい人の、叱咤の叫び。
ことりの鳴き声が大好きな男には、罵声すらも可愛いさえずり。