第4話 絶望を纏う来訪者
翌朝。
関ヶ原の夜明けは、驚くほど静かだった。
朝霧が低く立ち込め、草原が白く霞んでいる。
遠くで鳥が鳴いた。
風はまだ冷たいが、昨夜ほどではない。
三人は小高い丘の上で、三成の陣への進路を確かめていた。
風雅が地面に木の枝で簡単な地図を描き、紬が今日の未来の糸を読み直している。
愛里はぼんやりと霧の向こうを眺めながら、昨夜の焚き火を思い出していた。
――その時だった。
「おい」
声は、感情の起伏を一切感じさせない平坦なものだった。
機械の合成音を人間に近づけようとして、完全に成功しなかった時の声。そんな印象がある。
いつの間にか、近くの小高い岩の上に一人の青年が立っていた。
朝霧の中から現れたのではない。
霧があった場所に、突然そこにいた。
それだけだ。
現代的な、いや、現代よりもさらに洗練されたタイトな黒いスーツを着ている。
喉元まで閉じた立ち襟に、細い金のラインが入っている。
青年の顔は整っていた。
だがその美しさは、感情を持たない精巧な人形のそれに似ていた。
朝の霧が、彼の足元でだけ、すっと引いた。
「お前たち、こんな所で何をやっている」
青年の冷たい視線が、三人をひとりずつ値踏みするように動く。
「何者だ!」
風雅が即座に立ち上がり、抜刀する。
紬は無言で愛里の手を引き、自身の背後へと隠した。
「俺は綾小路蓮。三〇九五年から来た」
三〇九五年。
その次元の違う数字に、風雅の思考を一瞬だけ止めた。
「三千年だと……?戯れ言を」
「戯れ言ではない。この時代は歴史の特異点だ。関ヶ原において徳川家康が天下を統べることで、のちの数百年にわたる『完璧なる管理社会』の礎が築かれる」
蓮は淡々と、まるで報告書を読み上げるように言葉を紡いだ。
「俺の任務は、その歴史の演算に混入したノイズを排除し、予定調和の未来を保護することだ。そしてこの時代に、現代の座標を持つ『異物』が混入しているという警告が出た」
「人の世の行く末を、貴様ら未来の人間が盤上の駒のように操ると言うのか!傲慢な!」
風雅の怒号を、蓮は鼻で笑った。
「傲慢?違うな。これは管理だ。感情で歴史を語るな、未開の時代の人間には理解できまい。俺たちは神の代行者だ」
蓮の視線が、風雅と紬を通り越し、背後で震える愛里へと固定される。
「……そこでお前だ。お前、何処から来た。この時代の人間じゃないな。事象の波長が違いすぎる」
「わ、私は二〇二四年から……なんか、おじさんに『石田三成を勝たせろ』って言われて……」
『石田三成』という単語が出た瞬間。
蓮の瞳の奥で、決定的な何かが動いた。
熱ではなかった。もっと冷たい何か。機械が標的を補足した時のような、冷静で、完全な、殺意だった。
ここまで読んでくださり、圧倒的感謝です…!本当にありがとうございます!
面白かった、ここがツッコミどころだ等々、皆様からの感想をドシドシお待ちしております!
ちなみに名前の通り『語彙力皆無マン』がお送りしておりますので、語彙力の無さはデフォルト仕様です。どうかご容赦くださいませ…!次話も頑張ります!




