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優しさを知れた日

これは私が彼と出逢えた切なく淡い物語

いつものように仕事をこなす午前10時過ぎ、パソコンの音がオフィスに響き渡り緊張が走る。

職員皆が何気なくタスクを捌いている中、私だけどこか上の空だった。

私は、今まさに隣の彼に話しかける準備を整えていたのだ。

いつも冷静で温厚な彼。

私の胸が高鳴っていることに気付いていないだろう。

そんな彼を気になり始めたのは、夏の始まりだった。


この夏は一生忘れられない、暑くどこか懐かしい匂いがした。

会社の飲み会が終わり、まだ少し肌寒い夜道を歩いていた中、彼はポツリと「まだ帰りたくないな。」そう一言。

驚いた私は、自分の心臓の音で殆ど彼の声色がかき消されていた。

皆に向けた一言か、隣を歩いていた私に向けた一言か、脳を掻き乱した。

考えただけで心臓が煩い。

収まれ収まれ…

確かに私は聞こえていたのに、「あっちで何か歌ってる人がいる!」と河川敷で弾き語りをしている男性を指差し、格好付けて聞こえていないフリをしてしまった。

今思えばなんて滑稽なんだろう…。

しかし、もう後戻りは出来なくて、この時から私の恋は始まっていたんだ。


結局、彼の一言に対し聞き返す勇気の無かった私は、皆と別れた後、最寄り駅についてすぐにその日の写真を見返した。

彼の写真は一枚だけ。

楽しそうにも見えた反面どこか周りに気を遣っている彼を見て彼らしいなと、なんだか嬉しくなった。

帰宅し、ベッドに寝転がりながらも暫く写真を見返した。

(よし、今日はこの気持ちの良いまま寝てしまおう。)浮ついた気持ちのまま私はゆっくりと目を閉じた。



2話へ続く

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