第1話 関ヶ原、黄昏の丘にて
一六〇〇年。
秋の関ヶ原は、数日後に控えた大戦の気配を孕み、どこか息苦しいほどの静寂に包まれていた。
夕焼けが赤黒く空を染める小高い丘の上。
鬼龍院風雅は、冷たい風に吹かれながら、黙々と愛刀の刃こぼれを指先でなぞっていた。
少し離れた場所では、御門紬が静かに空を見上げている。
その身に纏う装束が、不吉な北風に大きくなびいていた。
「……本当にこんな所に、歴史を変える者が現れるのか」
風雅が疑わしげに尋ねると、紬は視線を空から外し、穏やかに微笑んだ。
「ええ。私の視る未来の糸が、この丘に向けて一点に収束していますから。もう間もなくです」
「その割には、のんびり空を眺めているじゃないか」
「心配しても、来る時は来ますから」
飄々とした答えに、風雅は小さく鼻を鳴らした。
家族の仇を討つため、あてもなく旅をしていた風雅の前に、彼女は突然現れたのだ。
最初はただの胡散臭い陰陽師だと思った。
「貴方の剣だけでは、仇に届く前に死ぬ」
と告げられた時は、斬り捨てようかとすら考えた。
だが、彼女の予知は本物だった。
紬が視る「最悪の未来」と、風雅が追う「得体の知れない力を持つ敵」。
二人の目的が同じ線の上にあると知った時、風雅はこの奇妙な女に背中を預ける覚悟を決めた。
「あんたのその眼……未来が見えるってのは、不便なものだな」
「どうしてですか?」
「自分の死に様まで、見えてしまうんだろう」
風雅の問いに、紬は伏し目がちに笑った。
一秒か、二秒か。その沈黙は、肯定だった。
「だからこそ、抗うことができるのです」
彼女の声は、いつもより少しだけ低かった。
「私一人の力では、この先の未来を変えられなかった。でも、鬼龍院様と出会い、そしてこれから現れる『能力者』が加わることで……歴史はようやく、希望の方へと動くのです」
「……希望、か」
「信じていますよ。私が視てきた未来の中で、それだけは変わらない」
風雅は刀を鞘に納め、立ち上がろうとした。
その時、ふと気づいた。
紬の横顔に、一瞬だけ、凪いだ海のような静けさが滲んでいたことに。覚悟を決めた者が持つ、あの静けさ。嵐の前ではなく、嵐を知った後の人間の顔だ。
風雅は問わなかった。だが、その横顔が胸の底にひっかかったまま、離れなかった。
「来ますよ」
紬が少し離れた雑木林の方角を指差した。
直後、木々の隙間で不自然な青白い閃光が弾け、鳥たちが一斉に空へ飛び立った。
ここまで読んでくださり、圧倒的感謝です…!本当にありがとうございます!
面白かった、ここがツッコミどころだ等々、皆様からの感想をドシドシお待ちしております!
ちなみに名前の通り『語彙力皆無マン』がお送りしておりますので、語彙力の無さはデフォルト仕様です。どうかご容赦くださいませ…!次話も頑張ります!




