表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/9

第3話 夜の語らい

 

 陽が落ちると、関ヶ原の秋は牙を剥く。


 風雅が薪を拾い集め、小さな焚き火を起こした。

 燃え上がった炎が三人の顔をオレンジ色に照らす中、彼はすぐに寝息を立てはじめた。

 戦場の男というのは、眠れる時に眠るものらしい。

 

 焚き火を挟んで、紬と愛里だけが起きていた。

 

「眠れないのですか」


 紬が静かに問いかけると、愛里は焚き火を見つめたまま頷いた。


「当たり前じゃないですか。見知らぬ時代の、見知らぬ山の中で、明後日には合戦があるなんて言われて、どうやって寝ろっていうんですか」

「そうですね」


 紬はくすりと笑った。

 柔らかい、本当に可笑しそうな笑い方だった。


「私も最初はそうでしたよ。未来が見えるからといって、慣れるものでもありませんから」

 

「お姉さんは……ずっとこういう生き方をしてきたんですか。未来を視て、戦って」

「生まれながらに視えていました。望んだわけではないのですが」


 紬は少し夜空を見上げた。焚き火の光が届かない、深い藍色の空だ。


「最初は怖くてたまりませんでした。誰かの顔を見れば、その人の死が見える。笑っている人の未来に、泣き顔が見える。だから私は、なるべく人の顔を見ないようにして生きていました」

 

 愛里は何も言わなかった。だが、その横顔が少しだけ変わった。

 

「……私も、似たようなことがあって」

「ええ、知っています」

「視たんですか、私の過去」

「いいえ」


 紬は首を振った。


「視るまでもなく、分かりましたから。貴方が『化け物扱いされる』と言った時の顔が、かつての私とまったく同じでしたので」

 

 愛里は黙って膝を抱えた。

 焚き火がパチリと爆ぜる。

 

「……今は怖くないんですか。人の死が見えるのが」

「怖いですよ」


 即答だった。


「ずっと怖いです。ただ……鬼龍院様と出会ってから、少し変わりました」

「どう変わったんですか」

「視えた未来を、変えられるのだと分かったからです。最悪の未来は、決定ではない。そう分かったら、この眼が少しだけ、怖くなくなりました」

 

 愛里はちらりと、眠る風雅の横顔を見た。


「あの侍、家族を殺されたって言ってましたよね」

「ええ」

「それでも……あんなに真剣に私のために頭を下げて。なんか、すごい人ですね」

「そうですね」


 紬の声が、少し柔らかくなった。


「鬼龍院様は、誰かのために怒れる人です。それはとても、難しいことなのですよ。自分のことで手一杯な時に、他者のために本気になれる人間は、そうはいません」

 

 しばらく、焚き火の音だけが続いた。

 

「あの……聞いていいですか」


 愛里が少し躊躇ってから、口を開いた。


「お姉さんは、この戦いのこと……未来は、どう視えてますか。私たち、ちゃんと……勝てますか」


 紬はすぐには答えなかった。

 炎を見つめていた。

 その横顔には、昼間と変わらない穏やかな微笑みがあった。

 だが愛里には、その微笑みの奥に何かが隠れているような気がした。

 

「貴方が無事に帰れる未来は、視えています」

 

 それだけ言って、紬は静かに目を閉じた。

 

「……それだけ、ですか」

「それだけで、十分ではないですか」


 紬が目を開け、愛里を見た。

 その目は真っ直ぐだった。


「山口様。貴方はこの先、とても怖い思いをすることになります。でも覚えておいてください。貴方が持つ力は、貴方を化け物にするものじゃない。貴方が誰かのために本気になった時にだけ、輝くものです。だから、どうか……」

 

 紬はそこで言葉を切り、もう一度だけ、夜空を見上げた。

 

「どうか、怯えないでいてください」

 

 愛里はその横顔を見つめた。

 聞きたいことがあった。

 本当はもっと、確かめたいことがあった。

 でも何故か、これ以上は聞いてはいけない気がした。

 

「……はい」

 

 愛里は静かに答えた。

 焚き火が、また一つ爆ぜた。

 

 

 その夜、二人はしばらく並んで炎を見ていた。

 言葉もなく、ただ火の揺らめきと夜風の音の中で。

 愛里が気づいた時には、紬の瞳がまた、どこか遠いところを見ていた。

 未来を視ているのか、過去を見ているのか、愛里には分からなかった。

 

 ただ、その横顔が酷く静かだったことだけは、ずっと覚えていた。

 

 いつの間にか、愛里は眠っていた。

 最後に見たのは、焚き火の炎と、その向こうで空を見上げ続ける紬の横顔だった。

ここまで読んでくださり、圧倒的感謝です…!本当にありがとうございます!

面白かった、ここがツッコミどころだ等々、皆様からの感想をドシドシお待ちしております!


ちなみに名前の通り『語彙力皆無マン』がお送りしておりますので、語彙力の無さはデフォルト仕様です。どうかご容赦くださいませ…!次話も頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ