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魔術学院最強の戦士が、親友に絡んできたので、絶対に逃さなかった話。

作者: 四十早
掲載日:2026/04/05

前作を読んでいなくても読めます。

 しばらく前に、ファルダとリアーゼは、夕食会を通して、友人となった。

 二人は、初めて対等に語り合える友人を得た。


 ――だが、その関係はすぐに試されることになる。


 リアーゼは、新種の薬草から新たな調合薬を発見した。

 ファルダは、そのことに深く感銘を受けていた。


「彼女の努力と情熱には心を震わされた」


 リアーゼもまた、ファルダに尊敬以上の眼差しを向けていた。


「彼女の言葉に私は何度も胸をうたれたの」


 彼女たちの変貌ぶりは、周囲を驚かせた。

 それからの学院の日々は、二人にとって前よりずっと明るいものになった。


 学院では、魔法と剣や槍、様々な武器を合わせた戦い方を学ぶ。

 ――そして、薬草学も重要な講義の一つだった。


 リアーゼは、薬草学の講義のあと、親しい友人と共に、お昼を食べに食堂に向かう途中だった。

 ファルダも魔法学の講義のあと、学院の広場でリアーゼを見つけた。

 声を掛けようと、足を向けた矢先だった。


 ファルダの背後から鼓膜を震わせるような怒号が飛んだ。

「戦いすら出来んものが、なぜもてはやされるのだ!」


 振り向くと、男は一人、腕を組み、リアーゼを睨んでいた。

 彼女とは対照的に、男の周囲には誰もいなかった。


 ファルダの横を風を切るように進んだ男は、リアーゼに歩み寄り、あと数歩でぶつかるというところで足を止めた。


「調子にのるな。リアーゼ・エイロス」

 体格の良いエルフの剣士が、リアーゼを見下ろしていた。


 そこは自然と調和した広場だった。

 いつもなら、あちこちで弾む声が聞こえている。

 みなが思い思いに一日を過ごす場所だったはずなのに、囀る鳥たちも息をひそめた。


「叡智の女神に愛されているなどと、誰が信じるものか。出来るのは知識をひけらかすだけで、どう戦うのだ」

「愛されるように努力を惜しまず、私は私の戦いをしているの」


「何の戦いだ。俺の目指す剣聖バルザードのように、魔法だけではなく剣の腕も確かでなければならない」

「私の目指すところとは違うわね」

 リアーゼは、はっきりと、凛として返した。


「今は戦争の時代だ。エルフのためにならんことをして、どうする。剣だ、剣を学べ。俺が教えてやろう。この学院には、骨のある指導者がおらん。つまらんところだ」


「それが、私に声をかけた理由?」

「そうだ。薬草学? 戦いには何の役にも立たん。治癒魔法で済む話だ」


 そのやり取りを目にしたファルダは、一歩、二歩と進み、リアーゼに声をかけた。


「ごきげんよう、リアーゼ。お昼を一緒にと思ったのだけど、私の手は必要かしら」

「ごきげんよう、ファルダ。あら、よろしいの? あなたがいてくれたら、私とても嬉しいわ」


「ファルダ? ああ、お前のことを知っているぞ。言葉の神に祝福されたらしいな。さえずる小鳥が、増えたところで何になるというのだ」


「初めまして。わたしは、ファルダ・ヴァンスマイト。ご用は何かしら」

「俺の名を知らんのか? まあいい。邪魔だ、俺はそこの女に用があるのだ」


「知っているわよ。先日の剣術大会で優勝していたわね」

「ならば聞く必要がないだろうに、それとも覚えられなかったのか」


「初めまして。わたしは、ファルダ・ヴァンスマイト。ご用は何かしら」

「あん? 何のつもりだ」


「初めまして。わたしは、ファルダ・ヴァンスマイト。ご用は何かしら」



「……俺を侮辱する気か」

 風の音と、葉を揺らす音が、かすかに耳に残った。



「おかしいわね、言葉が通じなかったようね。ここは、エルフの森のエダンテ魔術学院。礼節と誠意の門を通ったものだけが、学ぶことができる場所よ。覚えてなかったのね」

「それがどうした。お前に名を名乗って何になるというのだ。知らんのか、エルフが名乗るとき、それは相手に敬意を示す場合のみだ」


「そうよ、だから私は最初に名前を名乗っているの。あなたは、それに対する礼節がなかったの。言葉が違うと思うのは自然よね」

 大男は沈黙とともに、ファルダに鋭い目を向けた。

「……」


「この学院は剣聖バルザード、賢者ネオネス、氷槍姫ゼイナが作りし学院よ。バルザードの名を出すということは、その意思と義務を背負わなければならない。だけど、あなたの剣はバルザードに届かないと、自分で教えてくれているのね。ありがとう」

「な、なんて口の悪い女だ」


「知らなかったのなら、教えてあげましょう」

 そう言って、ファルダは静かに言葉を重ねた。


 剣聖バルザードも最初、薬草学などと鼻で笑っていた。

 あるとき魔獣との戦いで、瀕死になった。

 治癒魔法も効かず、死を待つのみだった。

 彼の師エヴァンが探し出した薬草によって、命を拾った。

 ――師の元から飛び出したあとで。


 剣聖は恥を知った。

 そこから彼は学び直した。

 そんな出来事があってからよ。

 ――薬草学は、この学院でも重要視された。


「だから、知っていたのなら、今日このような真似はしなかったはずよ」

「な、なんだと……」


「初めまして、わたしは、ファルダ・ヴァンスマイト。あなたの名前を聞かせてほしい」

「……」


「あら、ここで名乗るのが恥だと知っているのね。あなたもお昼ご飯はまだでしょう。ご一緒しましょう、あなたの剣を聞きたいわ」

「くそっ……」

 大男は、そういって広場から足を遠ざけようとした。

「待ちなさい」

「なんだ、何か用か? 口の悪い女め」


「リアーゼに謝りなさい」

「なぜだ」


「なぜ? 彼女に無礼な真似をしたのに。名前も知らない人を、剣の師匠などと呼べるわけがない。それとも口説きに来たの? ならワインの話をしに来ることね。彼女が剣の話で酔うことはないわ」


「……殺すぞ」

 大男は、鞘に手を掛けた。

 広場の空気が張り詰めた。二人を見ている者たちが喉を鳴らした。



「剣を抜きなさい。いいわよ。私、弟子だけど、やる?」

「きさまが? ――バルザードの弟子だと」


「そして、あなたは私に負けるの。そうしたら名前を名乗りなさい。バルザードと同じ恥を知ることができる」

 大男は、手にかけた鞘から、手を離さない。


「あなた、治癒魔法で治らなかったら、どうするつもり? そのまま死を受け入れるわけ」

「そうだ、誇りは死と共にある」


「闇の森で毒蛇に噛まれて、誇り高く死ぬ――そういうのね」

「なに!?」


「これから魔物と戦う仲間を置いて、あなたは死ぬのね」

「……」


「あなたの剣があれば、仲間は死なずに済んだ」

「――ば、ばかを言うな」


「未来の話をしている。一つ聞くわ。あなたの剣は、誰のためにあるの」

「当たり前のことを、エルフの仲間を守るためだ」


「死ななければ、その剣をまたどこかで振れる。仲間は助かる。でも、そうしない。おかしいわ、嘘をついているのはだれかしら」

「――うッ」


「バルザードは命を拾い、そして、また仲間のために剣を振るい続けている。今も。ずっと。これからも。あなたの目指すバルザードは、剣だけではないはずよ」

「……エヴァンの薬草……毒の治療薬なのは知っている」


「知っていたのね。毒は治癒魔法では治らないことも多い。剣聖でさえも、魔獣相手に一人で勝つのは危険を伴う。あなたには仲間が必要なのではないの? 剣聖は賢者に氷槍姫、多くの仲間と歩んできた。あなたは誰と歩むのか。私はリアーゼと歩む」

「お、俺は……くッ」


「リアーゼは、新しい治療薬の原料を見つけた『叡智の女神の化身』なの。この学院で薬草学を学ぶどころか、新たな発見を惜しまずに、皆に教えているのよ。これから、多くの仲間は助かるでしょう。――彼女がいなくなったあとも、ずっと」

 大男は、ファルダから視線を外した。


「彼女に必要なのは剣なのか。あなたに必要なのは、彼女に剣を教えることなのか」


 ファルダは、大男の剣が届くところまで進み、見上げた。


「名もなき剣士よ。バルザードを超えたいのなら、恥を知り、仲間と共にあるべきだと思うわ。――その剣は仲間に向けるものなの?」

 名もなき剣士は、目をつぶり、しばらく沈黙した。


 そして、鞘から手を放し、背筋を伸ばした。


「二人に、名前を名乗らせてもらう」

「俺は、ルーク・ドラウベルグ・ラズ=シルヴァン。――今日ここで恥を知った」


「バルザードに一歩近づいたわね。仲間と共に」

 大男は苦く笑い、「仲間と共に」と言葉を紡いだ。


「リアーゼ。すまなかった。俺の驕りを許してほしい」

 そう言って、ルークは一礼して、広場から去っていった。



「嬉しいわ、私のファルダ。私も、あなたと共に。それに――今日も抜群ね!」

「私のリアーゼには、口も手を出させないわ」


「ありがとう。ふふ――弟子ね」

 リアーゼは、くすくすとやわらかく笑った。


「そうよ。お昼の後は、氷槍姫のところに行くの。私、弟子だもの」

 二人は顔を見合わせ、小さく笑った。

本作の前のエピソードになります。


魔術学院一位の天才に夕食で恥をかかされたので、「水とワイン」でこてんぱんにやり返した結果、友人になった話。

https://ncode.syosetu.com/n9318lz/

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