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第2話 異分子の邂逅

 



 数分後。




 ガサガサ、ガサガサと草を掻き分ける音と共に、一人の少女が愚痴をこぼしながら歩いてきた。




「いっったぁーい……!なんなのもう、マジで。どこ? ここどこ?スマホは圏外だし、転んで足すりむいたし、スカート泥だらけだし……あのおじさん、マジで最悪。訴えたい。ガチで訴えたい」


 雑木林の端から、一人の少女が姿を現した。

 制服姿。ブレザーの袖に泥がついている。片方のイヤホンがケーブルごと引きちぎれて、首にぶら下がっていた。ヘアピンが一つ取れかかっている。

 それでも彼女は、丘の上に立つ二人の人影を見つけた瞬間、パッと表情を輝かせた。


「あ! 人だ! すみませーん! ここって、どこですか!?」

 

 風雅は目を丸くして、その奇妙な少女を見つめた。


(なんだあの装束は。見たことないぞ。あの短い袴のような、しかし色が……)


「ここは関ヶ原だが」


 少女は駆け寄りながら、一瞬だけ足を止めた。


「……関ヶ原?」

「いかにも」

「関ヶ原って……あの、関ヶ原?」

「他に関ヶ原があるのか」

「一六〇〇年の?」



 少女は天を仰いだ。


 

「一六〇〇年!?」



 絶叫して頭を抱え、その場にしゃがみ込む。「嘘でしょ」「嘘でしょ」と繰り返す声が、草原に虚しく響いた。


「にしても、なんだその装束は。どこかの異国のものか?」


 風雅が尋ねると、少女は顔を上げてむっとした。


「は? 制服ですけど。学校の制服。っていうか逆にそっちこそ何ですか、その格好。コスプレですか? 刀、めちゃくちゃリアルじゃないですか」

「コス、プレ?」

「……ヤバい、話が噛み合ってない」

 

 少女は深呼吸をして、恐る恐る確認した。


「あの。今って、ほんとに一六〇〇年ですか」

「あぁ。」

「じゃあ、ほんとに私、タイムスリップしたんだ……」

 

 その言葉を受けて、紬が静かに前へ出た。


「貴方のお名前を、聞かせていただけますか」

「山口愛里です。昨日まで普通に二〇二四年に生きてた女子です。それが急に深夜に謎のおじさんに呼び止められて、『石田三成を勝たせてこい』って言われて光に飲まれたら気づいたら山奥にいて、ここが一六〇〇年の関ヶ原って言われて、もう頭がパンクしそうです」

 

 愛里が一息で捲し立てると、紬は真剣な表情でゆっくりと頷いた。

 

「鬼龍院様」


 紬が振り返る。


「この方こそが、さっき言っていた能力者の山口様です」

「……おいおい」


 風雅はため息をついた。


「ただの子供じゃないか。俺より頭一つ小さいぞ」

「身長は関係ないと思うんですけど!?」

 

 愛里が反論したが、風雅は構わず彼女を真っ直ぐに見た。


「愛里。俺たちに力を貸してくれないか」

「…………は?」

「この戦に勝つために、あんたの力が必要だ」

 

 愛里は一歩後ずさった。それから二歩。


「嫌ですよ……っ! なんで私がそんなこと……! 戦いとか、絶対に嫌だ!」


 制服の胸元をぎゅっと握りしめ、吐き捨てるように続ける。


「それに……私、もう誰の運命にも関わりたくない。また変に目立って、化け物扱いされるのは嫌だ……。ただ普通に、静かに、誰にも迷惑かけないで生きていきたいだけなのに……!」

 

 その声には、怒りだけでなく、長い時間をかけて積み重なってきた傷の重みがあった。

 

 風雅はしばらく黙っていた。

 それから、彼は静かに愛刀を鞘ごと腰から外し、地面へと置いた。

 刀は、風雅にとって武士の魂だ。

 それを地面に置くことは、己の誇りを地面に置くことと等しい。

 そして彼は、膝をついた。

 そのまま、深く、深く頭を下げた。

 

「頼む。俺にはどうしても討たなきゃならない敵がいる。家族を殺した仇がいる。だが一人では力が足りない。……あんたの力なしに、俺には何もできない。そのためなら、武士の矜持など、いくらでも捨てる」

 

「ちょっ……頭、頭上げてくださいよ……」


 愛里は狼狽した。

 こんな本格的に頭を下げられる経験など、生まれて一度もなかった。


「なんで侍に土下座されてんの、私……」

 

「未来から来たと言ったな」


 風雅は顔を上げ、真剣な目で告げた。


「俺の師匠は、時の流れを読む隠遁者だ。あんたを元の時代に帰す術も、必ず知っているはずだ。この戦いが終われば、俺が責任を持ってあんたを師匠の元へ連れて行く。約束する」

 

「本当……?」


 愛里の目が揺れた。


「でも……万が一、帰れなかったら?」

「その時は、俺が一生かけてあんたを守る。それも約束だ」

「……一生って、武士の人そんな気軽に言っていいんですか」

 

 圏外のスマートフォンを握りしめ、愛里の目からボロボロと涙がこぼれ落ちる。

 見知らぬ山奥、近づく戦火、肌を刺す秋の冷気。

 一人きりでこの時代に取り残される恐怖が、胸の奥から溢れ出してくる。

 

「山口様」

 

 紬がそっと愛里の傍らに寄り、その背中にそっと手を添えた。

 触れるか触れないかの、羽のように軽い接触だった。


「貴方が無事に元の時代へ帰る未来は、私には視えています。それだけは、何があっても変わらない」

「……お姉さん、未来が見えるんですか」

「ええ。だからこそ、今の貴方がどれほど怖いかも、分かります」


 紬は愛里の目を真っ直ぐに見た。


「怖くて当然なのです。でも貴方は今夜、ここで一人でいるよりも、私たちと一緒の方が、ずっと安全です。そして、いつか必ず帰れます。私たちを、信じてはいただけませんか」

 

 愛里はしゃくりあげながら、何度も深呼吸をした。自分にはもう、この二人に頼るしか道がないのだと悟ったからだ。

「……絶対ですよ」

 涙を袖で拭い、今度は涙が出てこないよう天を仰ぐ。

「絶対に、私を元の時代に帰してくださいね。約束破ったら、一生恨みますからね。成仏できなくなるくらい恨みますよ」

「気迫だけは一人前だな」

「うるさいです」

 

 それでも、愛里の口元に小さな笑みが浮かんだ。

 風雅がようやく安堵の表情を浮かべ、刀を拾い上げた。


「なら、今夜は休め。明日からが本番だ」

「……本番って、何をするんですか」

「作戦を考える。三成の陣営に近づく方法、それから愛理の力をどう使うか」

「全然具体的じゃないですよ……」

「一晩ある。考える」

 風雅はそれだけ言って、薪を拾いに草原へ歩いていった。

 愛里はその背中を見送りながら、ため息をついた。

 頼もしいのか頼りないのか、まだよく分からない侍だった。

 

 夕陽が稜線に沈んでいく。

 関ヶ原の空が、赤から紫へ、紫から深い藍色へと変わっていった。

ここまで読んでくださり、圧倒的感謝です…!本当にありがとうございます!

面白かった、ここがツッコミどころだ等々、皆様からの感想をドシドシお待ちしております!


ちなみに名前の通り『語彙力皆無マン』がお送りしておりますので、語彙力の無さはデフォルト仕様です。どうかご容赦くださいませ…!次話も頑張ります!

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