■第22話「回収の理由」
夜は深く、街の喧騒も少しずつ沈んでいく。
だが、その外れにある古い建物の中は、静かな緊張に包まれていた。
灯りは最低限。
無駄な音は一切ない。
そこは、拠点だった。
表には出ない組織の、仮の拠点。
昼間、カイルと交戦した男は、奥の部屋に入ると椅子に腰を下ろした。
扉が閉まる音が、やけに大きく響く。
「どうだった」
先にいた男が声をかける。
机の向こう側に座っているその男は、資料に目を落としたままだった。
「報告を聞こう」
淡々とした声。
感情は薄い。
だが、その場の空気を支配する力があった。
「確認した」
戦っていた男が答える。
「対象は確定だ」
短い言葉。
だが、それだけで十分だった。
机の男が顔を上げる。
「例外、か」
「そうだ」
「観測は?」
「不可能」
即答だった。
わずかに沈黙が落ちる。
机の男は、興味深そうに指を組んだ。
「理由は」
「不明」
再び即答。
「だが」
一瞬だけ間を置く。
「結果だけが成立している」
その説明は曖昧なようで、核心を突いていた。
「過程が見えない」
男は続ける。
「攻撃は当たらない」
「触れられると崩れる」
「だが、どちらも理由が確認できない」
部屋の空気がわずかに重くなる。
机の男は小さく息を吐いた。
「なるほど」
短く言う。
「確かに例外だな」
納得ではない。
だが、判断は下されている。
「強さの分類は」
机の男が聞く。
「上位」
即答だった。
「少なくとも、単独での対処は困難」
その言葉に、机の男は軽く頷く。
「予想通りだ」
資料を一枚めくる。
そこには、いくつかの記録があった。
同じように“測れない”とされた存在。
だが、それらはすべて別の結果を迎えている。
「過去の例外は、どう処理された」
戦っていた男が聞く。
「分類は三つだ」
机の男が答える。
「一つは制御可能な個体」
「これは利用する」
指で軽く机を叩く。
「二つ目は不安定な個体」
「これは隔離」
そして。
「三つ目」
わずかに声が低くなる。
「制御不能」
短い沈黙。
「これは排除だ」
その言葉に、部屋の空気が一段冷えた。
戦っていた男は、少しだけ目を細める。
「今回のはどれだ」
「まだ判断できん」
机の男は首を振る。
「だが」
視線が鋭くなる。
「放置はできない」
それは確定事項だった。
「回収優先だ」
机の男が言う。
「失敗した場合」
一瞬だけ間を置く。
「排除に切り替える」
その言葉には迷いがなかった。
戦っていた男は軽く頷く。
「了解した」
「対策は?」
机の男が続ける。
ここが本題だった。
戦っていた男は、少しだけ考える。
「ズレている」
言葉を選ぶ。
「位置か、結果か」
「どちらかは分からない」
「だが」
指を軽く握る。
「当たらない理由は、必ずある」
机の男は頷く。
「当然だ」
「現象に理由がないことはない」
それがこの組織の前提だった。
「ならば」
戦っていた男は続ける。
「“当たる状態”を作る」
「どうやって」
「数で潰す」
即答だった。
「単発ではズレる」
「だが、同時なら」
わずかに目を細める。
「逃げ場はなくなる」
机の男は少しだけ考えた。
「理屈としては正しい」
「だが」
「完全ではないな」
「分かっている」
戦っていた男は答える。
「だからもう一つ」
「環境を固定する」
その言葉に、机の男の目がわずかに動く。
「閉じる、か」
「そうだ」
「動ける範囲を制限する」
「ズレの余地を減らす」
机の男はゆっくりと頷いた。
「いい」
「現実的だ」
そして、最後に。
「もう一つ」
戦っていた男が言う。
「本人の反応」
「何だ」
「変化があった」
少しだけ間を置く。
「一瞬だけ、対応が変わった」
それは、重要な情報だった。
机の男の視線が鋭くなる。
「限界がある、ということか」
「可能性は高い」
完全無欠ではない。
わずかでも変化があるなら、それは“穴”になる。
「そこを突く」
戦っていた男が言う。
「次は通す」
断言だった。
机の男は、ゆっくりと立ち上がる。
「いいだろう」
その声は静かだったが、強い意志があった。
「全体を動かす」
その一言で、場の空気が変わる。
「総員に通達」
「対象、優先回収」
「失敗時は排除」
短い命令。
だが、その重さは大きい。
「了解」
戦っていた男が答える。
それで決まった。
カイルは、完全に“対象”になった。
机の男は、窓の外を見る。
遠くの街の灯りが見える。
「久しぶりだな」
小さく呟く。
「ここまで明確な例外は」
その目には、興味と警戒が混ざっていた。
「壊すか」
低く言う。
「取り込むか」
そのどちらかしかない。
曖昧なままにはしない。
それが、この組織のやり方だった。
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一方、その頃。
⸻
ギルドの部屋。
カイルはベッドに座り、ぼんやりと天井を見ていた。
グレンはまだ落ち着いていない。
「なあ、本当に大丈夫なんだよな」
何度目か分からない問い。
「何がだ」
「全部だよ!」
セラは笑っている。
「大丈夫でしょ」
「根拠は!?」
「なんとなく」
「一番ダメなやつだ!」
ナナは静かに言う。
「動きが変わる」
「何がだ」
「次の戦い」
短い言葉。
だが、重い。
「対策される」
その通りだった。
さっきの戦いは、あくまで“確認”だ。
次は違う。
本気で取りに来る。
カイルは少しだけ考える。
(……まあいいか)
結論は変わらない。
どう来ても。
結果は同じになる。
ただ。
その過程が、少しだけ変わるだけだ。
外の世界は、動き始めていた。




